2023/08/29

 Kitara室内楽シリーズ〉

カルテット・アマービレ


2023年8月2715:00  札幌コンサートホールKitara小ホール


カルテット・アマービレ

ヴァイオリン/篠原 悠那、北田 千尋

ヴィオラ/中 恵菜

チェロ/笹沼 樹


ハイドン:弦楽四重奏曲 第79番 ニ長調「ラルゴ」作品76-5

シューマン:弦楽四重奏曲 第3番 イ長調 作品41-3

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第12番 変ホ長調 作品127


 2015年桐朋学園大学在学中に結成された今年で8年目の若いカルテット。下手側から第一ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンという比較的珍しい配置。

 後半のベートーヴェンが素晴らしかった。全体の統一感が見事で、一つの大きな世界を作り上げており、技術的にも音楽的にも完成度は高い。聴衆に作品の本質を余すところなく伝えてくれ、聞き応えのある演奏だった。

 第1楽章はアクティヴで求心的。堂々とした張りのある音色の序奏に引き続き、伸びやかに歌われた主題、それが次々と多様に変容していく様子が隙なく鮮やかに表現されており、秀悦。

 第2楽章の変奏曲は、変奏ごとに丁寧かつ慎重に仕上げており、しかも各楽器の響きのバランスと調和が素晴らしい。美しい歌に満ちており、思わず惹き込まれてしまった名演だった。

 第楽章は心地よい鋭いリズム感と息の長いフレーズ感があり、一切弛緩することがない。ベートーヴェン特有のスケルツァンド楽章の性格がこれほど見事に表現された例は少ないのではないか。 

 第楽章は様々なモティーフの対比が鮮やかに描かれ、かつ躍動感に満ちており、フィナーレに相応しい演奏。


 それぞれの楽章の性格が明確に表現されているので、作品の構造を理解しやすく、集中して聴くことができた。後期のベートーヴェンというと聴く側も身構えるが、今日のような説得力のある演奏だと、残りの5曲も聴いてみたくなる。


 前半のハイドンは躍動感があり、このカルテットの若いエネルギーを感じさせた好演。続くシューマンは作品に込められた、いかにもロマン派らしい熱い情熱が表現されていて、印象的ではあった。

 ただし、後半の充実した到達度の高いベートーヴェンを聴いてしまうと、前半は明らかに完成度が低い。

 2曲ともアンサンブルとしてはやや固く、未完成の響きがする。作品に対する意志統一が出来ていないようで、音色やボーイング、ハーモニーに統一感がベートーヴェンの演奏ほど感じられない。

 ハイドンはより引き締まった演奏を、シューマンはもっとわかりやすく作品の魅力を聴衆に伝えてくれる演奏を、それぞれ期待してもいいだろう。

 アンコールにピアソラの「リベルタンゴ」。これは理屈抜きに素晴らしい演奏だった。才能抜群のカルテットだ。今後の活躍を大いに期待しよう。

2023/08/28

 2023-2024札幌交響楽団名曲コンサート

ポンマーの贈り物 ドイツ三大B


202382614:00札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮 /マックス・ポンマー

管弦楽/札幌交響楽団


J. S. バッハ:ブランデンブルク協奏曲第3番

ベートーヴェン:交響曲第8番

ブラームス:交響曲第4番


    ポンマー87才。2019年以来コロナ禍を経て4年ぶりの登場。久しぶりに貫禄十分の音楽を堪能することが出来た。

 バッハは楽譜通り、ヴァイオリンとヴィオラ、チェロが各3人ずつ、ヴィオローネ(コントラバス)が1名とチェンバロ、合計11名の小編成。ポンマーがどこまで指示をしたのかはわからないが、実に生き生きとした躍動感に満ちた演奏。バッハならではの大胆で、かつ一貫した流れが見事に再現されていて、各弦楽器セクションの名技と第2楽章のチェンバロのソロも見事。


 ベートーヴェンの編成は10型の中編成。ポンマーの指示は早めのテンポで、やや強引とも言える牽引振りだ。大枠をしっかり捉えておいて、あとはバッハ同様団員の自発性に委ねるやり方だったようだ。

 第2楽章冒頭の表情記号はピアニッシモの指定。出だしの管楽器群など明らかに大き過ぎ、弦楽器とのバランスも良くないが、スケルツァンドの雰囲気がユーモアたっぷりに表現されていて、これは快演。

 第3楽章のメヌエットでは、中間部でのホルンの溌剌とした二重奏とチェロの明快なソロのアンサンブルが素晴らしく、この箇所がこれほど印象に残った演奏は初めてだ。

 終楽章は、前のめり風の落ち着かない独特の楽想と、どこか垢抜けない雰囲気がよく描かれていて、面白かった。

 全体的にかなり大雑把なところもあったにせよ、何処か古き良き時代の昔話を聴いているよう。ポンマー以外からはけっして聴けない、味のある魅力的な演奏だっだ。


 後半のブラームスは14型の大編成。全体の設定はやはり早めで、丁寧な仕上げをして音楽を整えていく、というよりは、やはりベートーヴェン同様に大きく作品を捉えていくやり方だ。

 第1楽章は全体的にやや粗さを感じさせたが、第2楽章以後がとても良かった。第2楽章冒頭の堂々としたホルンのソロから始まる管楽器グループの豊かな音楽性や、ヴィオラ、チェロの重厚な歌い方、絶え間なく流れる音楽の美しさと全体の統一感は格別。

 第3楽章のアクティヴな躍動感、第楽章の各変奏ごとの豊かな性格描写、そしてそれらが積み重なってスケールの大きなパッサカリアが構築されていく様子は圧倒的で、これは素晴らしかった。

 響きはちょっと渋めで、いつもの札響トーンではないが、これだけ充実したブラームスを聴くのは本当に久しぶりだ。


 三大Bのプログラムは意外と聴く機会が少なく、貴重な機会。3人ともポリフォニーの名手であることはもちろん、バッハでの単一動機で展開される音楽の見事さ、ベートーヴェン、ブラームスと時代を下るにつれて動機に多様な性格を与えるようになり、ブラームスは更にその動機群に豊かな抒情性を与えて、より表情豊かな世界にした、と三大による音楽史をレクチャーしてくれたようだ。教育的配慮もけっして忘れない。さすがポンマー先生だ。

 6月に東京で聴いたシャルル・デュトワも同じ1936年生まれの87才。おふたりとも元気いっぱいで、素晴らしい。今後のより一層の活躍に期待しよう。

 コンサートマスターは会田莉凡。大活躍だった。


2023/08/23

 回想の名演奏

追悼・飯守泰次郎氏〜Kitaraのニューイヤー


2016年1月9日15:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/飯守泰次郎

ソプラノ/中嶋彰子

管弦楽/札幌交響楽団


ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より

       第1幕への前奏曲

プッチーニ:歌劇「トスカ」より 歌に生き、恋に生き

マスカーニ:歌 劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲

ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」序曲

ワーグナー:歌劇「ローエングリン」より 第3幕への前奏曲

ヨハン・シュトラウス:喜歌劇「こうもり」序曲

             ポルカ「狩り」o p.3 7 3

レハール:喜歌劇「ジュディッタ」より 唇に熱い口づけを

ヨハン・シュトラウス:ワルツ「皇帝円舞曲」op.437

ポルカ:「雷鳴と稲妻」op.324 

レハール:喜歌劇「メリー・ウィドウ」より ヴィリアの歌

ヨハン・シュトラウス:ワルツ「美しく青きドナウ」op.3 14



 飯守泰次郎氏が去る8月15日に亡くなった。82才だった。

 飯守氏が札幌コンサートホールの主催事業に出演したのは一度だけで、2016年のKitaraのニューイヤーコンサートだった。

 氏が選択した曲目はこれぞニューイヤー、とも言える王道プログラムで、北海道出身でウィーン・フォルクスオパーの専属歌手、中島彰子がオペレッタを歌い、お得意のワーグナーを忘れずに入れるという、とても素敵な構成だった。

 指揮者の力量がすぐわかるシビアなプログラムだったが、誠実かつ威厳のある指揮ぶりで、さすが巨匠、とも言える堂々とした演奏だった。

 札幌交響楽団とは1965年1月、ドヴォルジャークの「新世界」を振った36回定期が初登場。以後定期には、9410月の第362回定期でブルックナーの「交響曲第7番」を、札幌コンサートホールオープン以降は9810月の第406 定期でベートーヴェンの「交響曲第4番」とスクリャービンの「法悦の詩」、2001年1月の第441回定期でワーグナーの「神々の黄昏」から、09年1月の第515回定期でサン=サーンスの「交響曲第3番」、1611月の595回定期ではワーグナーの「リング」抜粋、そして18年6月の第631回定期でチャイコフスキーの「悲愴」を指揮し、これが最後の札幌となった。以後20年の10月定期と年末の第九を振る予定になっていたが体調不良で降板している(資料提供札幌交響楽団、演奏曲目は代表的な作品のみ)。

 2014年から年間新国立劇場の芸術監督を務めた。この4年間にリヒャルト・ワーグナーを7作品指揮している。幸運にも、この7作品の上演をすべて鑑賞することができたのは貴重、かついい思い出だ。

 メインは「ニーベルングの指環」全曲。演出はゲッツ・フリードリヒで、フィンランド国立歌劇場の1997年プロジェクトに基づく共同制作。現代的要素と同時に古風なたたずまいも残した舞台で、新旧両世代を同時に対象にしたような折衷的な設定だったが、何よりも演奏が素晴らしかった。

 鑑賞した上演は、201510月1日「ラインの黄金」(オーケストラ:東京フィルハーモニー管弦楽団)、20161015日「ワルキューレ」(同:東フィル)、2017 6月14日「ジークフリート」(同:東京交響楽団)、20171014日「神々の黄昏」(同:読売日本交響楽団)。

 腰の据わった骨太で、質実剛健な堂々たるリングだった。

 主役級は招聘外国人が演じ、圧巻は4部作全てに出演したシュテファン・グールド。前半2作ではローゲ(ラインの黄金)とジークムント(ワルキューレ)、後半2作ではジークフリートを演じた。豊かな声量かつ表現力もあり、何よりもタフ。これぞワーグナーと思わせる名演だった。 

 そのほかではフィンディングとハーゲンを演じたアルベルト・ベーゼンドルファーが忘れられない。ワーグナーだけに登場する粗野で憎むべき悪人を見事に演じ切って、これは素晴らしかった。

 ワルキューレ以降はすべて上演時間が5時間前後の長丁場にもかかわらず、主役級の外国人グループは疲れを知らず、最後まで歌い切る体力には感心させられた。

 飯守氏がこの錚々たる出演者達を統率し、長大なドラマを最後まで緊張感を失うことなく見事にまとめ上げた名演だった。各オーケストラも大健闘だったが、特に「神々の黄昏」の読売日本交響楽団の張りのある逞しい響きが記憶に残っている。

 日本に居ながらにして、世界トップクラスの歌手達による上演を鑑賞出来るのは実に感動的な体験だった。これが飯守氏以外の棒であったら、そして彼が招聘した錚々たる歌手達でなければ、こういう印象は受けなかっただろう。作為的なところは一切ない、自然と体の中から湧き出た嘘偽りのないワーグナーで、音楽面だけで言えば、今まで日本で上演された最高のリングではないだろうか。


 リング以外のワーグナーでは、芸術監督就任祝い公演とも言える新演出で話題を呼んだ「パルジファル」(20141014日、演出ハリー・クプファー、東京フィルハーモニー管弦楽団)、主役級の外国人グループの逞しさを見事に引き出した「さまよえるオランダ人」(2015年1月28日、演出マティアス・フォン・シュテークマン、東京交響楽団)、主役のローエングリーン(クラウス・フロリアン・フォークト)を人間としての強さ弱さを持った身近な存在として表現した「ローエングリーン」(2016 6月1日、演出マティアス・フォン・シュテークマン、東フィル )、いずれも氏らしい一本筋の通った指揮で、主役級の歌手の人選も的確で、それぞれ忘れ難いワーグナーである。

 任期最後の年にベートーヴェンの「フィデリオ」を上演しているが、とても残念ながら鑑賞していない。


 氏が芸術監督の時代の新国立劇場は、コロナ禍以前ということもあったが、オペラ上演時の劇場はとても活気があった。ご自分が指揮をしない上演にもよく鑑賞にいらしており、新国立劇場を訪れた際は、幕間に氏の姿を探すのが楽しみの一つだった。紺のスーツを着こなし、いつも奥様とご一緒で、挨拶をすると、必ず笑顔で返答してくださった。その笑顔はしっかり記憶に残っている。

 最後にお見かけしたのは2023年2月、「タンホイザー」公演の時だった。車椅子だったが、お元気そうな姿を遠くから拝見することが出来た。

2023/08/13

 後藤絵里ピアノコンサート 〜東欧の夕べ〜

2023年8月1116:00  安田侃彫刻美術館

          (アルテピアッツア美唄アートスペース)


後藤絵里/ピアノ


スメタナ:『チェコ舞曲』より 「フラーン」、「ポルカ イ短調」

     『夢 6つの性格的小品』より第3番「ボヘミア地方にて」

      演奏会用エチュード 嬰ト短調 「海辺にて」作品17

ヤナーチェク:ピアノソナタ「190510月1日街角で」


ショパン:バラード第3番 変イ長調 作品47

     マズルカ作品30 

                      1.  ハ短調 2.  ロ短調 3.  変ニ長調 4.   嬰ハ短調

     ノクターン作品27

                          1.  嬰ハ短調 2.  変ニ長調

     アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 

                       変ホ長調  作品22



 後藤絵里は美唄出身で、現在プラハ在住のピアニスト。

 2010年の第16回ショパン国際ピアノコンクールに一次予選のみの参加だったが、その演奏はインターネット上でリアルタイムで鑑賞できたので、ご覧になった方も多いだろう。

 印象に残る明快な演奏だったが、同時にその演奏時の写真が話題を呼んだのも記憶に新しい。これはポーランドの公の施設などで、5年間も掲示されていたそうだ。

(写真右。ERI GOTO Hpより転載)

 私が前回聴いたのは2011年、札幌コンサートホール小ホールで開催されたリサイタルで、もう12年も前だが、演奏活動はその後も順調に継続しているようだ。

 今回のコンサート会場、安田侃彫刻美術館は美唄市にある廃校となった小学校の元体育館。緑に囲まれた静かなところで、芸術鑑賞には最適な場所だ(詳細はHP参照https://www.artepiazza.jp/)。

 会場にはエアコンがなく、この異常な暑さの中、ほぼ満席の聴衆は汗だくになっての鑑賞。ピアニストはこの最悪のコンディションにもかかわらず、完璧なプロフェッショナルの演奏を披露し、これは見事。

 技術的には全く問題がなく、力が抜け、音がすっきりと抜けてくる。音楽の流れがとても自然で、語り口に作為的なところが無い。明確なフレーズ感とわかりやすいイントネーションがあり、未知の作品であっても、とても理解しやすい演奏だ。以前より息使いが深くなり、表現の幅が広がってきたように思う。

 スメタナのピアノ作品は、プラハ在住のピアニストらしく、以前からレパートリーに入れ、紹介し続けている作曲家だ。「チェコ舞曲」や「夢6つの性格的小品」は、表現の起承転結が明確でとてもわかりやすい演奏。よく歌い込まれていて、音楽的にも美しく申し分無い。

「演奏会用エチュード」はスメタナのピアノ作品の中では最も演奏される機会が多い。技巧的なパッセージに表情があって、無機的にならず、華やかさの中にも色彩の豊かさが感じられて、とてもよかった。これは当日の演奏全体からも感じられ、彼女の特質でもあろう。

 ヤナーチェクのピアノソナタは作品に込められた追悼的な感性が劇的に描かれていて、説得力のある良い演奏。スメタナもヤナーチェクも語り口が自然で、ゴツゴツした暗い東欧のイメージはなく、音楽的に豊かな作曲家のイマジネーションが伝わってきて好感の持てる演奏だ。それにしてもスメタナのピアノ作品がこれだけ多彩だとは知らなかった。


 後半は、コンクールでも弾いてきたショパン。メインレパートリーでよく弾き込まれた安定した素晴らしい演奏。

 マズルカでのリズム感と柔らかい表情、ノクターンでの和声感豊かな伴奏と、流麗で美しい旋律の表情と装飾音の表現は、特筆すべき内容。

 最後の「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は音楽的にも技術的にも申し分なくよく仕上がった演奏で、かつてのショパンコンクール入賞者達の演奏と比べても全くひけを取らないばかりか、彼等よりも優れた演奏だと言っても過言ではないだろう。アンコールにショパンの「黒鍵のエチュード」。


 場内は大型扇風機の音と、開放された窓から入る風の音など自然の音が聞こえ、コンサートホールでの沈黙の中で聴いた演奏ではない。従って、そのすべてを聴き取れたわけではないが、そのハンディを除いても、今日の流れるような自然な演奏はなかなか聴く機会は少ない。もっと聴かれてもいい演奏家の一人だ。YouTubeも開設しているので、是非一度アクセスをお勧めする(https://youtube.com/@erigoto5657)。

2023/08/04

札幌交響楽団hitaruシリーズ定期演奏会14回

20238 319:00  札幌文化芸術劇場 hitaru

指揮とチェンバロ /鈴木 優人*

ピアノ /阪田 知樹


プーランク:フランス組曲*

グリーグ:ピアノ協奏曲

武満徹:夢の時

ストラヴィンスキー:「火の鳥」組曲(1919年版)



     冒頭のプーランクは管楽器とチェンバロのための珍しい編成の作品で、鈴木が弾き振り。洒脱な雰囲気のある、いかにもプーランクらしい佳品だ。

 最初の曲目ということもあるのだろうか、名手揃いの札響管楽器群にしては珍しく不調。それぞれの舞曲のテンポに今ひとつ乗り切れず、作品の快活さ、明快さが聴衆に伝わらずに終わってしまったようで、ちょっと残念だった。


 グリークを演奏した阪田は素晴らしい演奏家。颯爽とした演奏で、すっきりと音が抜けてきて、迫力も充分。無理のない柔らかいテクニックの持ち主で、楽器がとても美しく響き、気持ちがいい。リズム感が抜群で、音楽が停滞することなくいつも前向き。第2楽章での抒情豊かな表現も、洗練された明るい響きでなかなか素敵だ。

 鈴木指揮のオーケストラは第一楽章こそソリストとややテンポに違和感があり、かつ音量が大きすぎたきらいはあるが、全体的には好サポート。弦楽器の音色が少し硬質ではあったが、グリークのスケール感をよく伝えてくれた好演。

 ソリストアンコールでガーシュウィン(アール・ワイルド編)のファシネイティング・リズム 。初めて聴いた作品だが、抜群のリズム感で楽しませてくれた。


 休憩後の武満はオーケストラの音色がガラリと変化し、柔らかく、流麗。多彩な音型がまとわりつつ、ホール内に広がっていく響きの美しさは武満ならでは。この作品の依頼者はネーデルランド・ダンス・シアターの振付師イリ・キリアン。舞踏音楽としてはすでに古典となっているようで、女性3人と男性2人が登場する、武満の音楽からは想像出来ないとても動きの激しいハードな振付のようだ。

 演奏会用作品としてはもう少し繊細さがあってもいいと思ったが、夢の多様な姿を描いた舞踏音楽として聴くには全く問題がない。移りゆく感性を見事に表現して武満の世界を余すところなく伝えてくれた。鈴木優人の優れた感性が最も発揮された演奏。


 続くストラヴィンスキーは指揮者、オーケストラ共々手中に収めた安定感のある演奏。今日は全体的に硬質の音色だったが、それがストラヴィンスキーに相応しく、いい響きがしていた。管楽器群のソロがとてもよく、ピッチもきれい。鋭く、切れ味のいいリズミックな演奏で、特にカスチェイの踊り以降が、鈴木のタクトが冴え、充実した札響サウンドを見事に引き出し、楽しめた。

 鈴木は今年3回目の登場。札幌のファンにもすっかり顔馴染みとなったようだ。コンサートマスターは田島高宏。