2024/03/30

 リヒャルト・ワーグナー

トリスタンとイゾルデ

2024年3月26日14:00 新国立劇場オペラパレス


指 揮/大野和士

演 出/デイヴィッド・マクヴィカー

美術・衣裳/ロバート・ジョーンズ

照明/ポール・コンスタブル

振付/アンドリュー・ジョージ

舞台監督/須藤清香


トリスタン/ゾルターン・ニャリ

マルケ王/ヴィルヘルム・シュヴィングハマー

イゾルデ/リエネ・キンチャ

クルヴェナール/エギルス・シリンス

メロート/秋谷直之

ブランゲーネ/藤村実穂子

牧童/青地英幸

舵取り/駒田敏章

若い船乗りの声/村上公太


合唱/新国立劇場合唱団

管弦楽/東京都交響楽団


 2010/11シーズンに大野和士の指揮と、デイヴィッド・マクヴィカーの演出で上演したプロジェクトの再演。


 大野和士が渾身の指揮で、実に素晴らしかった。この濃密な世界を繊細かつ大胆に、ドラマティックに描いた圧巻の名演だった。

 場面ごとの表情が歌手の表現不足を補うが如く伸縮自在で的確。語り風の単調なシーンでも色彩豊かな音色で変化をつけ、一方で盛り上がるところでは歌手の声を掻き消す限界の音量まで大きく表現するなど、このバランス感覚は素晴らしい。

 東京都交響楽団は全く破綻がなく、ワーグナーではよくある管楽器の不慮の事故もほとんどない。音色が美しく、ピッチもハーモニーも総じてきれい。最後まで緊張感が途切れず、表情豊かなスケールの大きな表現で、特に弦楽器群の表現力は抜群の安定度で、聴衆を存分に楽しませてくれた。

 今までこの劇場で聴いたワーグナーの中でも、またワーグナーに限らず、その音楽的仕上がりの素晴らしさでは過去最上のものと言えるだろう。

 

 歌手陣の中ではマルケ王のヴィルヘルム・シュヴィングハマーが日本人にはない深い響きのバス。貫禄充分な歌唱でこれは実に見事。聞き応えがあった。

 女性陣ではブランゲーネの藤村実穂子が好演。外国人と一歩も引けを取らず、気まぐれな主人に仕える戸惑いの多い召使役の感覚がよく出ていて、力演。

 トリスタン役のゾルターン・ニャリは最後までイゾルデと添い遂げることができないだろうな、と心配になり、励ましたくなるほどひ弱で情けない男を演じており、これはこれで好演。イゾルデは、役柄としてはもう少し強いキャラクターが欲しく、前半では退屈なところもあり、多少物足りなさがあったにせよ、これも大野の情感豊かな大きな表現に助けられた格好だ。今回はこの2人が当初の予定から交代。この役で代役を探すのは大変だっただろうが、不足分は大野が指揮で全てサポートしてくれたようだ。

 船乗りの男たちが突然上半身裸での海賊の一族風の姿で登場。動きがぎこちなくどことなく滑稽で、善意に解釈すれば劇の進行を冷ややかに面白がって見ているような存在。全体的な舞台の雰囲気と違和感があり、これはあまりいいセンスだと思わなかった。


 舞台は正面に昼を暗示する太陽と夜を暗示する月を大きく照らし出し、場面ごとに照明で色合いを変化させる。これが大きな演出効果を出していてその都度の心理的背景も表していて、なかなか楽しめた。

 セットはシンプルで、例えば、第一幕は、目的地までは到達出来そうもない沈没寸前の難破船の雰囲気。トリスタンとイゾルデの暗い過去と前途多難な将来を物語っているようで、写実的要素も含めながら心理的な意味をより強調した設定だ。

 他の幕でも同様で、いずれにせよこの作品での心理的な背景の表現方法は幾通りもあるし、それをいちいち探求するときりがないが、船乗りの男たちを除けば、総じて色彩感のある、なかなか才気ある落ち着いた雰囲気を醸し出していて、鑑賞の妨げにはならなかったのが良かった。


 今回の立役者はなんと言っても大野和士と東京都交響楽団。この名演のおかげで正味4時間の上演時間が意外に短く感じることができた。

 45分の休憩2回を含み、終演は19:30。

2024/03/18

 森の響フレンド札響名曲シリーズ

きらめくスーパー・ブラス・スターズ

2024年3月16日14:00 札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮 / 川瀬 賢太郎

スーパー・ブラス・スターズ /中川英二郎(トロンボーン)、

     エリック・ミヤシロ(トランペット)、本田雅人(サクソフォン)

     川村竜(ベース)、川口千里(ドラムス)、中川就登(ピアノ)

管弦楽/札幌交響楽団


マルケス:ダンソン第2番

コープランド:「アパラチアの春」組曲


中川幸太郎:Monster’s Tango

中川英二郎(中川幸太郎編):Into The Sky

エリック・ミヤシロ:Skydance

和泉宏隆(E.ミヤシロ編):「宝島」

中川英二郎(中川幸太郎編):12 Colors



 今日は所用のため、前半のマルケスとコープランドのみの鑑賞で失礼。比較的冷静で落ち着いた演奏で、プログラム後半はより華麗に、という川瀬の設計プランだったのかもしれない。

 

 コープランドがよかった。冒頭の、アパラチアの春の情景を描いた弦楽器とクラリネットで始まる静かなオープニングが実に美しく、おそらく今日の聴衆全員が思わず魅了されたのではないか。

 それからチェロとフルートが加わり展開していくが、ここでの管楽器群と弦楽器群が産み出すハーモニーの美しさは、札響ならではの素晴らしさだ。こんなに美しいアパラチアの春を聴くのは録音も含めて初めての体験。

 全体を通じて素敵なソロを聴かせてくれた管楽器群のよくコントロールされた発声の美しさ、柔らかい音色は見事だった。

 弦楽器はノンヴィブラートでピッチをきれいに揃えて演奏し、管楽器と見事なハーモニーを生み出すなど、透明感ある音色が印象的。

 新郎新婦のダンスの様子など、派手にならずに、落ち着いた雰囲気を大切にしていたようだ。全体を通じて大袈裟な表現はなく、ごく自然に緩急の対比を表現していて、聴いていてとても気持ちが良かった。指揮者によってはもっと派手に演奏する箇所もあるが、そうはせずに、まるで北海道の広大な田園風景の中での婚礼シーンを描いたよう。やや仕上げが粗くなった箇所もあったにせよ、札響ならでは秀演だった。


 冒頭のマルケスのダンソン第2番は、最近は聴く機会が増えた作品だが、こちらもよくコントロールされた落ち着いた演奏。

 コンサートマスターは会田莉凡。

2024/03/10

 アンヌ・ケフェレック ピアノリサイタル


2024年3月9日14:00 札幌コンサートホールKitara小ホール


ピアノ/アンヌ・ケフェレック


J.S.バッハ/ブゾーニ編曲:さまざまな手法による

              18のライプツィヒ・コラール 集より 

             いざ来ませ、異邦人の救い主よ BWV659a

J.S.バッハ:協奏曲 ニ短調 BWV974より 第2楽章「アダージョ」

        協奏曲 ニ短調 BWV596より第4楽章

                     「ラルゴ・エ・スピッカート」
スカルラッティ:ソナタ ロ短調 K.27、ソナタ ホ長調 K.531、

        ソナタ ニ短調 K.32
ヘンデル/ケンプ編曲:組曲 第1番 HWV434より 第4曲「メヌエット」ト短調
J.S.バッハ/ヘス編曲:コラール「主よ、人の望みの喜びよ」BWV147
ヘンデル:シャコンヌ ト長調 HWV435


シューベルト:ピアノ・ソナタ 第18番 ト長調 D.894



 ケフェレックは、最近では札響定期で2回来札しモーツァルトの協奏曲を弾いている。

(第618回 2019年4月に第22番、第645回22年5月に第27番)。

 この時の演奏を聴いてファンになった人も多いようで、今日はソールドアウト。

 

 静かに抒情詩を朗読するような、豊かな知性を感じさせる落ち着いた雰囲気の演奏会。前半はバロック時代の名作を、後半はシューベルトのソナタと、選曲も叙情的作品を中心に選択。

 決してスケール感のある演奏ではないが、小ホールに相応しい上品で洗練された響きで語りかけてくれた良質の演奏だった。


 前半は、オリジナルはスカルラッティとヘンデルのシャコンヌだけで、あとは編曲作品。アンコールピースばかりの珍しいプログラムで、これだけ似たような作品が続くと、普通だと食傷気味になるが、聴衆を飽きさせないように配列をよく考えたプログラミングだった。

 最初はバッハのコラールとコンチェルトからの編曲を演奏。ピアノの響き、状態を確かめるように、一音一音念入りに表現。旋律の歌い方、美しさは素敵だが、淡々とした表現で、感情過多にならずあくまでも冷静だ。

 続くスカルラッティは技巧的で華やかな楽想の作品ではなく、メロディックでカンタービレ要素が強い作品を選択。スカルラッティの明るさよりも節度あるバランス感覚をとても大切にしており、好演。

 次のヘンデルのメヌエットとバッハの有名な「主よ、人の望みの喜びよ」コラールでも美しい音色で歌うが、ここでも大きな素振りはせずに静かに語るだけの演奏。

 前半最後のシャコンヌは当時の鍵盤演奏技法を集大成した技巧的な21曲の短い変奏が続く作品。技術的な要素を程よく強調し前半のまとめにふさわしい内容だった。ただ、このシャコンヌはヘンデルが所有していたリュッカースのチェンバロで演奏すると、明晰で均一性のある華やかな響きがする単純明快な作品だけに、やや知的にコントロールされ過ぎた演奏だったような気もする。

 

 後半のシューベルトは名演。全体的なプロポーションがしっかりしており、情緒に流されずにまとめ上げた演奏。とは言え、全体を通じて通奏低音のように聴こえてくるレントラー風の動機をさりげなくおしゃれに演奏したり、突然激しい転調をし思わず驚かされるドラマティックな表現など、シューベルトならではの、迷路に入りそうで入らない絶妙な世界を、実に魅力的に聴かせてくれた。

 第1楽章は早過ぎず、遅過ぎず、いいテンポだ。比較的長い旋律的動機を展開させていく作曲技法とその旋律的動機をオクターヴを重ねて表現する書法はこのソナタで特徴的だが、それを鮮やかに引き締まったテンポでまとめ上げたのは素晴らしい。

 第2楽章は歌い過ぎず、静と動の感情表現が実に鮮やか。中間部の劇的に展開する箇所は、歌詞のないリートを聴いているよう。

 第3楽章のメヌエットは少し速めであっさりとした表現。

 第4楽章のロンドは、ロンドソナタ形式風でやや長めの楽章だが、心地よいテンポで饒舌にならずに、全体をバランスよくまとめ上げた演奏。

 

 今日の楽器(スタインウェイ)は実にバランスの良い調整と調律。最後にケフェレックがピアノに向かって拍手を贈っていたが、柔らかく、まろやかな整音ときれいに揃った調律が見事。一切楽器から雑音が聞こえてこないよくコントロールされた演奏と楽器の性能の良さが完璧に一致した素晴らしい演奏会だった。

 アンコールにサティのグノシエンヌ 第1番。


2024/03/06

 びわ湖ホール プロデュースオペラ 

R.シュトラウス 作曲 『ばらの騎士』全3幕


2024年3月3日14:00  びわ湖ホール・大ホール


指揮/阪 哲朗

演出/中村敬一

管弦楽/京都交響楽団


元帥夫人:田崎尚美

オックス男爵:斉木健詞

オクタヴィアン:山際きみ佳

ファーニナル:池内 響

ゾフィー:吉川日奈子

マリアンネ:船越亜弥

ヴァルツァッキ:高橋 淳

アンニーナ:益田早織

警部:松森 治

元帥夫人の執事:島影聖人

ファーニナル家の執事:古屋彰久

公証人:晴 雅彦

料理屋の主人:山本康寛

テノール歌手:清水徹太郎

合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル /大津児童合唱団



 阪哲朗のびわ湖ホール芸術監督就任の初公演、2日目を聴く。

 物語はご存知のように、好色な田舎貴族が地位を利用してセクハラを続け、更に政略結婚を企てるが、逆に弾劾され、すごすごと引き下がる。

 これに青年貴族と浮気している元帥夫人が絡む。演出家が読み替えしたくなるような内容だが、もちろん当然今日はオリジナルに従った演出。


 舞台セットは18世紀の貴族の館をコンパクトに作り上げていて、特に第2幕のファーニナルの居館は奥行きがあり、第1幕の元帥夫人の居室より豪華な雰囲気。ばらの騎士が登場するシーンは期待感を抱かせ、かつ華やかなさもあってとてもよかった。第3幕は見慣れた地下の居酒屋。セットは全幕で舞台天井まで作り上げておらずこれは予算削減かと思ったが、第3幕で騒動が収拾したあとで、夜空で星がキラキラするシーンが見えるようになっており、それまで気がつかなかったが、当初から空を意味していたのかもしれない。

 主だった役柄の衣装は18世紀にこだわらずに色々な時代の服装だったようだ。召使たちはタキシード着用など現代風の衣装だったが、すべて違和感はなかった。


 昨年までのワーグナーで名演を聴かせた京響が、今回も大健闘。今日はおそらくリハーサルなど音出しの機会がないまま、いきなりの演奏で、この作品の場合はかなりシビアだったのでは。冒頭はやや不調気味だったが、1幕後半から本調子になったようだ。ワーグナーのように力技で勝負できる作品とは違い、濃厚でまとわりつくような表現など淡白な日本のオーケストラだと苦手な表現が多いが、今日の京都交響楽団はかなり熱演。重箱の隅を突けば色々あるのかもしれないが、幕が進むに連れて、弦からはかなり厚みのある音と豊かな表現が聴こえてきてた。阪の指揮ぶりが光った演奏。


 オックス男爵の斉木健詞 は、今までここの劇場で観た見事なワーグナー役からするとガラリと違う雰囲気の役柄だ。斉木はどちらかと言うとドン・ジョバンニ風の体型と声で、体型にもう少し膨らみがあると好色貴族の雰囲気がより出たのかもしれないが、コミカルな雰囲気がよく出ていてとても楽しめた。

 元帥夫人の田崎尚美は、冒頭からオクタヴィアンを圧倒する大人の色気が感じられ、一幕後半のオクタヴィアンが再登場する頃からは、色気に元帥夫人らしい落ち着きと威厳が加わり、こちらも好演。

 オクタヴィアンの山際きみ佳は若々しい情熱あふれる演技と歌で、今日の公演を観る限り最も存在感があった。全幕の重要なシーンで必ず登場するためでもあるが、その都度色々な感情の変化を表現、聴衆を魅了してくれた。

 ゾフィーの吉川日奈子はやや硬めながらも役柄の年齢に相応しく、熱演。ファーニナルの池内響、警部の松森治はともに好演。特に警部は第3幕での主役かと思うほどの存在感があり、オックス男爵を完全に食っていたが、劇の進行から行くとちょどよかったのかもしれない。そのほかの出演者もドタバタ喜劇にならずに、全体的によくまとめ上げられていたいい上演だった。

 字幕は全体的に意訳が多過ぎて、細かいストーリー進行がわかりにくところがあったのは残念。


 来年度はコルンゴルドの「死の都」。名演出家の故栗山昌良による舞台。来年度のびわ湖ホールは栗山昌良イヤーで、さらに2公演予定されている。彼には伝説的な名演出の蝶々夫人(最近では2022年9月11日新国立劇場)があるが、それ以外の演出をまとめて鑑賞できる絶好の機会になる。

2024/03/05

 ハイドンマラソン HM.34 


2024年3月1日19:00  ザ・シンフォニーホール


指揮/飯森 範親(日本センチュリー交響楽団 首席指揮者)
チェロ/佐藤 晴真

管弦楽/日本センチュリー交響楽団


ハイドン:交響曲 第80番  ニ短調 Hob. I:80
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲 イ長調 作品33
ハイドン:交響曲 第102番  変ロ長調 Hob. I:102 



 ハイドンマラソンは日本センチュリー交響楽団と飯森範親がハイドンの交響曲全曲を演奏するビック・プロジェクトで、今回が34回目。あと4回で来年度内に完結予定。全て録音しすでに22巻までCD発売されており、好評のようだ。


 ハイドンの交響曲はオーケストラの定期演奏会でも、来日海外オーケストラ公演でも、ほとんど演奏される機会はない。札響でもハイドンの交響曲を聴いたのは一体いつだったのか思い出せない。それだけ人気がないのか、演奏が難しいのか、理由はよくわからない。


 今日あらためてライヴで2つの交響曲を聴いてみると、心に焼き付くメロディーがたくさんあるわけでもないが、素材・動機だけでシンプルに仕上げられた職人的な作曲技法による名品だ。それゆえ、どんなにいいオーケストラでも、思い付きで演奏して形にするのは意外と難しいような気がする。

 ただし、こうしてライヴで演奏され、その全貌が明らかにされることによって、モーツァルトやベートーヴェンを先取りした作曲技法とハイドン以降の時代につながる革新性を持った作品であることを、広く聴衆に直接認識してもらうことが出来る。この全曲演奏の意義は、ここにありそうな気がする。滅多に聴く機会のない交響曲全曲を、ただ単に演奏して聴かせるだけで終わらせてしまうのでは実にもったいない話だ。


 さて、今日のハイドン。このオーケストラは基本が第1ヴァイオリン8名による室内オーケストラ仕様の編成で、まるでハイドンを演奏するために編成されたみたいだ。配置はチェロ・バスが下手側に、第2ヴァイオリンが上手側に座ったいわゆる対向配置だが、これはハイドン用の仕様ではなく、チャイコフスキーも同様だったので、飯森の好みのようだ。

 全体的に引き締まったきびきびとした表現。緩徐楽章でのノンビブラートとクリアなアーティキュレーションによる表情など、聴衆を惹きつける解釈もあり、歯切れ良く先にどんどん進んでいく指揮ぶりだ。現代の様々な演奏スタイルを明確に反映させた解釈で、聴衆を退屈させることなく全体をまとめ上げる構成力はなかなか素晴らしい。

 その点で成功していたのは後半の102番。解釈が徹底していてわかりやすく、ハイドンの作品の精緻さがよく伝わってきた演奏だった。

 冒頭の80番はやや固さがみられ、例えると、飯森の実験的試みにオーケストラが充分反応し切れていないような印象を受けた。演奏全体にもう少し活気があれば、とちょっと惜しまれる。


 チャイコフスキーを弾いた佐藤晴真は素晴らしかった。この作品でチェロがこれだけ明確に聴こえてきて、しかも細部までしっかりと仕上げられた演奏は初めて。オーケストラの編成が8型と小さかったためもあるが、これは演奏者の力量と、ホールの豊かな響きのためなど、さまざまな条件が重なったためだろう。また響きがロマン派仕様にガラリと変わり、もちろん指揮者の力量によるものだろうが、オーケストラが冒頭のハイドンとは異なり、生き生きと演奏していたのが印象的。

 だが、このシリーズでなぜチャイコフスキーが登場するのかよくわからない。ハイドンのチェロソロ関連の作品はすでに演奏済みだったとしても、だ。

 ソリストアンコールでバッハの無伴奏組曲第3番からサラバンド。


 このオーケストラのシリーズ公演を聴いたのは初めて。1989年設立で定期公演数はまだ280回。成熟度が増すのはこれからのようだ。8型の室内オーケストラ仕様なので、編成の大きな作品だと制約があるのだろうが、このハイドンシリーズでオーケストラの基礎能力はかなり鍛えられたのではないか。これからが大いに楽しみなオーケストラだ。

 ハイドンマラソン、ゴール到達後どうするのか、期待しよう。