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2026/07/11

 PMFベルリン演奏会


2026年7月10日19:00札幌コンサートホールKitara大ホール


PMFベルリン(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団メンバー) 
ステファン・ラグナー・ホスクルドソン(フルート)
ジョナサン・ケリー(オーボエ)
アレクサンダー・バーダー(クラリネット)
シュテファン・シュヴァイゲルト(ファゴット)
サラ・ウィリス(ホルン)
タマーシュ・ヴェレンツェイ(トランペット)
イェスパー・ブスク・ソレンセン(トロンボーン)
フランツ・シンドルベック(パーカッション)

PMFピアニスト
佐久間晃子(ピアノ)


◆P. ミュラー:木管五重奏曲 第2番 ハ短調 


◆リスト(ドクシツェル編):コンソレーション(慰め) 第3番 変ニ長調 

              S. 172
[トランペット、ピアノ]


◆メンデルスゾーン(シェーファー編)
真夏の夜の夢 作品61
[木管五重奏]


◆シューマン(ソレンセン編):歌曲集「詩人の恋」作品48から
美しい五月に/ばらに、百合に、鳩に、太陽/心を潜めよう
君の瞳に見入る時/恨みはしない/恋人の歌を聞くとき

[トロンボーン、ピアノ]


◆T. ブルーメル
木管五重奏曲 作品52


 前日のPMFウィーンが弦楽アンサンブルだったのに対して、今日は管楽器アンサンブル。メンバーは例年多少の入れ替わりがあるようだが、飛び切りの名手たちなので、どの曲目でも申し分ない仕上がりだ。

 管楽器PMF教授陣ではウィーン・フィルのかつてのホルンの名手、ギュンター・へーグナーが旧札幌市民会館でローカリティ豊かな、ふわっとした柔らかい雰囲気の音色で魅了させてくれたことを思い出すが、一方で今日のベルリン・フィルのメンバーは、張りのある力強い音色と乱れのないアンサンブルが特徴で、確固とした妥協のない、現代風、都会風の音楽性が特徴だ。

 奏者もこれぞベルリン・フィルというよりは、インターナショナルなトッププレイヤーの最強集団という印象だ。


 冒頭に演奏されたミューラーと最後に演奏されたブルーメルの木管五重奏はそれを物語る好例。ともかく全員が疲れを知らずによく吹ける奏者ばかりで、もちろんアンサンブルの乱れも、ミスもない。楽章ごとの性格づけもほぼ問題なく、圧倒的な演奏だ。

 これらの木管五重奏は各楽器の個性をうまく発揮した名作であることは確かだが、作品の面白さとしては、編曲版とはいえ、やはりメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」が一番。楽想のオリジナリティ豊かな発想とか、アンサンブルのまとまった響きなど、今日の作品の中ではやはり聞き応えがあった。


 その他に、ピアノ伴奏でトランペットソロでリストの「コンソレーション」とトロンボーンソロでシューマンの「詩人の恋」。

 トランペットソロは作品が短く、本領発揮の前に終わってしまったのが残念。トロンボーンソロは2023年と同じプログラムでの演奏だったにせよ、初めて聴く聴衆も多く、前回同様、弱音主体の無言歌風名演で聴衆を魅了した。

 アンコールが2曲、最後に出演者全員とアカデミー生、パーカッションが加わり、華やかにシング・シング・シングを。

 

 

2026/07/10

 PMFウィーン演奏会


2026年7月9日19:00 札幌コンサートホールKitara大ホール


PMFウィーン(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団メンバー)
ヤメン・サーディ(ヴァイオリン)
ダニエル・フロシャウアー(ヴァイオリン)
バルナバ・ポプラフスキ(ヴィオラ)
ペーテル・ソモダリ(チェロ)
ミヒャエル・ブラーデラー(コントラバス)

PMFオーケストラ・メンバー


◆J. シュトラウス I:ケッテンブリュッケ・ワルツ 作品4

ヤメン・サーディ(ヴァイオリン I)
ダニエル・フロシャウアー(ヴァイオリン II)
バルナバ・ポプラフスキ(ヴィオラ)
ミヒャエル・ブラーデラー(コントラバス)


◆クライスラー:レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース 作品6
◆リヤード・アッ=スンバティ(サーディ編):
序奏とロンガ

                    (「ロンガ・リヤード」より)

ヤメン・サーディ(ヴァイオリン)


◆ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調 作品10


◆メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20

ヤメン・サーディ(ヴァイオリン I)
ダニエル・フロシャウアー(ヴァイオリン II)
バルナバ・ポプラフスキ(ヴィオラ I)
ペーテル・ソモダリ(チェロ I)

ハンナ・キム(ヴァイオリン III)

ティン・ウット・チェン(ヴァイオリン IV)

ダナ・リー(ヴィオラ II)

マシュー・ウィースト(チェロ II)



 注目はやはり初登場のヤメン・サーディだろう。前半は彼を紹介するためのプログラムで、先日のオープニングナイトでも演奏した「ケッテンブリュッケ・ワルツ」から始まり、クライスラーと珍しいエジプトの作曲家、リヤード・アッ=スンバティ(サーディ編)の小品を2曲。いずれも短いアンコールピースだが、まずは簡単な自己紹介といったところか。

 もちろんテクニックは素晴らしいが、音楽が柔軟で聴き疲れがしない。経歴を見るとイスラエル生まれで、早くからインターナショナルな教育を受けていたようで、ウィーン風の洒落っ気あるセンスの良い演奏で、生粋のウィーン人だ、と言われても誰も疑わないのではないか。


 ドビュッシーでは、リーダー役を遺憾なく発揮、的確なアンサンブルによる躍動的な演奏。常設のカルテットのように求心的で、ある一つの目標に向かって突き進む、というよりは上質の優れたアンサンブルを作り上げ、バランスなどの均整感の美を目指し、冷静客観的な解釈を聴かせることが主眼のように思えた。

 常にサーディがリーダーとなりまとめ上げていくが、全体のまとまりある響きはさすが世界のトップオーケストラメンバーだけあって、ハーモニー、バランスなどは申し分ない。また後半の二つの楽章に入ると、ドビュッシーの持つ独特の色彩感などが、張りがあるが、決してひび割れない美しい力強い音色で表現され、これはとても説得力ある見事な演奏だった。


 後半のメンデルスゾーンは、PMFオーケストラメンバーも加わっての八重奏曲。作品自体の特徴でもあるのだろうが、ファースト・ヴァイオリンのサーディが大活躍する作品。ここではPMF生も大健闘、とてもよく弾けており、メンデルスゾーン特有の、疾走する饒舌で華やかな楽想が、鮮やかに表現されスケール感あるダイナミックな演奏で楽しませてくれた。


 サーディはエネルギッシュで、どうだ、私の演奏を気に入ってくれたか、とでも言いそうな自信に満ちた雰囲気がある。才能ある若手に講師陣が若返ることはPMF学生にも聴衆にも活力を与えてくれ、これからのPMFが大いに楽しみになりそうだ。

2026/06/22

 ダネル弦楽四重奏団


2026年6月20・21日各15:00開演 札幌コンサートホールKitara小ホール


ヴァイオリン/マルク・ダネル、ジル・ミレ
ヴィオラ/ヴラッド・ボグダナス
チェロ/ヨヴァン・マルコヴィッチ


ポジティフオルガン/赤枝 サンテソン 留果

 (第26代札幌コンサートコンサートホール専属オルガニスト)※21日のみ


プログラム

DAY 1  

6月20日

メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 作品13
ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調
チャイコフスキー:弦楽四重奏曲 第1番 ニ長調 作品11


DAY 2 

6月21日

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第16番 ヘ長調 作品135

グレンジ:弦楽四重奏とオルガンのための新作
[ポジティフオルガン/赤枝 サンテソン 留果]
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第6番 ヘ短調 作品80



 ダネルカルテットは2005年札幌コンサートホールが初めて招聘し初来日。今回は2024年6月9日以来、2年ぶりの公演で、11回目の来札となる。古典から現代までレパートリーは広い。

 前々回の来札時にも書いたが、このカルテットの印象は当時と大きく変わらないので再掲しておこう。


 ーマルク・ダネルのアクティブで、しかも表情豊かに歌い込まれた演奏が中心に展開されるカルテットだが、内声を担当するセカンド・ヴァイオリンのジル・ミレ、ヴィオラのヴラッド・ボグダナスの安定感が素晴らしい。オーケストラでもそうだが、内声部が充実していると、音が厚く、音楽的にも充実して聴こえてくる。チェロのヨヴァン・マルコヴィッチはいつもバランスの良い演奏をし、飛び出ることもなく、隠れて聴こえなくなることもなく、中庸の演奏で、主張がないようである、というカルテット奏者としては理想的存在だ。ー(2022年6月4日、5日


 DAY 1(第一日目)は作曲家の第一作目の弦楽四重奏曲を特集したもの。なかなか魅力的な構成だ。

 メンデルスゾーンは1827年18歳の作品。明らかにベートーヴェンをお手本としているが、早熟の天才ゆえ、すでにメンデルスゾーン特有の流麗な作風が確立されている。

 冒頭はややマルクが突っ走り気味でどうなることか、と思ったが、第2楽章以降は安定し、特にマルクがノンヴィブラートで弾いてみたり、素朴で民謡風に表現したり、ダイナミックに切り込み激しく弾いてみたりと、その多彩ぶりが素晴らしい。以前よりもより表現の幅が広がったような気がする。もちろん、4人が一体となってメンデルスゾーンらしい覇気のある才気走った、駆け抜けるような鮮やかさが見事に表現されており、2年ぶりのダネル、ますますの充実ぶりが伝わってきて嬉しかった。


 続くラヴェルは2007年10月の札幌公演以来2度目の演奏。メンデルスゾーンとは音色やバランスをガラリと変えて、抑制されよくコンロールされた美しい音色による演奏。強烈なオリジナリティをすでに確立していた若きラヴェル(当時27歳)の様式観が見事に表現されており、聞き応えがあった。

 2007年時の彼らの演奏はもう記憶にないが、以前より一層緻密になったような気がする。


 チャイコフスキーは、2022年にも演奏されている。ベートーヴェンの影響が如実に感じられる作品だが、このカルテットの良く歌い込まれた演奏で聴くとチャイコフスキー独特の情緒豊かな世界が広がり、特に有名な第二楽章、アンダンテ・カンタービレが唯一無二の静謐な世界が展開され、素晴らしかった。

全体的にはロシア的というよりもむしろラテン的な明るさを感じさせた演奏。


 アンコールにショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第1番(!)ハ長調作品49より第4楽章とチャイコフスキーの第1番より第4楽章をもう一度演奏。



 DAY 2(第二日目)は作曲家最後の作品を特集したプログラム。

ベートーヴェンはこの2日間で演奏された作品の中ではやはり別格の傑作であることを再認識。他の作品とは違い、何か特定の感情を表現したり想起させることはなく、優れたバランス感覚による、大きな普遍性を感じさせた演奏。

 一方で、ことさら晩年の崇高な作品だ、という堅苦しいイメージを全く感じさせない。楽しみながら作曲したのであろうベートーヴェンをより身近な存在にし、親しみやすい、新しい作品像を紹介してくれた名演だった。


 フィリップ・グレンジの弦楽四重奏とオルガンのための新作、「Bobok」は饒舌で良く話しかけてくる作品。

 グレンジは初めて聴く作曲家で、プログラム解説によると、この作品は「衰退」と「消滅」を表現しているようで、ドストエフスキーの同名の作品から着想を得たそうだ。日本人の現代作品であれば、静と動の対比、沈黙の重要さを意識させる作品が多いが、この作品では冒頭の静かなオルガンソロはともかく、カルテットが加わってくると、次第に饒舌になり何かおしゃべりに夢中になっているような雰囲気がある。やや鬱陶しさを感じさせる瞬間もあったが、ダネルの集中力のある演奏が終始格調の高さを崩さず、作品の価値をより高めたのではないだろうか。同時に、ダネルを良く知っている作曲家ならではの語り口だったことは確かだ。

 一方で、オルガンは、導入と衰退というこの作品の本質に関わる重要な役割を担っているとも言えるが、欲を言えば、オルガニストの活躍をもう少し聴きたかったところだ。

 この作品は、アンコールにもう一度演奏。細部の印象はずいぶん違って聴こえてきて、一度聴いただけでは本質が理解出来ないことを認識させられた。


 最後のメンデルスゾーンは、同じ調性のベートーヴェンの熱情ソナタを彷彿とさせる爆発する激しい感情の発露をダネルが見事に表現。今、このカルテットでなければ聴けない気迫のこもった激しい感情の爆発のようなものを感じさせた名演だった。日本人であればここまで徹底した表現は出来ないだろう、と思わせるダイナミックで劇的な演奏で、これは実に素晴らしかった。


2026/02/20

 第28回リスト音楽院セミナー 講師による特別コンサート

ミクローシュ・ペレーニ チェロリサイタル


2026年2月18日19:00 札幌コンサートホールKitara小ホール


チェロ/ミクローシュ・ペレーニ
ピアノ/バラージュ・レーティ


J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007
ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ ニ短調 作品40
ミクローシュ・ペレーニ:チェロのための3つの小品
フランク:チェロ・ソナタ イ長調 M.8


 

 2年ぶりの札幌公演。冒頭のバッハはペレーニならではの名演。以前と変わらず、恣意的な表現がなく力みのない自然体の演奏。川が源流から自然に大きな流れになるように、表情が変化し広がっていく。柔らかいボーイングとそこから生まれる落ち着いた音色がより奥行きの深さを感じさせ、こういうバッハは誰からも聴けるものではない。

 ショスタコーヴィッチは、作品の持つ若々しい感性を生き生きと表現し、この当時のショスタコーヴィッチのロマン派への嗜好がよく反映された明るく伸びやかな演奏。

 レーティのピアノが、歯切れよくエネルギッシュな感性を見事に表現、ペレーニとの万全なアンサンブルを構築して、新鮮な作品像を聴かせてくれた。


 後半冒頭の無伴奏の自作は1980年代の作品に最近手を加えて補作したもの。当時の作曲界でよく見られた、何を目指すか試行錯誤し、混沌とした不安な時代観に影響を受けたようにも思える無調の作品だが、けっして無機質にならず、常に歌う旋律が中心に据えられているクラシックなスタイルであるのがいかにもペレーニらしい。そしてチェロの音色の美しさは格別で、おそらく今日最もチェロが美しく響いた作品ではないだろうか。


 最後のフランクはもちろん原曲は有名なヴァイオリン・ソナタ。これも冒頭のバッハ同様自然体で、柔らかく暖かい音色での演奏。スケール感も充分で、この優れたバランス感覚はペレーニならでは。 

 レーティのピアノが、もっとバスを響かせても、という箇所もあったにせよ安定感のある多彩な表現と抜群の音量のコントロールで、ソリスティックになり過ぎず、ペレーニと一体となった見事なアンサンブルはさすが。


 ペレーニの落ち着いたしなやかな感性による演奏は以前と変わらない。レーティとのデュオで、新しいレパートリーを聴かせてくれるようになり、今後がまた楽しみだ。


2026/02/16

 


〈ハンガリーの俊英たちⅥ〉

サバディ・イルディコ  フルートリサイタル


2026年2月14日15:00  札幌コンサートホールKitara 小ホール


フルート/サバディ・イルディコ

ピアノ/荒川 浩毅 (第22回リスト音楽院セミナー審査員特別賞)


ロレンツォ:フランツ・リストの狂詩曲 第2番によるカデンツァ 作品37

ルクレール: フルート・ソナタ ト長調 作品9-7

モーツァルト:アンダンテ ハ長調 K.315 

ライネッケ:フルート・ソナタ「ウンディーネ」作品167

ツィビン:コンサート・アレグロ第2番 変イ長調

バルトーク/ポール・アルマ編曲:ハンガリー農民組曲



 ハンガリーの若手演奏家を紹介するシリーズ、今年はフルート。管楽器では2024年に登場したクラリネットのジョンボル・ダーニエル・エセニが圧倒的な印象を与えてくれたが、今回のイルディコも、バロックから現代まで幅広いレパートリーを繊細な表現力で紹介してくれた優れたフルーティストだ。

 技巧的な華やかさよりは、作品の多彩な個性・特徴を聴かせることに主眼を置いているようで、誠実さを感じさせる演奏家だ。


 ロレンツォのリストのハンガリー狂詩曲第2番によるフルート版カデンツァは初めて聴く作品。ロレンツォはイタリア出身でアメリカで活躍したフルーティストだそうで、おそらくアンコールピースとして作曲されたのだろう。冒頭からいきなり無伴奏での華やかな演奏で、聞き応えがあった。

 ルクレールはオリジナルはヴァイオリンと通奏低音のための作品だが、語りかけるような柔軟で繊細な表現が印象的。

 モーツァルトは、内向的でクラシックな雰囲気を漂わせ、外向的になり過ぎず、かといって地味過ぎず、じっくりと作品を味わいさせてくれた深みのある演奏だった。

 ライネッケはフーケの文学作品「ウンディーネ」に触発されて書いたロマンティックなソナタ。ちょっと渋めで、中々音楽的に一筋縄では行かない作品のようだが、ここではピアノの荒川が表現力豊かな安定した演奏を披露し大活躍。フルートと一体になってファンタジー豊かな世界を聴かせてくれた。


 後半は前半と雰囲気を一転、まず、ツィビンは外向的で華やかな作品で、これは申し分ない演奏。

最後に演奏されたバルトークは抜群の演奏。初めて聴く編曲だが、オリジナルのピアノソロが持つ色濃いローカリティーがなく、よりインターナショナルで色彩豊かな作品に聴こえてくる。バルトークの弟子のポール・アルマとフルートの名手、ランパルによって編曲されたそうで、両パートともに対等に、かつ雄弁に活躍する優れた編曲で、新鮮なバルトーク像を存分に楽しませてくれた。

 全体を通じ、ピアノの荒川がよく考え抜かれた演奏でイルディコを見事にサポート、いい音色による好演で、こちらも今後の活躍が期待される。


2025/10/05

〈フランスの巨匠クープランの音楽を味わい、バッハ最晩年の傑作《音楽の捧げ物》の謎を読み解く!〉

岡山 潔 メモリアルコンサート Vol.5


2025年10月4日16:00  ふきのとうホール


寺神戸 亮/ヴァイオリン

前田 りり子/バロック・フルート

上村 かおり/ヴィオラ・ダ・ガンバ

曽根 麻矢子/チェンバロ


F.クープラン:「諸国の人々」より「フランス人」

J.S.バッハ:「音楽の捧げ物」


 古楽ファンなら知らない人はいない、というメンバーによるバッハとクープラン。期待にたがわず、巨匠2人の作品を存分に楽しめた演奏会だった。

 プログラムに掲載されていた寺神戸のメッセージによると、彼らはクープランを最も得意とするそう。

 しかしながら今日の演奏を聴いていると、作品の内容の違いにもよるが、バッハの方が格段に面白かった。エッジの効いた歯切れ良いリズム感と隙のない緊張感のある演奏で、全曲聴き終えると聴く方もちょっと疲れるほどの好演だった。

 アンサンブルリーダーの寺神戸のアクティヴなヴァイオリン、曽根のしなやかで落ち着き払った風格のあるチェンバロ、前田の全く乱れのない安定感抜群のトラヴェルソ、上村の全体を包み込むようなまろやかな音色のヴィオラ・ダ・ガンバなど、ソリストとしても申し分ない奏者達が一体となったアンサンブルは素晴らしかった。


 このクラスの演奏家だと、作品の凄さに負けずにバッハの醍醐味を存分に伝えてくれる。チェンバロソロの魅力的な3声のリチェルカーレはともかく、個々の謎めいたカノンなど一般的に人気があるとは全く思えないが、バッハのあらゆる作曲技法がこの作品に集約されている。彼らの演奏を聴くと晩年のバッハが到達したとてつもない高みがとてもよく伝わってきて、感心せざるを得ない。それだけではなく、音楽的に美しく深みが感じられ、カノンのテーマなど、さりげなく演奏される主題や対旋律の整った美しさは格別で、特にトリオ・ソナタの厚みのある響きと一瞬たりとも弛緩しない演奏は実に聞き応えがあった。

 アンコールにバッハのフーガの技法からコラールで、最晩年のバッハが目指した対位法による作曲技法の完結を暗示する作品。今日のプログラムの仕上げに相応しい選曲だった。


 前半のクープランが終了した後に寺神戸が「音楽の捧げ物」についての解説を30分近く。このホールの主催事業ではプログラム解説が掲載されていないことがほとんどなので、細かいところまで解説してくれたのはうれしいが、レクチャーコンサートではないので、これらはプログラムノートに掲載し、読む読まないは聴衆の自由選択にするなどの工夫が必要だろう。

 王のテーマの楽譜が一つ掲載されているだけで、聴衆の理解度は飛躍的にアップするはず。演奏者に余分な負担をかけ聴衆を惑わせるよりはプログラム解説を充実させるべきだ。

 

 前半のクープランはバッハと対照的に柔らかな雰囲気を感じさせた演奏。

集中力があり、求心的な演奏であることは、後半のバッハと共通しており、このアンサンブルの真摯な姿勢が伺われてとても良かった。ただ、聴く方としてはときどき、ふっと力を抜いたしなやかさや色気を感じさせるような、もっと色彩感豊かな感覚を味わいたいところ。あまりフレンチらしくなく、もう少し遊び心があってもいいのでは、と思った。

 これは後半のバッハでも多少感じた点だが、そうは言いつつ、今日のプログラムはクープランもバッハもかなりの難曲。それを全く感じさせず、作品の魅力をダイレクトに伝えてくれた演奏者に大きな拍手を贈りたい。