森の響フレンド札響名曲コンサート
~下野竜也の三大交響曲〜
2022年9月 3日14:00 札幌コンサートホールKitara 大ホール
指揮 /下野 竜也
管弦楽/札幌交響楽団
シューベルト:交響曲第7番「未完成」
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」
ドヴォルジャーク:交響曲第9番「新世界より」
開演前に下野のプレトークがあり、彼ならではのこだわりが込められた興味深いもの。
例えば、「新世界」で、今日テューバが不在な理由について。ドヴォルジャークはバス・トローンボーンのために書いたが、アメリカではこの楽器を使用しないため、それでテューバで代行したのが後に慣例となった。今日は(オリジナルの)トロンボーンで演奏すると言う話などを約15分。
本日の演奏は、編成がコントラバス7本の14型の大編成のためか、全体的に弦楽器が豊かに響き、しかも骨組みがしっかりしていて、下野の作品に込めた強い意志の力を感じさせたスケール感ある演奏だった。前回8月4日のhitaru定期で、バーメルトの代役を見事に果たした下野の好調ぶりがそのまま継続されていたようだ。
特に印象に残ったのは、各交響曲での緩徐楽章。ピアノ、ピアニッシモでの表情が豊かで、アンサンブルも緻密で素晴らしい。ピッチ、音色がきれいで完成度の高い演奏。前後の速い楽章との対比がより鮮やかになり、名曲の魅力ここにあり、とも言える好演だった。
というわけで、「未完成」は緩徐楽章の第2楽章が編成が大きいにも関わらず、弦楽器セクションの繊細な表情が美しく、そこに遠くから聴こえてくるようなオーボエ、クラリネットの上質なソロが加わり、ほぼ万全の仕上がり。一方で内声部が充実しており、安定したチェロ・バス群と相まって、厚みのある豊かなハーモニーが広がり心地よかった。
この楽章の冒頭、ヴァイオリンの美しい主題がややピッチが不安定で、響きが抜けてこなかったのが惜しい。再現部では完璧だっただけにちょっと残念だった。
「運命」は、この作品のデモーニッシュな面を見事に表現した、堂々としたスケールの大きな仕上がり。第2楽章の冒頭のヴィオラとチェロによる変奏曲の主題、第3楽章の冒頭、チェロ・バスの主題など、弱音で、かつユニゾンで動く旋律の表現力が素晴らしかった。単純明快な箇所がとても丁寧に、かつ緊張感ある表情での演奏で、作品全体に立体感を与えていた。第2楽章の変奏曲はやや停滞気味の箇所もあったが、ライブゆえのハプニングだろう。
「新世界」はプレトークにもあった通りテューバ無しでの演奏。
第2楽章のラルゴが出色の出来。抜粋でよく聴く楽章だが、全4楽章の中で聴くと、よりこの楽章の持つ優しさ、美しさがよく伝わって来る。やはり格別な名作との印象をあらためて感じた。
全曲をライブで聴くのは久しぶりだが、各楽章の表現の対比の見事さ、リズミックなモティーフの鋭さとドラマティックな表現、全体の構成力など完成度は申し分なく、オーケストラの集中力も素晴らしかった。
欲を言えば、この作品に限らず、全体的に緩徐楽章で、管楽器グループの入りが、もう少しフワッとした柔らかい入り方だと好印象になるのでは、と感じた箇所がいくつかと、時々力が入り過ぎたのか、音が開き過ぎて、やや音色が荒くなった箇所がほんの僅かだが、あったのが気になった。
とはいえ、これだけの完成度の高い演奏は下野の功績によるもの。今後の活躍に大いに期待しよう。
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