2022/06/13

 Kitaraアフタヌーンコンサート>

そよ風のバロック

~ヴァイオリン&チェンバロの音色にのせて~


202261214:00  札幌コンサートホールKitara小ホール


バロック・ヴァイオリン/若松 夏美
チェンバロ/ニコラ・プロカッチーニ

     (第22代札幌コンサートホール専属オルガニスト)


J.S.バッハ

ヴァイオリンとオブリガート・チェンバロのためのソナタ 

                      第1 ロ短調BWV1014


平均律クラヴィーア曲集 1巻より プレリュードとフーガ 8

                         変ホ短調 BWV853


ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ホ短調 BWV1023


ヴァイオリンとオブリガート・チェンバロのためのソナタ 

                             3 ホ長調 BWV1016



    若松夏美はKitaraには何度も来演しており、札幌のファンにはお馴染み。昨年11月には(20211123)バッハ・コレギウム・ジャパン公演で来札。ブランデンブルグ協奏曲で名演を披露してくれたのは記憶に新しいが、小ホールでじっくりとソロを弾くのはおそらく初めて。

 日本のみならず世界の古楽界の第一線で活躍しているだけに、安定感、表現力は素晴らしい。いつものように、柔らかくて、しなやかな表情が魅力的。


 今日のチェンバロ(ホール所有のミートケ・モデル)は響きがまろやかで聴きやすかった。よく弾きこまれていた音で、状態はいいようだ。プロカッチーニはオルガン同様、チェンバロでも、よく響くふくよかな音を出すので、特に今日のようなアンサンブルでは、相手を邪魔することなく、いいバランスで聴こえてくる。

 冒頭のロ短調ソナタのアダージョから、表情豊かな美しい音色で聴衆を魅了し、全体的に彼の感性の豊かさが伝わってきたいい演奏だった。


 今回は作品によって若松が演奏位置を移動。オブリガート・チェンバロのためのソナタは上手側でチェンバロのテール寄りで演奏し、通奏低音のためのソナタは下手側チェンバロ奏者のすぐ近くで演奏。前者の場合は2人がソリスティックに、後者の場合はより一体感のあるアンサンブルに聴こえ、この対比は面白かった。個人的には、後者の方がここの小ホールは、よく響き、客席では聴きやすいと思う。


 バッハのヴァイオリンソナタは名作だが、意外と演奏機会が少なく、今回のように2曲まとめて聴けるのは珍しい。ひょっとするとKitara初演かもしれない。

 2曲共に緩・急・緩・急の4楽章構成で、前半の2つの楽章と後半の2つの楽章はそれぞれ共通のモティーフで作曲され、統一感を出している。ライブで聴くと、アンサンブルの書法は実に見事で、一瞬の隙も許さない厳しさと、両者の対話が生み出す立体感の素晴らしさがよくわかる。一筋縄では行かない、かなりの難曲で、今日のように名手が2人揃わないと演奏できない作品だ。


 最後の第番が特に良かった。ヴァイオリンもチェンバロも会場の響きに馴染んできて、音がスッと通るようになり、2人の対話にも余裕がでてきたようだ。若松の伸びやかな表情とプロカッチーニの歯切れ良いリズム感とが一つとなって、心地よいアンサンブルの世界を創出。バッハのきめ細かい書法がよく反映された演奏で、第1楽章の推進力のある幅広い表情、第2楽章の歯切れの良い、両者の声部の対話の鮮やかさ、第楽章の、メロディと伴奏のように単純に見せかけながらも実は密度の濃いアンサンブル(時代を先取りしたユニークな楽章だ)、第4楽章の3声部の見事な対話など、この作品の醍醐味を味わうことが出来た名演だ。

 同じオブリガート・ソナタ第1番は、冒頭ということでやや硬さがあったにせよ、2人の優れた表現力による高度なアンサンブルで、好演だった。


 通奏低音のためのソナタでは、若松の溌剌とした伸びやかな表情と、プロカッチーニのふくよかで生き生きとした、即興演奏が見事。2人ともオブリガート・ソナタと違い、楽譜にとらわれない、より自由な感性が発揮された一体感のある濃密な演奏で、これは楽しかった。個人的には、演奏ポジションはこちらの方がいいと思う。


 チェンバロソロは、調性を他の3曲と合わせて統一感を出そうと、オリジナルの変ホ短調から全てのフラット記号を省いた調性(ホ短調)に移調して演奏したようだ。和声が綺麗すぎて、オリジナルの調性の底力がある迫力に欠けたような気がするが、それを除けば、前奏曲が即興的雰囲気がよく表現されていて良かった。


 アンコールが2曲。ジェミニアーニのヴァイオリン・ソナタ イ短調 作品4-5 より楽章 アンダンテと、J.S.バッハのヴァイオリン・ソナタ ト長調 BWV1021 より第1楽章 アダージョ。


 Kitaraホームページでも演奏者2人の写真が紹介されていたが、若松夏美の衣装が素敵。ステージ映えがし、今日のプログラムにふさわしい雰囲気が出ていて、印象に残った。


 場内は満席で補助席が出るほど。日曜のお昼で、一時間の短い、しかも名手によるバッハのコンサート、ということで人気があったようだ。

Kitaraならではのとてもいい内容のコンサートだった。

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