2023/04/25

 札幌交響楽団 652 定期演奏会


202342313:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/川瀬 賢太郎(札響正指揮者)
ピアノ/オリ・ムストネン
管弦楽/札幌交響楽団


ムソルグスキー(ショスタコーヴィチ編)

       歌劇「ホヴァンシチナ」前奏曲〝モスクワ川の夜明け〟

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 3
ラフマニノフ:交響曲 2番 


  2023年新シーズン定期の開幕は川瀬の指揮。ラフマニノフが良かった。

 プログラムに掲載された川瀬の文章によると、この作品をもう10回以上指揮をしているとのこと。そのためか、音楽作りに迷いが一切なく、音楽が練れていて、聴いていて安定感がある。

 溌剌としたエネルギーが感じられ、ラフマニノフならではの息の長いフレーズは一気に歌い上げ、また、色々なモティーフが錯綜して迷路のようになっている箇所でも、明確に交通整理をして、わかりやすくまとめ上げていて、気持ちがいい。

 約1時間の大作で、演奏によってはやや饒舌さを感じさせることもある作品だが、今日は弛緩することが全くなく全体を見事にまとめ上げていた。

 何よりもオーケストラの響きが充実していて、申し分ない。今日は14型で、弦楽器群がいつもより中心寄りに密集した配置のためか、とても豊かな濃い響きだったのが印象的。管楽器のソロも秀逸。

 健康的で明るいロマンティシズムに満ちており、この作品を作曲した頃のラフマニノフの精神的充実感が見事に表現されていた名演だった。


 プロコフィエフを弾いたムストネンはかなりユニークなピアニスト。

楽譜を見ながら全体を遅めのテンポで演奏し、普通なら一息で弾くフレーズを断片的に切り刻んで、スタッカートやノンレガートなど多彩なアーティキュレーションを付けて表現。あたかも、この作品をアナリーゼし、聴衆にレクチャーをしながら演奏しているようだ。

 部分的には面白いが全体を通して聴いてみると、音楽が断片的になり過ぎて、一貫した流れがなく、散漫な印象しか受けない。作品から何か新たな発見を引き出してくれるわけでもなく、どのような意図でこのような演奏を聴かせてくれたのかよくわからない。あえて言えば、第楽章の引き摺るような遅いテンポから、ストラヴィンスキー的な田舎風バレエ音楽の雰囲気が感じられたくらいか。

 アンコールに自作の作品を演奏。指揮者としての活動も多いようだ。

 川瀬がこの解釈によく合わせて、破綻なくオーケストラをまとめ上げ、これは見事な職人風の仕事ぶり。


 冒頭のムソルグスキーは繊細で透き通った響きのいい演奏。以前聴いたリムスキー=コルサコフ版(202211月6日、名曲シリーズ)よりも音の透明度が高いようだが、作品そのものの魅力は以前の編曲の方がよく伝わってきたような気がする。

 

 コンサートマスターは田島高宏。

2023/04/12

 札幌交響楽団hitaruシリーズ定期演奏会第13


202341119:00  札幌文化芸術劇場hitaru


指揮/大植英次

ピアノ/アンドレイ・ガヴリーロフ


糀場富美子:広島レクイエム

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 


 糀場は札響初演。作品の初演は198586日に本日の指揮者、大植(広島出身)によって「広島平和コンサート」で行われている。弦楽オーケストラにより演奏される。

 冒頭、低弦で演奏されるテーマがパッサカリア風に、展開されて行く形式で書かれているので、構成感があり、かつ調性感もあるので理解しやすい。

 大植は、これら作品の特質をわかりやすく、深い情感を込めて指揮、かつ会田の見事なソロもあって、実に聞き応えのあるいい演奏だった。札響の弦楽器の美しさが際立っていた。

 原爆投下後の悲惨な情景と死者への追悼を込めた作品だが、ある程度冷静に描いているようだ。いつの時代にあっても戦争の悲惨さを訴えかけてくる普遍性を持った作品で、それを力強く伝えてくれた演奏でもあった。

 

 ラフマニノフは、ピアノが一つのパートとして加わった交響曲のような演奏。大植の指揮が、アクティヴで、先へ先へと進んで行く。オーケストラがよく響き、歌い、ロマンティックな表現にも事欠かず、ホルンの素敵なソロがあるなど、こんなに雄弁な表情のこの作品は初めて。

 ピアノはオーケストラの響きに埋没していて、ディテールがよく聴き取れなかったが、正確に弾けていないところもあり、大植がそれをカバーしていたのかもしれない。

 ガヴリーロフはもう40年近くも前だろうか、名ピアニスト、リヒテルと共にヘンデルの組曲を演奏した映像と録音があり、その印象が強く残っているが、今日のラフマニノフを聴く限りは、当時とは全く別のピアニストになってしまったようだ。


 ショスタコーヴィチは充実した、いい演奏だった。今日は、オーケストラがよく響いており、今までhitaruで聴いた札響のコンサートでもトップクラスではないだろうか。響きの良質さでは、尾高忠明のイギリス特集(「偉大なる英国の巨匠たち」、2022618)、豊かさでは今日の大植だろう。

 作品成立の背景にある様々な政治的な要素などは、今日の演奏からはあまり感じられず、むしろ評価の定まった古典的な名作として仕上げられた演奏だったのではないか。

 ショスタコーヴィチならではの緊張感のある表情やオーケストレーションが見事に再現されており、豊穣なオーケストラの響き、優れた弦楽器の響き、秀悦な管楽器群のソロなど、申し分ない。

 特に後半の、第楽章の静謐な響き、第4楽章での幅広いダイナミックな表現など、オーケストラを聴く醍醐味を充分味わえることができた演奏だった。

 hitaruは今年で開館5年目だが、今日の演奏を聴くと、札幌コンサートホールKitaraとは違った、魅力ある濃密な響きが聴けるようになってきたようで、札響を聴く楽しみ方が一つ増えたようだ。

 コンサートマスターは会田莉凡。