2022/05/15

 札響名曲~ようこそマエストロ川瀬!


202251414:00  札幌コンサートホールKitara


指揮/川瀬 賢太郎(札響正指揮者20224月~)

ホルンラドヴァン・ヴラトコヴィチ

ナレーション/ 駒ヶ嶺 ゆかり


ラヴェル:「マ・メール・ロワ」組曲

プロコフィエフ:ピーターと狼(ナレーション付)

R. シュトラウス:ホルン協奏曲第1番

ラヴェル:ボレロ



    川瀬賢太郎が札響正指揮者としてKitaraに初登場。デビューは札幌文化芸術劇場hitaruで(4月14日)既に済ませており、その実力は既に披露済みだ。
 もっともデビューと言っても、正指揮者就任以前にも定期や名曲シリーズには登場しており、ファンには既にお馴染みの指揮者だ。

 冒頭のラヴェルは細部までとても丁寧に仕上げられており、演奏も美しく、作品の持つ子供らしい優しい感性が表現されていて良かった。ただ、全体的に全ての曲が同じ雰囲気で流れていくので、もう少し各曲ごとの性格の違いが表現されているともっと楽しめたのではないか。


 プロコフィエフは、ナレーションと音楽が隙なく進行していて、引き締まった上演だった。ナレーションは聴きやすく、表情が豊か。演奏は落ち着いて安定感があり、大人のための交響的物語という雰囲気があって、楽しめた。

 

 Rシュトラウスのホルンソロはラドヴァン・ヴラトコヴィチ。久々の名手登場で、その素晴らしさを堪能。

 豊かな表現力は、まさに一級品。淀みない深い音が場内に響き渡り、特に弱音の美しさは格別。川瀬のプレトークによると高校生時代に、この作品をヴラトコヴィチの演奏で聴き込んでいたそう。それから何年過ぎたのか、衰えは全くなく、まだまだ活躍しそうだ。オーケストラも熱演。

 ソリストアンコール曲は、メシアンの峡谷から星たちへ...より 「恒星の呼び声」。これも柔軟で奥行きのある演奏。多彩で卓越した表現力で、題名を想起させるような名演。メシアンの大曲を凝縮して聴かせてくれた感があり、Rシュトラウス一曲分のインパクトがあったしれない。


 ボレロは快演で、オーケストラの醍醐味を堪能させてくれた演奏。ただ、今日の札響はいつもの冴えがないところがあり、管楽器群に普段は無い意外なミスがあったり、フィナーレの弦楽器がやや硬めの音色で、いつもの柔らかくふくらみのある札響とはちょっと違うイメージに聴こえたが、これらの不満は、文句なしに楽しかったアンコール、ビゼー/「カルメン」より"トレアドール"で帳消し。


 川瀬は、次回はhitaru定期で今年の12月に登場。川瀬らしいプログラミングで、大いに楽しみだ。 


2022/05/13

ンジャマン•アラールチェンバロリサイタル

2022年5月1119:00   浜離宮朝日ホール


オール•バッハ•プログラム


シンフォニア第5番 変ホ長調 BWV 791

フランス組曲第番 変ホ長調 BWV 815

トッカータ ト長調 BWV 916

協奏曲 ハ長調 BWV 976

フランス風序曲 ロ短調 BWV 831

イタリア協奏曲 へ長調 BWV 971


 バッハは天賦の才に恵まれました。
しかし、どんな優れた才能を持つ人であれ、
必ず誰かの影響を受け、
そこに愛情や化学反応を見出して、
独自の様式を創り上げてゆく。
そんな過程を、
聴衆の皆さんと共に“疑似体験”できれば、
と考えています。
……………………………バンジャマン•アラール


 バッハ鍵盤作品全集録音で現在注目されているアラールのリサイタル。

 演奏する姿は、姿勢が良く、力が抜けて、とても自然な感じを与える。聴こえてくる音は力みがなく、まろやかで、おそらく楽器そのものの音を最も無理なく美しく響かせることが出来る演奏家だ。チェンバロ以外の鍵盤楽器でも問題なく演奏出来そうだ。

 ホールの響きも良さもあるが、これだけ楽器の基本的な性能を見事に引き出した演奏家は久しぶりだ。当夜の使用楽器はジャーマンタイプでミヒャエル・ミートケモデル。札幌コンサートホールkitaraが所有するのと同じタイプの楽器で、2000年の制作。いい音がしていた。


 演奏スタイルはノーマルで、健康的。テンポは比較的速めで、停滞することなく先に進む。イントネーションが自然で、爽快。嫌味がなく、全てがバランスよく表現されていて、とても魅力的だ。

 レジストレーションの使い方は自由自在で、即興も随所に入る。しかもここで誰でも必ず即興を入れる、と期待したところは楽譜通り演奏し、予期しないところで即興を入れる、という意外性があり、なかなか面白い。

 最近の色々なチェンバリストと比較しても、その演奏の全体的プロポーションの良さは抜群だ。長時間聴いても飽きが来ないので、このようなセンスが、バッハ鍵盤作品全集録音に抜擢された理由でもあろう。


    当日配布されたプログラムにはアラールからのメッセージ(冒頭に記載)が掲載されており、これが今回のプログラミングのコンセプトだ。

 シンフォニア第5番とフランス組曲第4番は続けて演奏。シンフォニアは装飾がかなり加えられた演奏で、自由奔放。慣らし運転の様相もあったが、この2曲で楽器がしっかりと響き始めたのが印象的。

 トッカータと協奏曲は、ワイマール時代の若きバッハの血の気の荒さをも感じさせる力感溢れる作品群だ。この2曲には技術的にも音響空間の作り方にも共通性があることを見事に示してくれた

 ここでは楽器を存分に響かせることに主眼を置いているようで、特に協奏曲での第1楽章の中間部や第楽章、トッカータでの第1楽章に相当する第1部での厚いハーモニーが醸し出す豊かな音響空間の表現力は素晴らしい。楽器全体から豊かな響きが場内に満ち、本人もそれを楽しみながら弾いているようだった。2段鍵盤ならではのコントラストも鮮やかで、楽器の機能を極限まで活用しての作品であることを示してくれた。


 後半は一部を除いて暗譜での演奏。疾走しすぎて仕上げが今ひとつだった楽章もあったが、生命感あふれる鮮やかなバッハだ。

 フランス風序曲は、颯爽とした演奏。スケール感のある序曲や不均等リズムでのクーラント、よく歌い込まれたサラバンドが秀逸。ガヴォットやパスピエ、ブーレーでは舞曲ごとの性格の違いが今ひとつよく伝わってこなかったことと、2段鍵盤でのコントラストの妙が、この速めのテンポだと表現し切れないところがあったのが惜しい。

 イタリア協奏曲は、おそらく4フィートを入れないで演奏したのか、全体にすっきりとした仕上げ。特にバフ・ストップを効果的に使っての第2楽章が印象的。イタリア協奏曲のタイトルにふさわしい、カラッとした演奏で楽しめた。


 アラールのコンセプト通り、バッハがイタリア、フランスなど色々な周辺国から影響を受けながら成長していく過程のみならず、バッハの抜群の情報収集力の高さとそれらを作品に反映させる適応性の見事さを感じさせてくれたプログラムだった。

 

 アンコールにスカルラッティのソナタK.162ホ長調。即興をふんだんに加えた自由自在の演奏で、実に面白かった。レシピがイタリアンとフレンチのミックスで、かつ楽器がジャーマンなので、諸国融合型の演奏でもあった。これはアンコールならでは。


 ステージにはブレザー姿の比較的カジュアルな衣装(本人にとってはフォーマルスーツか?)で登場。このあたりは自由人の感覚なのか、でもとてもよく似合っていた。

2022/05/07

 Kitaraあ・ら・かると

ニコラさんのオルガンコンサート


20225514:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


オルガン/ニコラ・プロカッチーニ
     (第22代札幌コンサートホール専属オルガニスト)


ヴィドール:オルガン交響曲第5番へ短調 作品42-1第一楽章 

P.モランディ:協奏曲第6番

F.クープラン:修道院のためのミサ曲より

                           キリエ「ブラン・ジュ」

                           キリエ「グラントルグのトランペットと、

                                              ポジティフのモントル、ブルドンおよび

                                              ナザールとのディアローグ」

                           サンクトゥス「コルネのレシ」

                           グロリア「ヴォワ・ユメーヌのディアローグ」

                          教区のためのミサ曲より

                            アニュス・デイ「グラン・ジュによるディアローグ」

J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV565

ヴィエルネ:幻想的小品集より即興曲作品54-2
シューマン:ペダル・ピアノのための練習曲集 作品56より

                           第2番、第6番
ヴィエルヌ:幻想的小品集より ウェストミンスターの鐘 作品54-6
















 

   5月3日から始まった「Kitaraあ・ら・かると」はこのコンサートで閉幕。今日はステージ奥にスクリーンを設置し、オルガニストの演奏風景を投影。聴衆は音だけではなく映像によって普段見ることのできない演奏の様子を楽しむことができる。

 昨年閉館中のオルガンオーバーホールについてはすでにレポートしたが(2021.11.12)、それからもう半年以上経ち、気候も良くなって、オルガンのサウンドもより落ち着きを取り戻したようである。今日は気候も良く最適の湿度だったようで、オルガンのサウンドがきれいだった。


 ニコラは、映像で見ると、力が抜けた自然体でとてもスマートな演奏スタイルだ。力みがないので、音が美しく、すっきりと響いてくる。


 ヴィドールは、響きがまろやかで、今日のオルガンの状態がいいことを知らせてくれた演奏。


 P.モランディはニコラが愛奏する作曲家のようで、何度も演奏しているが、今日の作品はモーツァルト風の軽快さがあり、スッキリした音色と躍動するようなリズム感があり、楽しめた。


 クープランは様々な種類のパイプの音色を味わうことができ、オルガン試聴会のよう。各パイプの音色は実に美しく、自然に響いてきて、オーバーホールの成果とニコラの自然な奏法の結果だろう。イタリア人なので、フランス系のオルガニストとはやはり感性が異なるようで、イネガル(不均等)のリズムの表現の仕方や、全体の構成に違う味わいがあって面白かった。

 バッハは一気呵成に弾き切った鮮やかな演奏。若々しいエネルギッシュなイメージによる情熱的なバッハだった。


 シューマンはロマン性豊かな音楽が魅力的だが、オルガンでシューマンらしさを表現するのは意外に難しい。ニコラは2曲ともよく歌い込んだしなやかな表現で、歴代専属オルガニストの中でもトップクラスの演奏。


 ヴィエルネは伸びやかで音が豊かに広がり、スケールの大きな演奏だった。今日はオルガンの音がとてもきれいで、しかも最強音でも音が割れずに、柔らかく聴こえてきて、心地良かった。これはニコラの優れた演奏技術によるものでもあろう。


 アンコールにモーツァルトを弾きながら、最後はこいのぼりの歌が聴こえて来て、サービス満点。


 今日はオルガンにとって最適の気候だったようだ。オーバーホール後のベストの状態のサウンドと、ニコラの優れた音楽性・演奏技巧とが一致しての、なかなか聴けない優れた演奏だった。

 Kitaraあ・ら・かると

スプリング・ブラス~中学生スペシャル!

市内中学校吹奏楽部によるこの日だけのスペシャルコンサート


20225415:30  札幌コンサートホールKitara大ホール


吹奏楽/札幌市立厚別南中学校、清田中学校、啓明中学校、向陵中学校   

【札幌市立厚別南中学校】
指揮/浜坂 裕樹
1.鈴木 雅史:マーチ「ブルー・スプリング」

 (2022年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲)
2.バルトーク/後藤 洋:ルーマニア民族舞曲
3.森山 直太朗/郷間 幹男:アルデバラン
4.東海林 修:ディスコ・キッド

【札幌市立清田中学校】
指揮/多米 恵理子
1.プレス/石見 音生:交響組曲「ハセナ」より 結婚の踊り
2.鈴木 英史:ジェネシス

 (2022年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲)

3.長万部 太郎/金山 徹:WAになっておどろう
4.馬飼野 康二/野崎 雅久:勇気100

【札幌市立向陵中学校】
指揮/田中 義啓
1.鈴木 英史:ジェネシス

 (2022年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲)

2.内藤 友樹:メタモルフォーゼ~吹奏楽による交響的変容
3.秦 基博/西條 太貴編曲:ひまわりの約束
4.宮川 彬良:マツケンサンバII

【札幌市立啓明中学校】
指揮/鈴木 健夫
1.Ayase/郷間 幹男編曲:怪物
2.Ayase/郷間 幹男編曲:群青
3.奥本 伴在:サーカスハットマーチ

 (2022年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲)

4.メンケン/高橋 宏樹編曲:アラジン・メドレー
   ~フレンド・ライク・ミー、ホール・ニュー・ワールド、

    アリ王子のお通り~



    札幌の中学校の合唱、吹奏楽のレベルは高く、全国レベルでの各種コンクールで入賞校が多いのは承知の通りだが、その実力をKitara市民に幅広く紹介するために実現した演奏会。

 初めて開催されたのは2009年で、形態は数校の学校が合同で演奏する吹奏楽及び合唱。教育委員会はじめ、多くの学校教育関係者の協力を得て、実施に至った。この年はKitaraのバースデイコンサートとして開催した。

 専属オルガニストとの共演があったり、オルガンと合同合唱・吹奏楽のためのオリジナル作品が生まれたりと、活動は順調に広がっていったが、コロナ禍という想定外の出来事が発生し、残念ながら中断してしまった。

 今回は、コロナ禍での制限があり、実現したのは学校別の吹奏楽公演のみだが、少しずつでも復活できたのはとてもよかった。各学校とも限られた練習時間の中、よく全体をまとめていたと思う。


 各校の演奏の中では、札幌市立厚別南中学校のバルトーク:ルーマニア民族舞曲、札幌市立清田中学校のプレス:交響組曲「ハセナ」より 結婚の踊り、札幌市立向陵中学校の内藤 友樹:メタモルフォーゼ~吹奏楽による交響的変容、札幌市立啓明中学校の奥本 伴在:サーカスハットマーチが印象に残った。


 各校とも司会進行役の生徒が学校の自己紹介と演奏曲目について説明してくれるので、わかりやすい。 

 まだ新学期を迎えたばかりの時期なので、音楽的に熟成していくのは各校ともこれからだろうが、中学生の溌剌とした生命力あふれる演奏は活力を与えてくれるので、出演者の関係者だけではなく、もっと幅広い観客層に聴いてほしい公演だ。

 コロナ禍が早く落ち着いて、すべて復活できることを祈る。


Kitaraあ・ら・かると

 <北海道教育大学・札幌大谷大学・Kitara連携事業>

若い芽の音楽会


北海道教育大学・札幌大谷大学の卒業生・在校生7組が出演


20225413:00  札幌コンサートホールKitara小ホール


1. ヴァイオリン・ソロ

 マスネ:タイスの瞑想曲
 サン=サーンス/イザイ編曲:ワルツ形式の練習曲による奇想曲
  ヴァイオリン/徳田 和可
  ピアノ伴奏/大野 真希

2. 
クラリネットデュオ&ピアノ
 ベールマン:クラリネットとピアノのためのデュオコンチェルタント  

 作品33
  クラリネット/鈴木 聖来、原田 茉優 
  ピアノ/中村 美月

3. 
ピアノ三重奏
 シャルヴェンカ:ピアノ三重奏曲 作品121より 3楽章
  ヴァイオリン/土屋 有希乃
  ヴィオラ/垣原 慰吹
  ピアノ/増川 里菜

4. 
サクソフォン・ソロ
 ウォーレイ:サクソフォン・ソナタ
  サクソフォン/渡邉 丈留
  ピアノ伴奏/二階堂 瑞穂

5. 2台ピアノ
 ミヨー:スカラムーシュ 作品165
  ピアノ/安達 莉子、佐藤 美空

6. 
ピアノ・ソロ
 シューマン:幻想曲 作品17 ハ長調より 第1楽章
  ピアノ/大野 真希

7. 
フルート・ソロ
 プーランク:フルート・ソナタ FP164
  フルート/類家 千裕
  ピアノ伴奏/吉田 妃菜



昨年はコロナ禍の緊急事態宣言解除後初めての主催事業として開催。今回は通常通り、「あ・ら・かると」期間中の開催となった。2003年からの実施しており、「あ・ら・かると」に移動は2016年から。

 ヴァイオリンソロは響きが小ホールいっぱいに広がり、音色もきれいだ。マスネもサン=サーンス/イザイ編曲も、隅々まで美しい音色で歌い込まれていた、とても音楽的な演奏。後半でシューマンを演奏する大野がとてもいいセンスの伴奏で、両者一体となり、素晴らしい音楽を作り上げていた。

 クラリネット•デュオ&ピアノが演奏したベールマン(息子)はなかなかドラマティックでスケールの大きな作品。同時代の作曲家達に霊感を与えたであろう、ベールマンの演奏レベルの高さが伝わってきた見事な演奏。また、19世紀の半ばにはクラリネットは、楽器として高い水準に達していたことを認識できた秀逸な演奏。ピアノパートも雄弁で、それを見事に演奏した中村も素晴らしかった。

 演奏機会の少ないシャルヴァンカのピアノ三重奏(1915)は、保守的だが、流麗でほの暗さを持つ独特の作風で、音楽的にまとめ上げるのは難しそうな作品。各楽器のバランスがとても良く、整った端正なアンサンブルだ。作品の魅力をしっかり伝えてくれた、よく考えられた演奏だった。


 ウォーレイは、サクソンフォンのための作品では最も難曲の一つだろう。この作品を技術的にも音楽的にも、見事にかつ鮮やかに聴かせてくれた秀逸な演奏。前向きのテンポで停滞することもなく、全く疲れを知らない、この楽器を演奏するために生まれてきたような印象さえ与えてくれた。技術的に素晴らしいのはもちろん、良く歌い込まれた感性の豊かさもあり、聞き応えがあった。ピアノ伴奏も見事。


 ミヨーは溌剌とした生命力あふれる演奏。この作品の特徴がとてもよく表現されていて、2人のセンスの良さに感心。2台のピアノのバランスが良く、騒々しくならずに、軽やかで、すっきりとまとめられており、楽しめた演奏。


 シューマンは本日唯一の19世紀前半のロマン派作品。優れた感性の持ち主で、よく考えられた演奏。細部まで音楽的に仕上げられており、バランス感覚のとても良いピアニスト。よく歌われていて音色もきれいで、この作品に込められた様々なシューマンの想いを余すところなく伝えてくれた。


 プーランクはアンサンブルとしてとても高いレベルに到達していた演奏。フルートもピアノも細やかな表情、息の長いフレーズ、次々と移り変わる気まぐれな感情など、作品の多彩な様相を見事に伝えてくれた。


 来場者も多く、子供と若者の祝祭でもある「あ・ら・かると」にふさわしい演奏会。これから飛び立つ若人の演奏を聴けるチャンスと、前回もそうだったが、演奏機会の少ない作品に触れる貴重な機会でもある。多様化の時代にふさわしく、様々なジャンルに優れた演奏家が育ってきているのがとても楽しみだ。今回声楽家が不在だったのが残念。次年度以降に期待しよう。

 Kitaraあ・ら・かると

きがるにオーケストラ


20225315:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮・お話/太田 
ピアノ/角野 隼斗
管弦楽/札幌交響楽団


スーザ:星条旗よ永遠なれ
アンダーソン:シンコペイテッド・クロック
         フィドル・ファドル
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー ※ピアノ/角野 隼斗
バーンスタイン:「ウェスト・サイド・ストーリー」より 

         シンフォニック・ダンス
バーバー:弦楽のためのアダージョ 作品11
J.
ウィリアムズ:「スター・ウォーズ」より メイン・タイトル


 
 
 ソールドアウト公演。あ・ら・かると
にふさわしく、2人の優れた若手演奏家が主役の楽しいコンサートだった。

 1人目の若手は、指揮者で、札幌出身の太田弦。1992年生まれで、Kitara開館時は5歳、開館25周年の今年は指揮者として登場。

 太田の指揮でオーケストラを聴くのは個人的には今回が3回目。ここ数年で更に経験を重ねたようで、以前よりも、より充実した、かつ音楽的に美しい響きを生み出せるようになった。堅実で、師の高関健氏を彷彿とさせる指揮ぶりだ。

 前半のスーザやアンダーソンは、指揮者とオーケストラの間に様子の探り合いのようなところがあったが、ガーシュイン以降オーケストラの響きが見違えるように良くなった。

 バーンスタインは、味付けがやや薄い箇所もあったにせよ、響きを上手くコントロールした上質の演奏。弦楽器だけのバーバーはよく歌わせ、表情が豊か。最後の J .ウィリアムズは、引き締まったスケールの大きな演奏で場内を沸かした。

 全体的には札響の特質である、バランス感覚の良い、美しい音色と響きを見事に引き出していた指揮だ。オーケストラの個性をしっかり把握できる指揮者のようで、将来が楽しみだ。アンコールに同じスターウォーズからインペリアルマーチ。


 もう一人の若手、ガーシュウィンを弾いた1995年生まれの角野隼斗は期待通りの鮮やかな演奏。ショパンコンクールやYouTubeチャンネルでの目覚ましい活躍ぶりで、最近の若手では最も注目されている1人だ。

 実際の演奏を聴いてみると、自由闊達に自分の感じた感情を思い切り表現する気持ちの良さがあり、昔風のお行儀の良いクラシックの演奏家にはない、新鮮な感覚を持ったピアニストだ。

 カデンツァの箇所で、ピアニカでメロディーを吹くアイディアなどユニークで面白いが、これが正解なのだ、と思わせる説得力がある。

 随所で即興が加わるが、悪趣味にならない。心柱をしっかりと立てた上に、様々な要素を付加していくタイプなので、音楽の全体像が崩れずに品の良さをいつも保っている。ソリストアンコールにガーシュウィンのスワニー。

 一昔前だと、このタイプの演奏家は、どことなく素人っぽさがあって、いつの間にか姿を消してしまう例も少なからずあったが、しかし、角野は間違いなくプロフェッショナル。抜群のリズム感と無理のない演奏テクニックの持ち主で、音もきれい。繰り返し聴きたくなる魅力あるアーティストだ。将来を期待できる俊英だ。

 Kitaraあ・ら・かると

3歳からのコンサート




Kitaraあ・ら・かると」が5月3日からの3連休中に開催されるようになったのは2012年から。今回は、コロナ禍による中止と改装閉館を経て、 2020年以来年ぶりの開催 

 

 

 



 
期間中は各種コンサートの他、地下探検隊や子供スタッフ、楽器づくり体験などが同時開催されている。

 期間中開催されたコンサートから、この欄では「3歳からのコンサート」の紹介を。

 45分でお話付きのこのコンサートは2012年当初から開催されており、家族連れに人気がある。毎年多くの来 場者で賑わう。今年も3回のコンサートがほぼソールドアウト。未就学児の多いコンサートとしては、皆きちんと鑑賞していたのでは。基本的にはコンサートの内容次第だ。


 

 I チェロ 

20225310:30  札幌コンサートホールKitara小ホール


チェロ/加藤 文枝 ピアノ/小澤 佳永


エルガー:愛のあいさつ
サン=サーンス:「動物の謝肉祭」より 白鳥

フォーレ:蝶々

バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュード

ピアソラ:リベルタンゴ

ブラームス:子守唄 作品49-4

コネッソン:「アガルタの歌」より王の前でのダンス

ドビュッシー:月の光
グリーグ:チェロ・ソナタ イ短調 作品36より 楽章 


 カジュアルで、垢抜けた、お洒落な感性を持ったチェリスト。中でもバッハが、軽やかで、爽やかな演奏。かつての巨匠達のような威圧感が全くなく、新鮮で素敵。他の作品も、それぞれの特徴を上手く表現しながらも、枠にはまらない自由さがあって、子供が親しみを持って楽しめそうな演奏だ。お話は短く明瞭でちょうどいい長さ。最後のグリークは未就学児にはちょっと長かったかもしれないが、引き締まったいい演奏。全体のプログラミングは静動の対比の工夫もあり、またピアニストがソロ含めとても素晴らしい演奏で、チェロをしっかり支えていた。


II フルート✖️ギター

20225410:30  札幌コンサートホールKitara小ホール


フルート&ピッコロ/泉 真由 ギター/松田 


鈴木大介:マカロン公爵

J.S.バッハ/グノー編曲:アヴェ・マリア

ディアンス:フォーコ(ギターソロ)
ピアソラ:「タンゴの歴史」より I. ボルデル 1900

モーツァルト:トルコ行進曲

       歌劇「魔笛」より夜の女王のアリア
ジブリメドレー 

プホール:「ブエノスアイレス組曲」よりIII. サンテルモ


 フルートの、芯があってまっすぐ伸びる、むらのない美しい音色がとても魅力的だ。さりげなく吹いているようだが、実はこのように演奏できる人はすくない。ホール内にすっきりと音が透るので、子供達にも内容が良く伝わる、とてもわかりやすい演奏だ。お話も上手。

 ギターの松田弦はフルーティストを立てながらも存在感抜群。2人のアンサンブルは多彩な表情があって楽しかった。ギターが一緒だと、やはりピアソラ、ポフォールといったリズミックな南方系作品が特に素敵で、子供達も心惹かれていたようだ。


IIバリトン

20225510:30  札幌コンサートホールKitara小ホール

バリトン/ヴィタリ・ユシュマノフ ピアノ/新堀 聡子


ビゼー:歌劇「カルメン」より 闘牛士の歌

ラフマニノフ:朝

チャイコフスキー:それは早春のことだった

ラフマニノフ:夜の神秘な静けさの中

白石光隆:プリヴェット・スパシーバ
山田 耕筰:鐘が鳴ります 

武満徹:小さな空

小椋佳:愛燦燦

トスティ:理想の人

    「慰め」より 夢を見て、私の愛する魂よ!

グノー:歌劇「ファウスト」より祖国を離れる前に


 ロシア出身で日本在住。声量が豊かで、ホールいっぱいに響く。最初の闘牛士の歌では、場内が水を打ったように静かになり、聴衆は皆集中して鑑賞。ロシアの歌が素晴らしかった。一方で日本の歌では歌詞が不明瞭な箇所もあったが、内容がすべて伝わらなくとも、この人の歌には心の琴線に触れるような優れた音楽性がある。歌だけで充分魅了させる力のある人だ。白石光隆の歌で、ロシア語での挨拶の練習を子供達と行う以外、聴衆に話しかける場面が少なかったのが残念。伴奏は、細やかな配慮があり繊細で、歌手をしっかりサポートしていて、良かった。