札響の第9
2023年12月17日13:00 札幌コンサートホールKitara大ホール
指揮 /松本 宗利音
ソプラノ /中江 早希
メゾソプラノ /金子 美香
テノール /宮里 直樹
バリトン /大西 宇宙
合唱 /札響合唱団、札幌大谷大学芸術学部音楽学科合唱団ほか
管弦楽/札幌交響楽団
藤倉大:グローリアス・クラウズ
ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」
今年の第9は1993年大阪出身の松本宗利音。今回は冒頭に藤倉大の作品。第67回尾高賞を受賞しており、作曲者自身のHPによると、世界初演は名古屋にて名古屋フィルハーモニー交響楽団で、その後フランスとドイツで初演が行われ、YouTube上におそらくドイツ初演と思われるケルンWDR放送交響楽団の演奏がアップされている。
「微生物は、腸内はもとより、皮膚にも棲みついている。地球上あらゆるところに生息する微生物の生態はオーケストラそのものだ」、というユニークな発想から書かれた作品。
この作品を第9の前に取り上げたのは、シラーの詩にWollust ward dem Wurm gegeben(虫けらにも官能の喜びが与えられ〜当日配布プログラムより)とあるのでその関連かとも思ったが、Wurm は微生物より大きい虫のことなので、ちょっと違うようだ。尾高賞受賞関連か、それとも特に理由はないのかもしれない。(この作品はhitaruシリーズ第8回定期2022年2月17日に松本宗利音の指揮で演奏される予定でしたが、都合により中止された曲目でした。失念しており大変失礼しました。2024年1月22日加筆。)
スコアはその微生物の動きを表現するために相当詳細に書き込まれているようだ。音楽における点描主義とも言えるのかもしれないが、それらが積み重な
って何か大きな姿が見えてくるのかとも思ったが、そういう作品でもないらしい。藤倉大らしいアカデミックな枠組がほとんど聴こえてこない自由な発想の作品だが、今日の演奏は、やや輪郭が不鮮明で、全体的にどこか掴みどころがなく、これが本当の作品の姿なのかどうかはよくわからなかった。
定期公演の配布プログラムにはいつも楽器編成が掲載されているのだが、今日は無し。特別な編成ではなかったようだが、現代の作品には楽器編成がわかった方が鑑賞の手引きにもなっていいのでは?
第9は第4楽章が素晴らしかった。昨年はコロナ禍の影響下、P席で合唱団はマスク着用で一席ずつ空けての着席だったが、今年からマスク無し、空席無しの通常通りの配置で聴衆は合唱を聴くことができるようになった。
器楽的でけっして歌いやすい作品とは思えないが、表現に力強さがあり、跳躍音程や各パートの限界を超えるようなハイポジションの声部でも音程はきちんと決まっていて、特にソプラノの持続するピアニッシモでの2点Gや2点A音などの箇所などピッチはもちろん、音楽的にも素晴らしかった。久しぶりに聴いた高水準の合唱だった。
ソリストは4人とも安定しており、声量も申し分ない。今日は特に堂々とオペラティックな歌唱を聴かせたバリトンの大西宇宙が良かった。
ここに至るまでの3つの楽章を、松本は全体的に速めのテンポであっさりと仕上げた演奏。第1楽章は颯爽とまとめ上げ、快演だったが、管楽器グループの表情が淡白すぎて単調になりがち。もっと歌わせて、彼らならではの美しい音色と調和を引き出すとより楽しめたのではないか。第2楽章は鋭い表現で、輪郭がしっかりしており、今日の中では出色の出来だった。
第3楽章はきれいに仕上がったとても楽天的な演奏。この楽章だけ取り出して聴くにはいいかもしれないが、やや密度の薄い演奏で、もっと繊細な表情があったほうが次の楽章への期待感などが伝わってきたのではないだろうか。
コンサートマスターは会田莉凡。
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