2021/10/18

若い芽の音楽会〜北国を翔ける新星


北海道教育大学・札幌大谷大学の卒業生・在校生12組が出演


20211016日14:00 札幌コンサートホールKitara小ホール


プログラム

<サクソフォン四重奏>

 ソプラノサクソフォン/大石 涼 アルトサクソフォン/近本 歩実

 テナーサクソフォン/岩城 光大 バリトンサクソフォン/城 史花

  マスランカ:レシテーション・ブック 5楽章

  村松 崇継/浅利 真編曲:生命の奇跡 for SAXOPHONE QUARTET


<木管五重奏>

 フルート/中島 由衣 オーボエ/大堀 祐香 クラリネット/井上 

 ホルン/金崎 紗奈 ファゴット/山田 陽未

  ツェムリンスキー:ユーモレスク

  ダンツィ:木管五重奏曲 ヘ長調 作品68-2より 1楽章


<フルート・デュオとピアノ>

 フルート/類家 千裕、越中 萌々香 ピアノ/泉 そよか

  真島 俊夫:紅~2本のフルートとピアノの為の

      第1 「秋風」、第2 「黄昏色」、第3 「紅燃ゆる」


<ピアノ・ソロ>

 ピアノ/畠山 桃子

  ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 2 変ロ短調 作品36より 

      第2楽章、第3楽章


<サクソフォン四重奏>

 ソプラノサクソフォン/鈴木 ゆりあ アルトサクソフォン/中村 寿

 テナーサクソフォン/渡邉 丈留 バリトンサクソフォン/伊藤 拓朗

  伊藤 康英:木星のファンタジー

  長生 淳:彗星 トルヴェールの「惑星」より  

                   サクソフォン四重奏のための


<クラリネット三重奏>

 クラリネット/鈴木 聖来 ヴィオラ/垣原 慰吹 ピアノ/沼田 唯花

  ライネッケ:クラリネット、ヴィオラとピアノのための三重奏曲 

        イ長調 作品264より 1楽章


<ソプラノ・ソロ>

 ソプラノ/櫻井 彩乃(ピアノ伴奏/石井 ルカ)

  ドニゼッティ:歌劇 「アンナ・ボレーナ」

        “あなたたちは泣いているの?私の生まれたあのお城


<ピアノ・ソロ>

 ピアノ/仲鉢 莉奈

  ブラームス:3つの間奏曲 作品117より 1曲、第2


<オーボエ・ソロ>

 オーボエ/大堀 祐香(ピアノ伴奏/田中 望未)

  ポンキエッリ:カプリッチョ


<トロンボーン四重奏>

 トロンボーン/山田 颯音、金子 奈央、井深 瑞希、和田 圭吾

  ブルジョワ:トロンボーン四重奏曲 作品117


<ヴァイオリン・ソロ>

 ヴァイオリン/垣原 遥愛(ピアノ伴奏/中村 和音)

  サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン 作品20


<ピアノ・ソロ>

 ピアノ/信濃 りかこ

  リスト:メフィスト・ワルツ 1 「村の居酒屋での踊り」 S.514



    緊急事態宣言解除後の最初のKitara主催事業が北海道で学んだ若手の演奏会だったのは未来への希望が持て、縁起がいい。通常通りの開催となり賑やかさがやっと戻ってきた。

 標題の演奏会は音楽コースを有する北海道教育大学と札幌大谷大学から推薦された在校生、卒業生が出演するコンサート。おそらくホール開館7年目の2003年から開催されているシリーズなのでもうすぐ20回だ。


 コロナ禍で昨年中止になり、今回久々の復活公演。いつもは5月の連休開催なので、1年半ぶりの開催。昨年の出演予定者6組も出演したので、いつもの倍の 12組の出演となった。アンサンブルメンバーの変更、曲目変更があったり、大学を卒業し社会に出て活躍あるいは留学予定の出演者もいる。


 全員満を持しての出演で、特に管楽器アンサンブルのレベルの高さに感心した。

 サクソフォーン四重奏は二組、いずれも現代の作品を演奏。演奏テクニックは安定していて、楽器のサウンドもきれい。

 両組ともとても音楽的で、クラシックの枠にとらわれない自由で伸び伸びした感性で、技術的な難曲も、静かで落ち着いた曲も申し分なく表現されており、なかなか聞きごたえのある演奏だった。中でも長生淳作品の多彩な表現が特に良かった。このジャンルは、一般にはなかなか馴染みがない分野だが、作品と楽器の魅力を充分伝えてくれたのではないか。


 トロンボーン四重奏は全員安定したテクニックの持ち主で、よく歌い込まれたアダージョが印象的。各楽章の対比が鮮やかで、楽しめた。

 木管五重奏は今回の管楽器アンサンブルの中では唯一クラシックな作品を演奏。落ち着きある演奏で、ダンツィの明るく伸びやかな音楽が若々しく表現されていた。

 フルートデュオとピアノは紅葉を迎える今の季節にピッタリの作品。衣装もお揃いで素敵。色々なフルートが登場し、楽器の音色も楽しめたが、このアンサンブルは、3人のサウンドがばらばらになることがなく、しっかりと大きな一つの響きとなってまとまって聴こえてきたのが素晴らしい。アンサンブルとしての深みを感じさせたとてもいい演奏だった。

 

 オーボエソロは技術的に高度な箇所も難なくこなした名演だ。オーボエにとっては超絶技巧の作品なのだろう、細部まで吹きこなしており、作品の価値をしっかりと伝えてくれた。伴奏はゆとりがあり、オーボエをよく支えていた。

 クラリネット三重奏はヴィオラが入った珍しい編成。古典のライネッケの、当時の色々な作曲家の影響を受けている多様な顔が見えて楽しかった。

 ヴァイオリンソロは、原曲の熱いエネルギーが伝わり、ピアノともども熱演。

 

 ソプラノソロは、テューバ専攻から2年前に声楽専攻に転向したそう。声量があり表現力豊か。わずか2年でこれだけ歌えるのは、将来が楽しみ。ピアノがドニゼッティの軽快な音楽をよく表現し、いい音が出ていた。


 ピアノソロでは、ラフマニノフはピアノが良く鳴っていたし、表現力もあり楽しみなピアニストだ。大男が弾くような大曲をよくまとめていた。

 ブラームスはよく歌い込んだ音楽的な演奏。しみじみとした秋の風景にふさわしい。

 リストは技術的にも音楽的にもスケールの大きさが感じられた演奏。これから留学するとのこと、将来に期待しよう。


 今回のピアノは今までKitaraで聴いたことのない音色。新しいスタインウェイだと思われるが、個性的なサウンドで、興味深い音がしていた。このピアノの音が今後どのように変化していくかも楽しみだ。

 

 この演奏会シリーズでは、本番にありがちなトラブルやミス、もっと技術を身につけなければならない者など課題はいつもたくさんあるが、若いエネルギーが感じられ、毎回心地よい印象を受ける。

 2003年のプログラムと比較すると、その内容は大きく変化している。管楽器のアンサンブルが増え、それに伴いプログラムに20世紀の作品が増え、演奏様式も多様化してきている。芸術文化の様式や流行の変化が最も端的に現れてくる演奏会かも知れない。その点でもっと注目されていい。

 また来年、どのような新人がデビューするか、とても楽しみである。

2021/10/09

 園田高弘ピアノリサイタル


2003121319:00   札幌コンサートホールKitara 小ホール

ベートーヴェンピアノ作品連続演奏会第5回


ベートーヴェン 幻想曲 ト短調 作品77

       ピアノソナタ 第32番 ハ短調 作品111

       ディアベルリのワルツによる33の変奏曲 

                      作品120


 オープンから20数年経過すると、札幌コンサートホールで名演を聴かせてくれた演奏家の中には、他界した演奏家も少なからずいる。日本人では園田高弘。公式HPによると1928年生まれで200410月逝去。演奏家としてはこれから円熟の極みに到達する年齢だっただけに惜しまれてならない。

 

 園田はKitara主催事業には2回出演しており、標題のコンサートが第2回目。初登場はベートヴェンピアノ作品連続演奏会のシリーズ第1回で、2001103日。ピアノソナタ第2729番の後期ソナタ三曲を演奏し、巨匠らしい堂々とした見事な演奏だったが、園田の名音楽家としての素晴らしい存在感を示してくれたのはむしろこの第2回目だと思っている。プログラムがとても魅力的でベートーヴェンの晩年を色濃く物語る作品ばかりだ。


 次々と色々な楽想が登場する一風変わった作風である幻想曲は、意外と聴く機会が少ない。園田の演奏は細部を精密に整えるというよりは即興的要素を反映させたスケールの大きな演奏で、幸いこの演奏はKitara 開館10周年記念CDに収録されており、今でもその名演を聴くことができる(2007年7月4日の10周年バースデイコンサートの来場者にプレゼントされた非売品)。

 ソナタ第32番とディアベルリ変奏曲はまるで一つの大きな作品のようだった。技術的にも音楽的にも日本人演奏家としては最高のレベルで、やや硬質だが決して芯がぶれない気骨のある演奏。語り口はスマートではないが、真摯で、嘘偽りのないベートーヴェンの音楽世界を見事に表現した名演だった。


 当時は開館4年目で、新しいスタインウェイにいいサウンドが出てきた頃だ。園田のサウンドは必ずしも美しい音ではなかったにせよ、言葉では表現できない深い味わいのある魅力的な音だった。

 手元に詳細なデーターがないので断言は出来ないが、Kitara で大曲のピアノソナタ第29番とディアベルリ変奏曲の両方を演奏したのは園田ただ一人だ。

 戦後すぐにデビューし、ヨーロッパで活躍した数少ない選び抜かれたエリート達の世代の演奏を聴けたのはとても貴重な機会でもあった。2004年12月9日の札響定期でブラームスのピアノ協奏曲第2番を演奏する予定だったが、果たせなかった。



写真は園田高弘帰朝演奏会

札幌公演予告パンフレット

(M•N氏提供、年代不明)