若い芽の音楽会〜北国を翔ける新星
北海道教育大学・札幌大谷大学の卒業生・在校生12組が出演
2021年10月16日14:00 札幌コンサートホールKitara小ホール
プログラム
<サクソフォン四重奏>
ソプラノサクソフォン/大石 涼 アルトサクソフォン/近本 歩実
テナーサクソフォン/岩城 光大 バリトンサクソフォン/城 史花
マスランカ:レシテーション・ブック 第5楽章
村松 崇継/浅利 真編曲:生命の奇跡 for SAXOPHONE QUARTET
<木管五重奏>
フルート/中島 由衣 オーボエ/大堀 祐香 クラリネット/井上 葵
ホルン/金崎 紗奈 ファゴット/山田 陽未
ツェムリンスキー:ユーモレスク
ダンツィ:木管五重奏曲 ヘ長調 作品68-2より 第1楽章
<フルート・デュオとピアノ>
フルート/類家 千裕、越中 萌々香 ピアノ/泉 そよか
真島 俊夫:紅~2本のフルートとピアノの為の
第1曲 「秋風」、第2曲 「黄昏色」、第3曲 「紅燃ゆる」
<ピアノ・ソロ>
ピアノ/畠山 桃子
ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 作品36より
第2楽章、第3楽章
<サクソフォン四重奏>
ソプラノサクソフォン/鈴木 ゆりあ アルトサクソフォン/中村 寿
テナーサクソフォン/渡邉 丈留 バリトンサクソフォン/伊藤 拓朗
伊藤 康英:木星のファンタジー
長生 淳:彗星 トルヴェールの「惑星」より
サクソフォン四重奏のための
<クラリネット三重奏>
クラリネット/鈴木 聖来 ヴィオラ/垣原 慰吹 ピアノ/沼田 唯花
ライネッケ:クラリネット、ヴィオラとピアノのための三重奏曲
イ長調 作品264より 第1楽章
<ソプラノ・ソロ>
ソプラノ/櫻井 彩乃(ピアノ伴奏/石井 ルカ)
ドニゼッティ:歌劇 「アンナ・ボレーナ」
“あなたたちは泣いているの?私の生まれたあのお城”
<ピアノ・ソロ>
ピアノ/仲鉢 莉奈
ブラームス:3つの間奏曲 作品117より 第1曲、第2曲
<オーボエ・ソロ>
オーボエ/大堀 祐香(ピアノ伴奏/田中 望未)
ポンキエッリ:カプリッチョ
<トロンボーン四重奏>
トロンボーン/山田 颯音、金子 奈央、井深 瑞希、和田 圭吾
ブルジョワ:トロンボーン四重奏曲 作品117
<ヴァイオリン・ソロ>
ヴァイオリン/垣原 遥愛(ピアノ伴奏/中村 和音)
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン 作品20
<ピアノ・ソロ>
ピアノ/信濃 りかこ
リスト:メフィスト・ワルツ 第1番 「村の居酒屋での踊り」 S.514
緊急事態宣言解除後の最初のKitara主催事業が北海道で学んだ若手の演奏会だったのは未来への希望が持て、縁起がいい。通常通りの開催となり賑やかさがやっと戻ってきた。
標題の演奏会は音楽コースを有する北海道教育大学と札幌大谷大学から推薦された在校生、卒業生が出演するコンサート。おそらくホール開館7年目の2003年から開催されているシリーズなのでもうすぐ20回だ。
全員満を持しての出演で、特に管楽器アンサンブルのレベルの高さに感心した。
サクソフォーン四重奏は二組、いずれも現代の作品を演奏。演奏テクニックは安定していて、楽器のサウンドもきれい。
両組ともとても音楽的で、クラシックの枠にとらわれない自由で伸び伸びした感性で、技術的な難曲も、静かで落ち着いた曲も申し分なく表現されており、なかなか聞きごたえのある演奏だった。中でも長生淳作品の多彩な表現が特に良かった。このジャンルは、一般にはなかなか馴染みがない分野だが、作品と楽器の魅力を充分伝えてくれたのではないか。
トロンボーン四重奏は全員安定したテクニックの持ち主で、よく歌い込まれたアダージョが印象的。各楽章の対比が鮮やかで、楽しめた。
木管五重奏は今回の管楽器アンサンブルの中では唯一クラシックな作品を演奏。落ち着きある演奏で、ダンツィの明るく伸びやかな音楽が若々しく表現されていた。
フルートデュオとピアノは紅葉を迎える今の季節にピッタリの作品。衣装もお揃いで素敵。色々なフルートが登場し、楽器の音色も楽しめたが、このアンサンブルは、3人のサウンドがばらばらになることがなく、しっかりと大きな一つの響きとなってまとまって聴こえてきたのが素晴らしい。アンサンブルとしての深みを感じさせたとてもいい演奏だった。
オーボエソロは技術的に高度な箇所も難なくこなした名演だ。オーボエにとっては超絶技巧の作品なのだろう、細部まで吹きこなしており、作品の価値をしっかりと伝えてくれた。伴奏はゆとりがあり、オーボエをよく支えていた。
クラリネット三重奏はヴィオラが入った珍しい編成。古典のライネッケの、当時の色々な作曲家の影響を受けている多様な顔が見えて楽しかった。
ヴァイオリンソロは、原曲の熱いエネルギーが伝わり、ピアノともども熱演。
ソプラノソロは、テューバ専攻から2年前に声楽専攻に転向したそう。声量があり表現力豊か。わずか2年でこれだけ歌えるのは、将来が楽しみ。ピアノがドニゼッティの軽快な音楽をよく表現し、いい音が出ていた。
ピアノソロでは、ラフマニノフはピアノが良く鳴っていたし、表現力もあり楽しみなピアニストだ。大男が弾くような大曲をよくまとめていた。
ブラームスはよく歌い込んだ音楽的な演奏。しみじみとした秋の風景にふさわしい。
リストは技術的にも音楽的にもスケールの大きさが感じられた演奏。これから留学するとのこと、将来に期待しよう。
今回のピアノは今までKitaraで聴いたことのない音色。新しいスタインウェイだと思われるが、個性的なサウンドで、興味深い音がしていた。このピアノの音が今後どのように変化していくかも楽しみだ。
この演奏会シリーズでは、本番にありがちなトラブルやミス、もっと技術を身につけなければならない者など課題はいつもたくさんあるが、若いエネルギーが感じられ、毎回心地よい印象を受ける。
2003年のプログラムと比較すると、その内容は大きく変化している。管楽器のアンサンブルが増え、それに伴いプログラムに20世紀の作品が増え、演奏様式も多様化してきている。芸術文化の様式や流行の変化が最も端的に現れてくる演奏会かも知れない。その点でもっと注目されていい。
また来年、どのような新人がデビューするか、とても楽しみである。