札幌交響楽団 第646回定期演奏会
2022年 6月26日13:00 札幌コンサートホール Kitara大ホール
指揮・ヴァイオリン /ドミトリー・シトコヴェツキー
管弦楽 札幌交響楽団
J. S. バッハ(シトコヴェツキー編) :ゴルトベルク変奏曲(弦楽合奏版)
チャイコフスキー:白鳥の湖 組曲
ゴルドベルク変奏曲の弦楽合奏版は札響初演。この変奏曲は周知のように、最初と最後に変奏の主題となるバス主題を伴うサラバンド風の美しい主題が置かれ、変奏は3曲でひとつのグループを形成し、それが10グループで構成された合計30曲の変奏曲となっている。
3曲グループは、舞曲やフゲッタ、序曲、装飾豊かな緩徐曲からなる自由変奏、2段鍵盤チェンバロの機能を駆使した技巧的な変奏、次第に模倣の音程が拡大していく2声カノンから形成されている。
このうち、自由変奏と2声カノンは弦楽器用に編曲しても違和感がないが、鍵盤楽器特有の技巧的変奏曲がどのように表現されるかが、この編曲のキーポイントだろう。
その点で最も成功していたのが第23変奏。猫とネズミの追っかけっこのようなユーモラスな様子が見事に表現され、特に厳格な上行音型(後半は下降音型)に、合いの手で絡まる32分音符の音型がすっきりとはまっており、オーケストラも熱演。
そのほかにもトゥッティで開始し、その後ソロで対話するなど編曲に様々な工夫があって面白かったが、いくつかの変奏では技術的な要素が反映し切れてなかったものもあった。
自由変奏では第13、25変奏での緩徐楽章が弦楽器ならではの美しさが感じられ、これはきれいだった。2声のカノンは鍵盤楽器では聴きにくい各声部の進行がよくわかり、これも弦楽合奏ならではの楽しみ。
全体の折り返しとなる第16変奏のフランス風序曲が華麗さ、力強さにやや欠けていたのが惜しい。
全体を通して、大活躍だった第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの各首席の優れたテクニックと高い音楽性に拍手。通奏低音を弾いたチェンバロのプロカッチーニの自由自在な即興も素晴らしかった。
ソロと指揮のシトコヴェツキーは好演だが、編曲そのものは弦楽三重奏版がベースで、オーケストラ版ならではの強いオリジナリティをあまり感じさせない。演奏はバランスの取れた上質の響きがして、団員の自主性を引き出した聞き応えのある内容だったが、バッハの究極の鍵盤音楽ゆえ、この作品を弦楽合奏だけで表現するには、もう少し緻密な指示で意志統一を図り、編曲者の意図をもっと強く伝てくれると、より楽しめた演奏になったのではないか。
後半のチャイコフスキーは、定期に登場するのは60年振りだそうだ。前半出番がなかったためか、疲れを感じさせない生き生きとした管楽器群とゴルドベルクの緊張感から解放され、伸び伸びとした弦楽器群が、充実した響きを生み出した快演。
この作品はもう481回(当日配布プログラムによる)も演奏しているだけあって、アンサンブルと音楽は練れており、指揮者はテンポとポイントとなる箇所を指示しているだけのようだ。あとはオーケストラにお任せのような雰囲気。
やや硬質だが、情緒に溺れることなく、とてもスマートな演奏。技術的にも音楽的にも充実し、安定し落ち着いたチャイコフスキーで、札響の優れたバランス能力の高さが存分に発揮された、とても楽しめた演奏。コンサートマスターは会田莉凡。チャイコフスキーでのソロが、豊かな音色でとても素敵だった。