ジャン・ロンドー チェンバロ・リサイタル
2026年3月25日19:00 東京文化会館小ホール
チェンバロ:ジャン・ロンドー
"TOMBEAU DE MONS COUPERIN"
組曲 二調 Suite en Re
ルイ・クープランLouis Couperin(C1626-1661)
Prélude 1
Allemande 35
Courante 42
Courante 43
Sarabande 51
Canaries 52
Chaconne La Complaignante 57
エモン・ゴーティエEnnemondGaultier,dit<GautierleVieux>
(1575-1651)
TombeaudeMezengeau(メザンジョー氏のトンボー)
組曲 二調 Suite en Re
ルイ・クープランLouis Couperin
Duretez Fantaisie(不協和音のファンタジア)
Prélude 2
Allemande 58
Courante 59
Gaillarde 61
Chaconne 55
ジャン=アンリ・ダングルベールJean-HenriDAnglebert(1629-1691)
Tombeau de Mr. De Chambonnières (Suite No.4 en ré majeur: VII.)
(シャンボニエール氏のトンボー)
組曲ト調 Suite en Sol
ジャック・シャンピオン・ド・シャンボニエール
JacquesChampiondeChambonnieres(1602-1672)
Pavanne (Livre II)
ルイ・クープランLouis Couperin
Allemande 93
Courante 94
Sarabande 95
Chaconne 121
フランソワ・デュフォー Frangois Dufaut(1604-1672)
TombeaudeMr.DeBlancrocher(ブランクロシェ氏のトンボー)
ルイ・クープランに寄せるトンボー(哀悼曲という意)と題したプログラム。今年はルイ・クープラン生誕400年。それにちなみ、彼を中心に、ゴーティエ、ダングルベール、シャンボーニエール、デュフォーのトンボーを加え構成された魅力的な極上のプログラム。 今日のもう一つの注目点は、このプログラムを演奏するのに最も相応しい楽器である「初期フレンチ」と呼ばれる17世紀後期のフレンチ様式のチェンバロを演奏すること。
招聘元作成のパンフレットに記載されていた牧田啓佑氏の解説(一部掲載)によると、名工、デイヴィット・レイがヴィオラ・ダ・ガンバ奏者の故千成千徳氏のために制作した2018年の楽器で、今回公の場に初めて登場するそうだ。
この楽器のモデルとなったのは、1679年のヴァンサン・ティボー(Vincent Tibaut)の楽器(名器ゆえチェンバロの歴史関連の本には必ず紹介されている)。 装飾含め忠実に再現しながら、単なるレプリカではなく、今の時代に相応しい楽器として再創造されていて、ステージ上の楽器を見るとヴィジュアル的にもとても美しい楽器だ。
ちょっと面倒なチェンバロの説明をすると、このチェンバロは2段鍵盤で、一音に対して弦が3本張ってあり、ノーマルピッチで上下鍵盤用に各一本(8フィートと呼ぶ)ずつ、そしておそらく下鍵盤用と思われるが1オクターヴ上の音の弦(4フィートと呼ぶ)をオンオフで追加出来るようになっている。
鍵盤は上鍵盤を奥に差し込むことによって上下鍵盤が連動し、同時に弾くことが出来る。つまり下鍵盤だけ(8‘)、上鍵盤だけ(8“)、連動で同時(8’+8”)、それに1オクターヴ上の音を加える(8’+8”+4)、という4種類の基本的な組み合わせがある。
初期フレンチの楽器は粒立ちの明確なサウンドでかなり早い時期から注目されていたが、今回のようにこうして実演で聴くことが出来る機会はそう多くはない。
さて、ロンドーだが、いつものように照明を落として、ほぼ暗闇の中で弾き始め、聴衆にも高い緊張感を要求する独特の雰囲気。しかし、その描き出した幽玄な世界は素晴らしく、何よりも楽器の音色が極上。
各曲は楽譜通りではなく、アルペジオや装飾音など即興が加えられ、テンポが自由自在に伸び縮みして、楽譜通りに演奏している箇所はおそらく一小節もないだろう。いわば、かしこまった楷書体ではなく柔軟で自然な草書体の演奏。このしなやかな即興性と誰よりも深く歌い込んだ、しかも自由で全く束縛されない音楽が、この時代の作品をより聴衆に親しみやすく伝えてくれ、退屈させることは一切ない。
中でもやはりルイ・クープランのテクスチュアが実に豊富で、各声部の対話風な会話やバスの豊かな動きが鮮やかに、しかもそれら全体が一つの調和した大きな響きとして聴こえてきて、それに楽器の音色の美しさが加わり心地良いことこの上ない。ミックスした音(8‘+8“等)も美しいが、それよりはそれぞれ単独で演奏した一本ずつの基音となる音色、特に下鍵盤8’の音色が実に魅力的だ。
この時代の作品群をこれほど魅力的に聴かせてくれる演奏家は数少ないだろう。我々はルイ・クープラン以降の400年の音楽史をある程度知っていて、知らず知らずのうちに、それらと比較対照しながらこれら作品群を聴く場合が多い。しかしロンドーは、そういう聴き方を聴衆にさせず、初期フレンチの楽器の特性と即興性を反映させた演奏で、聴衆を17世紀の遠い世界に誘い、聴き手はあたかも作曲家と同時代の聴衆の一人のように作品のイメージを膨らませることができる。現代のマテリアルによって過去の財産を今に甦らせることができる優れた演奏家の一人と言っても過言ではないだろう。休憩なしで約80分。
アンコールにルイ・クープランの「ブランクローシュ氏のトンボー81」。今日の演奏曲目全てを凝縮させたような演奏でこれで今晩のプログラムは完結。
招聘元によると18日から池末隆、牧田啓佑の両氏が徹底的にメンテナンスを行ったそう。楽器の状態は抜群だったのではないか。
なお、冒頭プログラムの曲目に付与されている番号は、オワゾリール社から出版されているルイ・クープラン作品集(1985)に掲載されている掲載順の整理番号で、作品番号ではない。