東京二期会オペラ劇場
蝶々夫人
2022年9月11日14:00 新国立劇場オペラパレス
指揮/アンドレア・バッティストーニ
演出/栗山昌良
蝶々夫人/木下美穂子
スズキ/藤井麻美
ケート/角南有紀
ピンカートン/城 宏憲
シャープレス/成田博之
ゴロー/大川信之
ヤマドリ/杉浦隆大
ボンゾ/三戸大久
神官/的場正剛
合唱/二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部
管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団
素晴らしい上演だった。まず、栗山昌良の演出。これはもう何度も再演され、高い評価を受けている名演出(1957年初演、過去8回再演。二期会プログラムによる)だが、今回はバッティストーニのドラマティックな優れた指揮と相まって、舞台と音楽が見事に一致した一つの理想像を描いた名上演と言えるだろう。
外国人が創作した薄幸の日本人女性を主役にした歌劇を、日本人の優れた感性によってドラマの歴史的背景を忠実に再現し、場面ごとの登場人物の衣装と所作を、微に入り細に入り繊細かつ丁寧に、しかも美しく表現した演出。
単に舞台セット、衣装が美しい、ということだけではなく、各シーンごとの時代背景がしっかり時代考証されており、正統的な解釈による説得力のある舞台。また,それらを聴衆に的確に示してくれた照明と、衣装を担当した岸田克己の優れた感性もこの公演の成功の原因の一つだ。
よくある外国人から見た、矛盾だらけのエキゾチックな日本のドラマでもなく、最近主流となっている舞台を現代に読み替えた演出でもない。日本人の心の琴線に触れる伝統的な日本を美しく描いた舞台である。この様な舞台は本当に久しぶりで、落ち着いて鑑賞出来る。
それに加え、バッティストーニの冴え切った、歯切れの良い、ドラマティックで、かつ登場人物の性格と場面ごとの感情の変化をこの上なく豊かに,かつ繊細に表現した指揮は、見事と言わざるを得ない。前回の蝶々夫人公演時(2019年10月3日東京文化会館)よりも表現の幅はさらに広がり、特に多彩で優れた心理描写、情景描写に格段の成長が見られた。
木下の蝶々夫人が圧巻。もう何度も演じた役柄とは言え、豊かな表情、演技力、シーンごとに着替えた和服姿に相応しい所作は申し分ない。第2幕で、息子を連れて登場した以後のアリア、演技,第3幕でのアリアなど、涙なしでは観れない見事な蝶々夫人だった。藤井のスズキとの阿吽の呼吸も見事。カーテンコール時の所作も美しく、日本人ならではの感性を十二分に伝えてくれた。
ピンカートンの城 はやや生真面目な雰囲気があり、敵役になりきれない人の好さを感じさせたが、ピンカートンの煮え切らない性格のある一面をよく表現していたのでは。シャープレスの成田も比較的ヒューマンな領事として描かれていた。
ヤマドリの杉浦、ボンゾの三戸が好演。また冒頭の蝶々夫人の同輩の芸者達のコーラスはもちろん、黒紋付きの振袖の衣装などが素敵だった。脇役がしっかりしていると全体が引き締まって、とてもよかった。
バッティストーニは、2018年札幌文化芸術劇場の柿落とし公演での「アイーダ」を指揮、札幌のオペラ公演史上、最高の演奏を披露してくれたのは記憶に新しい。近い将来、是非、また札幌での公演を期待したい。
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