2021/12/28

Kitaraのクリスマス


2021122515:00 札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/原田 慶太楼 サクソフォン/上野 耕平 管弦楽/札幌交響楽団


ガーシュウィン:「ガール・クレイジー」序曲
           パリのアメリカ人
プロコフィエフ:交響組曲「キージェ中尉」作品60より Ⅳ.トロイカ
カプースチン:アルト・サクソフォンと管弦楽のための協奏曲 作品50              [日本初演]


バーンスタイン/メイソン編曲「ウェスト・サイド・ストーリー」

                セレクション

R.ロペス、K.A.=ロペス/クログスタッド編曲:「アナと雪の女王」

                        より
アンダーソン:クリスマス・フェスティバル
チャイコフスキー/エリントン編曲:組曲「くるみ割り人形」

                (特別版)



     

 昨年は工事休館中のため年ぶりの Kitaraのクリスマス。場内は盛況で約8割の来場者。指揮の原田慶太楼は三十代半ばの若手で、元気いっぱいだ。体全体でリズムをとりながらエネルギッシュに音楽を進める。エンターティメント的な要素を持ち合わせながらも、オーソドックスで、ポイントをしっかりつかまえた、きちんとした音楽造りをする指揮者だ。

 アルト・サクソフォンの上野耕平を迎えてのカプースチンが素晴らしかった。ソロは淀みなく、クラシカルな部分はもちろんのこと、ジャズセクションの表現も見事で、優れたリズム感と柔軟なテクニックを存分に発揮した、多彩で品の良い演奏を聴かせてくれた。作品は個性的で面白く、飽きさせないのはやはりこの作曲家のすごいところだ。日本初演ということで、これ以上ないベストの出来。この演奏だけマイクで音を増幅して場内に流していたが、もう少し抑えた方が、生音の素晴らしさを堪能できたように思う。


 ガーシュインは二曲ともきれいに整って落ち着いた演奏。「パリのアメリカ人」ではゲストソリストの上野耕平がオーケストラの一員として登壇していた。素晴らしいエネルギーだ。


 プロコフィエフの「トロイカ」はわずか3分ほどの作品だが、今日のプログラムでは唯一の本格的クラシック。オーケストラから今日最も充実したサウンドが出ていて、特に弦楽器の響きが良かった。やはりこの優れた作曲技法はプロコフィエフならではだ。


 後半のプログラムでは、アンダーソンの「クリスマスフェスティバル」がシンフォニックで立派な演奏。毎回必ず演奏される定番メニューだが、これだけ輪郭のしっかりしたきちんとした演奏は初めてだ。


 最後の「くるみ割り人形」はエリントンの編曲版にオリジナルのチャイコフスキー版を加え、特別版と称した組曲。オリジナルは「トレパーク」と「中国の踊り」だけ。あとは完全にジャズ用の編曲で、サックス、トランペット、トロンボーンのソロあり、アンサンブルありで、ビッグバンドの贅沢なオーケストラ仕様版。これは面白く、楽しかった。オリジナルのイメージを残しながら、念入りに編曲された版のようで、いいサウンドが出ていた。ソリストに照明があたり、これは良かった。Kitaraでは珍しい仕込みだ。


 当然のことながら、全体を通じて金管セクションが大活躍。ピッチはいつもきれいで、大きな音でただ吹くだけ、ということもなく(これが意外と本州のプロオケではある)音楽的によくコントロールされた演奏だ。よくありがちなミスもほとんどない。終始安定しており、今日の管楽器群は素晴らしかった。贅沢なシンフォニック・ジャズを堪能したコンサートだった。

 原田は全体のサウンドもうまくまとめており、長時間金管のサウンドを聴かされても疲れない。いい指揮者だ。シリアスなクラシックをどう振るのか聴いてみたいところだ。

 

他に「ウェストサイド・ストーリー」と「アナと雪の女王」より。これらも安定したいい演奏だった。







2021/12/26

回想の名演奏

グスタフレオンハルトチェンバロリサイタル


2009年5月1319:00  札幌コンサートホールKitara小ホール


ルイ・クープラン:パヴァーヌ、組曲 ニ短調

パッヘルベル:ファンタジーアト短調 3つのフーガ

J.S. バッハ:組曲 ヘ短調BWV823

        コラール・パルティータ

       「おお神よ、汝まことなる神よ」BWV767

アルマン=ルイ・クープラン:ラントレピッド/ラ・フランセーズ 

              ラフリジェ

デュフリ:アルマンドとクーラント ニ短調 

     ラ・ドゥブロムブル/ラ・フェリクス/レ・グラース



 古楽界の巨匠、グスタフ•レオンハルト(19282012)は Kitaraで標題のコンサート含め計3回のリサイタルを行なった。初回は991016日、今回紹介する2009年は2回目。3回目が2011年5月25日でこれが最後となった。
 この09年のリサイタルは、後で聞いたことだが、レオンハルト自身も大変満足した出来で、終演後のディナーの時は珍しく機嫌が良かったそうだ。

実際、チェンバロ音楽の豊かさ、美しさ、そしてKitara所有のチェンバロ(ブルースケネディ製作のジャーマン2段鍵盤チェンバロ/ミヒャエルミートケモデル)のサウンドの豊かさが、余すところなく伝わってきた素晴らしいリサイタルだった。   

 2006年に病で一時危篤となったそうだが奇跡的に復活し、その演奏により深みを増した時期での来札で、体調も良く、最後の絶頂期だったのかもしれない。


 プログラムはチェンバロ音楽の精華とも言える作品ばかりで、こういう選択はレオンハルト以外誰も出来ないだろう。チェンバロが最も美しく響く作品ばかりで、何という素敵なプログラムだろうか。

 特に素晴らしかったのは後半に演奏された2人のフランス人作曲家の作品だ。

 アルマン=ルイ・クープランとデュフリは共にフランス革命の年に世を去った作曲家で、フランスクラヴサン楽派の最後の世代だ。大胆な発想を持ち、どこかメランコリックで、世俗的な親しみやすさがある作風が特徴。この中にはチェンバロ以外では表現が難しい、中音域から低音域中心に書かれた独特の雰囲気を持った作品もある。親しみやすい作風ゆえに演奏によっては陳腐に聴こえてしまい、演奏家にとって意外と扱いにくい作品だ。


 レオンハルトの演奏は今ここで即興で生まれたばかりの作品のように新鮮で生命力に満ちており、しかもチェンバロの音が豊かにホール全体に響き渡り、それらが見事にマッチングして、心を惹きつけてやまない稀に見る名演奏となった。楽譜に忠実ながらも、そこから繊細かつ大胆なニュアンスを引き出し、想像も出来なかった多彩で表情豊かな演奏だった。レオンハルトの秩序とファンタジーが調和した感性は他の追随を許さず、またその感性は鍵盤音楽に限らない幅広い分野に精通していた教養に支えられた格調の高さをも感じさせた。チェンバロを本当に美しく演奏できた稀代な人であることも実感出来た。客席は満席で、このような演奏を聴けた400人以上の聴衆はこの上ない貴重な機会を得たのである。


 レオンハルト最後の札幌公演は2011年の東日本大震災後の5月。首都圏での演奏会は節電と余震対応でかなり中止になった。また、震災以後の数か月は、多くの海外アーティストが来日を中止したが、レオンハルトは予定通り来日し、札幌(5月25日)の他、すべてのスケジュールを消化し帰国した。この時は指先が開いた手袋をしながらの演奏で、体調は良くなかったのだろう。札幌最後のリサイタルプログラムは下記のとおり。


2011年5月2519:00  札幌コンサートホールKitara小ホール 


ルルー    組曲 ヘ長調 

..バッハ  プレリューディウム  ハ長調 

フィッシャー シャコンヌ  ト長調

デュフリ   ロンドー/ラ・ダマンズィ/純真無垢な娘(鳩)、

       ラ・ミレティーナ/メヌエット/レ・グラース

..バッハ  平均律クラヴィーア曲集 第2巻より

        プレリュードとフーガ第9番 ホ長調 BWV878

       組曲  ホ短調「ラウテンヴェルクのための」BWV996 

       アリアと変奏  イ短調 BWV989 


 帰国後、年末のパリのリサイタル後引退を表明し、翌2012年1月16日に亡くなった。死期を悟っており、葬儀でバッハのヨハネ受難曲の最終コラールを演奏することなど、全ての段取りを決めて他界した。この辺りの事情及びその生涯と活動の軌跡は、タワーレコード発行のフリーペーパー「intoxicate vol.98 」に掲載された渡邉順生氏の秀逸な小評伝「グスタフレオンハルトのレコード」に詳しい。


 初回と最後のリサイタルも、巨匠らしく、曖昧さがない一本筋の通った素晴らしい演奏だった。有名な作品は弾かず、陰に隠れた名品や作曲家の作品を好んで演奏した。今では古楽界にも優秀な第三世代が登場しているが、レオンハルトの格調高い演奏は、Kitaraを彩った忘れられない名演奏家として今後も語り継がれていくのに違いない。


2021/12/19

 クリスマスオルガンコンサート


2021121815:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール


オルガン/ニコラ・プロカッチーニ

    (第22代札幌コンサートホール専属オルガニスト)
指揮/大木 秀一
合唱/市立札幌旭丘高等学校、札幌山の手高等学校 合唱部


【オルガンソロ】

メンデルスゾーン/ベスト編曲:オラトリオ「聖パウロ」作品36より

         序曲

J.S.バッハ:様々な手法による18のライプツィヒ・コラール集より

       いざ来ませ、異邦人の救い主よ BWV 659

       いざ来ませ、異邦人の救い主よ BWV 660

シューマン:ペダルピアノのためのスケッチ作品58よりアレグレット

モランディ:モダンオルガンのための11のラッコルタソナタより

         パストラーレ

デュリュフレ:オルガン組曲作品5よりトッカータ


【オルガンと合唱】

クリスマスメドレー:もろびとこぞりて/もみの木/サンタが街に

            やってくる/O Holy Night 

ハウエルズ:Sing Lullaby
アルネセン:I Will Light Candles This Christmas 


    昨年は工事休館で中止だったので2年ぶりとなるクリスマスオルガンコンサート。このコンサートは2002年からスタートし、初回はオルガンソロだけだったが、翌年から高校生の合唱団との共演が加わり、今回は通算18回目になる。

 クリスマス時期の定番メニューとして親しまれ、毎年来場者が多い人気のコンサート。クリスマスらしい装飾や照明による演出が場内を彩る。今年はキャンドルが増え、いい雰囲気だ。前日からの大雪で一面の冬景色となり、クリスマスコンサートらしくなった。今日はほぼ満席の来場者。


 前半はオルガンソロ。今日はオルガンの鳴りが今ひとつ。原因は二点ほど考えられる。一点は、今回の大雪は湿気を多く含んでいたため開場中に場内にその影響が及んだのではないか。もう一点は、コロナ禍でクロークが休止中のため、来場者はコート類を場内に持ち込まざるを得ない。そのため響きがかなり吸収されてしまったと思われる。


 クリスマスにちなんだ曲目を中心にプログラミング、中ではKitara初演となる楽しい作風のモランディのパストラーレと、デュリュフレのトッカータが華やかな技巧による多彩な表現で楽しめた。ただ、今日のプロカッチーニの演奏は、前回のデビューリサイタルほどの冴えがなく残念。メンデルスゾーンは曲全体の流れに乗り切らず不燃焼気味。バッハ、シューマンは鍵盤のタッチの浅いところで音が出ているように聴こえ、きちんと楽器が鳴りきっておらず、Kitaraオルガンの魅力ある音が伝わってこなかった。


 後半は札幌旭ヶ丘高校と札幌山の手高校の両合唱部合同による定番のクリスマスソング。今年は感染予防のため、全員マウスシールドをつけての合唱だったが、そのハンディをものともしない見事な歌声。しっかりとトレーニングされた発声、きれいな音程と厚みのあるハーモニーは素晴らしい。この世代しか出せないエネルギーある若々しい声は伸びやかで実に気持ちがいい。特にソプラノの高音がほぼノンヴィブラートで音程がきちんと決まるのは、プロの合唱団でもなかなかできないクオリティの高さ。以前から、札幌の中高生の合唱のレベルが高いことは知られていたが、今日の合唱は全国に誇れるレベルだ。もっと難易度の高い作品を聴きたくなる。オルガンとのアンサンブルもよく、プロカッチーニは即興的なパッセージも加えながらの演奏で楽しかった。アンコールに「きよしこの夜」と「もみの木」。