2024/01/30

 札幌交響楽団第658回定期演奏会

2024年1月27日(土)17:00 札幌コンサートホール Kitara大ホール


指揮 /マティアス・バーメルト(首席指揮者)

テノール /イアン・ボストリッジ

ホルン /アレッシオ・アレグリーニ


ブリテン:セレナード~テノール、ホルンと弦楽のための

ブルックナー:交響曲第6番



 ブリテンは、1943年にテノールのピーター•ピアーズとホルンのデニス• ブレインのために書かれた珍しい組み合わせの作品。この二人が抜群の名手だったことがよくわかる名作だ。

 楽曲は8曲からなり、プロローグと舞台裏から吹くエピローグはホルンだけで、あとは「夜」に関する様々な心象風景を描いた英語の詩を集めたもの。一読しただけではすぐわかる詩ではないが、ブリテンの陰影ある作曲で、かなり理解することが出来る。時代背景や先輩諸氏の影響を感じさせない優れたオリジナリティを持つ作品だ。


 アレグリーニのホルンは、森の中で遥か遠くから聴こえてくる響きとでも例えればいいのか、最弱音で、透明で透き通ったまっすぐな音や、この楽器でしか聴くことができない美しい音、もうこのポイントしかないと言う見事なピッチで音程を決めるなど、素晴らしい演奏。ホルンのために最も美しく書かれた、最も難易度の高い作品ではないだろうか。このような作品を書いたブリテンと、それを鮮やかに聴かせてくれたホルンのアレグリーニに感心せざるを得ない。

 一方、ボストリッチの歌は、オペラティックではなく、語りかけてくるような朗詠風の表情豊かで知的な歌唱。何かを聞かせようとか声量で圧倒するとかなどの作為的なところは全くなく、詩の背景をある時はドラマティックに、ある時は繊細に表現し、これは秀逸な歌唱だった。

 オーケストラは弦楽器だけで、札響ならではのきれいな音色。表情に節度ある美しさがあって、バーメルトが二人のソリストと一体となって全体を見事にまとめ上げていた秀演。これは何度も繰り返し聴いてみたくなる演奏だ。


 ブルックナーは冒頭から各パートがバラバラに聴こえてきて、今日は不調か、と思ったが、1楽章途中から響きがまとまりだし、いつものバーメルトの音楽が聴こえてきて一安心。弦楽器と管楽器のバランスと調和が心地よく、やはりこのような響きの演奏は落ち着いて聴ける。

 ライブで聴いてみると、響きと構造が実にすっきりとして全体像がよく把握でき、風通しのいい作品だ。書法は、彼の作曲技法のエッセンスが凝縮された典型的なブルックナー様式。しかも演奏時間は約1時間で聴きやすい。ブルックナーがこの交響曲だけは手直しをしなかった理由がわかったような気がする。また、その様式を見事に表現したバーメルトの手腕に感心。


 今日はバーメルト首席指揮者退任前の最後の定期出演。2018年の着任以来、札響から美しい音色と深みのある豊かな響きを生み出し、その優れた音楽性とバランス感覚のある解釈で、札響を日本有数のオーケストラに育て上げてくれた。その功績は素晴らしい。とはいえ今回が最後ではなく、来年はゲスト指揮者として登場予定。楽しみだ。

コンサートマスターは田島高宏。

2024/01/15

 Kitaraのニューイヤー


2024年1月13日15:00 札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/原田 慶太楼
ヴォーカル/シルビア・グラブ*
管弦楽/札幌交響楽団


J.シュトラウスII:トリッチ・トラッチ・ポルカ 作品214
カンダー:ミュージカル「シカゴ」より All that Jazz*
ハーライン:映画「ピノキオ」より 星に願いを*
チャイコフスキー:バレエ音楽「眠りの森の美女」より ワルツ
メンケン:映画「美女と野獣」より 美女と野獣*
J.シュトラウスII:新ピッツィカート・ポルカ 作品449
         ポルカ「雷鳴と稲妻」作品324
         美しく青きドナウ 作品314
エプワース:映画「007 スカイフォール」より スカイフォール*
J.ウィリアムズ:映画「スター・ウォーズ」より メイン・タイトル
ソンドハイム:ミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」より 

                                                                              みんなひとりじゃない*
J.シュトラウスII:喜歌劇「ジプシー男爵」より 序曲
カンダー:映画「ニューヨーク・ニューヨーク」より*




 指揮の原田はKitaraのニューイヤー初登場。 
今日のプログラムは、ゲストにヴォーカルのシルビア・グラブを迎えてのアメリカ音楽特集。それに定番のシュトラウス・メニューが間に挟まる、というアメリカで活動の基礎を築いた原田ならではのプログラムだ。 
 Kitara主催には、2021年の「Kitaraのクリスマス(2021年12月25日)」に出演している。この時の印象と今回もほぼ同じで、原田の指揮は迷いがなく、すっきりとしていて気持ちがいい。当然だが、全ての曲目をきちんと丁寧に振っており、どの作品もそれぞれわかりやすい主張がある。

 シルビア・グラブはもちろんPAを使用してのヴォーカルだが、表現力豊かで実力派、聞き応え充分。

 かつて開館間もない頃は、ここの大ホールは残響豊かなホールゆえ、PAを使用するとステージ上でのトークや歌がわかりにくく聞こえ、なかなか手ごわいホールだった。今回、久しぶりにスピーカーを通してのヴォーカルを聴いた

が、歌詞の内容もきちんと聞き取れ、オーケストラとのバランスも良好、なかなか聞きやすいいい状態だった。もちろんシルビア・グラブだったからこそだが、それ以上にこのホールを自在にコントロールするPAエンジニアの存在が大きいのはいうまでもない。

 今回の席はLC3階席で、おそらく反響板の上にスピーカーが設置されていたのだろうか、かなりダイレクトにヴォーカルが聞こえてきたが、違和感なく、PAの存在を気にせずに聴くことができた。


 指揮者もヴォーカルも前半と後半で衣装を替えての登場、お話もシンプルで楽しく、エンターティナーとしても楽しませてくれた。聴衆は、アメリカ音楽の元気の良さと、シュトラウスファミリーの柔らかい雰囲気を存分に楽しんでいるようだった。大きなくしゃみを我慢をせずに平気でする聴衆に対しても、ユーモアたっぷりに注意。

 「スター・ウォーズ」だけは管楽器のピッチがかなり高く聴こえたように思え、ちょっと気になったが、それ以外はそれぞれ楽しく鑑賞できた。

 アンコールにラデツキー行進曲。


 原田を初めて聴いたのは、2020年11月26日NHK交響楽団サントリー公演で、その時もアメリカ系の近現代の華やかな作品中心。今回はシュトラウスなどの西欧系の作品が加わり、違うレパートリーを聴くことができたが、どちらかというと今はいい意味でのユーティリティ•プレイヤーだ。次はどっしりとした作品をどのように表現するのか、ぜひ聞いてみたくなる指揮者だ。

コンサートマスターは田島高弘。

2024/01/10

 Kitaraのクリスマス

〜道義のラストクリスマス〜


2023年12月23日15:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮 /井上 道義

振付・ダンス /森山 開次

管弦楽/札幌交響楽団


シャブリエ:狂詩曲「スペイン」

ファリャ:バレエ音楽「三角帽子」より第2組曲

ストラヴィンスキー: サーカス・ポルカ

ストラヴィンスキー: バレエ音楽「火の鳥」(1919年版)

アンダーソン:クリスマス・フェスティバル




 引退を表明している井上道義の最後のKitaraのクリスマス。過去Kitaraのクリスマスには2007年から5年連続で、その後は16年、18年、そして今回の23年と登場し、多種多彩なプログラムで聴衆を楽しませてくれた。

 特に印象深いクリスマスは、初回の2007年。

話題となったショスタコーヴィッチ交響曲全曲演奏会を終えての来札で、まだその余韻が残っており、ショスタコーヴィッチの「ジャズ組曲」や「チャイコフスキー三大バレエよくばり版 井上道義セレクション」を気合の入った指揮で聴かせてくれた。

 井上のKitara主催事業初登場は開館の翌年、1998年3月29日のKitara札響シリーズVol.4 「親子で楽しむオーケストラ」。その他では、2000年の「Kitaraのこどもの日コンサート」、04年2月14日の「バレンタインコンサート」にも出演している。

 多彩な才能の持ち主だけに、98年には青島広志氏と共に「動物の謝肉祭」のピアノ演奏を披露。04年はマーラー交響曲 第5番 から「アダージェット」、ラヴェルの「ボレロ」などを指揮、サン=サーンスの「白鳥」の伴奏ピアノも弾くなど、大活躍だった。

 井上の誕生日が12月23日ということもあって、今年は何歳になりました、などといつも楽しいお話しを挟みながらの指揮だった。


 今回はダンスに関する作品がテーマ。

 前半のシャブリエ、ファリャは札響のレパートリーでは比較的珍しいジャンルだ。札響サウンドとは合わないようにな気がしていたが、それは杞憂で、これが実に華やかで素晴らしい演奏。弦楽器も管楽器も明るい音色で、キレもよく、いかにも舞踊音楽だという雰囲気がでていて気持ちの良い演奏。これはもちろん井上の若々しさを感じさせる颯爽としたリズミカルな指揮のおかげだが、札響の隠れた優れた応用力を再発見出来て楽しかった。


 後半はストラヴィンスキー。「サーカス•ポルカ」を井上はお話しの中で散々けなしていたが、こういう点をはっきりと話してくれるのも彼らしい。

 続く「火の鳥」で森山のダンスが登場。ステージ中央奥の扉から登場、即興的とも思える柔軟で表現力豊かなダンスを披露してくれた。ジャンプなど上下の動きが少なかったのが残念だが、これはリノリウムなしの硬いステージ上で演技をするので仕方のないところか。

 演奏はダンスに配慮したテンポなのだろうか、全体的にやや遅め。アンサンブルは煮詰まっておらずやや大雑把な感じを受けたが、ダンスと共に味わうことを思えば、さほど気にはならないレベルか。

 続くアンダーソンとアンコールの「きよしこの夜」は定番メニュー。

 カーテンコールが少なく、最後のクリスマスとしては残念。ただ、あとで彼のブログを読むと「今回は井上は坐骨神経痛にもかかわらずマイナス6度のススキ野に過去のノスタルジーで繰り出し、ハハハ,風邪ひいてしまった。あほジジイ。」と書いてあって、体調不良だったらしい。

 コンサートマスターは田島高宏。


 今回は最後のクリスマスだったが、来たる5月の札響定期に登場予定。これが本当の最後のKitara公演となる。札響との関わりについては、この時に紹介しよう。