北星学園大学チャペルコンサート
大森潤子バッハ無伴奏ヴァイオリン演奏会
2023年11月9日12:10 北星学園大学チャペル
ヴァイオリン/大森潤子
バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 BWV 1003
無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 二短調 BWV 1004
大森潤子は2006年から17年まで札幌交響楽団首席奏者を務め、現在は富士山静岡交響楽団ゲストコンサートマスターなど全国で活躍中。
08年より北星学園大学チャペルで年1度バッハの無伴奏ソナタとパルティータを演奏し続けており、今回は5巡目の第2回で、この曲目になったそうだ。
演奏はとても良かった。古楽器風のノンヴィブラートですっと抜けるような表情や、モダン楽器ならではのヴィブラートによる力強い表情など、両方の良さをそれぞれ取り入れた優れたバランス感覚のある演奏スタイル。
強い自己主張よりも作品そのものに語らせる、という方針が窺われ、何度も繰り返し演奏する中で、どれがより良いかを模索しながら、今の演奏スタイルに到達したのではないか。毎年聴いていると、おそらくその変貌していく様子がよくわかるのだろう。
天井が高いチャペル全体に楽器がよく響いて、いい音がする。ボーイングが柔らかくてむらがなく、全体的に音程がきれい。重音すなわち和声が純正でよく調和しており、ノンヴィブラートの表情がとても生きている。細部までよく歌い込まれていて、無機的な箇所がなく、音楽的にも充実している。曖昧さが一切ないのはこの人ならではだ。
硬さが感じられず、気になるミスもほとんどない。札響時代の彼女の演奏は、聴衆に挑むような緊張感があったが、それがすっかりなくなった。以前より音楽の表現の幅が広がり、ゆとりが出てきたように思う。
一曲目はイ短調のソナタ。冒頭のグラーヴェのゆっくりとした楽章は、重心がある拍の和音が登場するたびに表情が微妙に変化しながら、きれいに調和した音程で表現されている。また、それらを繋ぐ装飾的なスラーのかかった細かい32分音符中心のフレーズが、すっと力が抜けた柔らかい表現で、かつよく歌い込まれている。情に流されずに全体的な設計図がしっかり組み立てられている演奏で、そのバランス感覚がとても良かった。
この楽章の演奏が今日の全てを物語っていたようだ。冒頭ゆえの緊張感があったにせよ、今日の演奏会全体への期待感を強く感じさせた演奏だった。
次の長大なフーガは力感があり、多声部の動きも明確で立体感のある演奏。続くアダージョはさりげなく弾いていたようだが、持続低音と旋律の表情のバランスがよく、両者をこれだけ美しく調和させた演奏はなかなか聴けない。
最後のアレグロは推進力のある見事な演奏。技術的にも素晴らしくバッハの凄みが見事に伝わってきた好演。
ユーモラスなお話があって、緊張感がややほぐれた後のニ短調のパルティータは、肩の力がより抜け、全体的に音楽の語り口にゆとりが感じられた演奏だった。
アルマンド、クーラントは流麗で美しく、サラバンドは最後のシャコンヌを予期させる期待感を感じさせた。ジークはやや早めのテンポで一気呵成に演奏し、ここでの緊張のある表現は見事。
一息置いて弾き始めたシャコンヌは変奏ごとの音楽の変化というよりは、次々と変容していく姿を捉えた流れるような演奏で、全体が大きな一つのまとまりとして聴こえてきて、これは素晴らしい演奏だった。
その中で、各変奏の変貌する姿がわかりやすく明確に表現されていて、特にここでのボーイングの鋭さ、それに伴うクリアな音楽の表現は圧巻だった。
あちこちに札響時代の強靭さを感じさせるところもあったが、今ではそれが演奏にいい意味で緊張感を与えていたようだ。
2曲だけの演奏でアンコールは無し。今日はこれだけでもう充分。この作品群をこれだけ見事に聴かせてくれるヴァイオリニストはそう多くはないのでは。
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