札幌交響楽団第657回定期演奏会
2023年11月12日 札幌コンサートホールKitara大ホール
指揮/下野竜也
ソプラノ/石橋栄実
管弦楽/札幌交響楽団
ベルク:7つの初期の歌
マーラー:交響曲第7番
ベルクは、札響初演。ソプラノソロとオーケストラが一体となったいい演奏だった。
石橋は、とても表情豊か。作品に込められた濃厚で熱い感性がよく伝わってきた歌唱で、後期ロマン派の香りを強く感じさせる好演だった。特に後半の第4曲目以降がとても印象に残った。
オーケストラはよく歌われており、音色も美しい。ベルクにとっても思い入れの深い作品なのだろう、初期の歌だが、自身によるオーケストレーションが約20年後の1928年と成熟した時期に行われている。編曲の際に込められた微妙に交錯する色合い豊かな感性がよく表現されていた。歌手を大きく包み込むように、しかし大きすぎず、小さすぎず、とてもよくコントロールされた音量で、時には、弦楽器奏者の演奏者の数を減らしながら、音色を変えずに自然に音量をコントロールするなどの工夫があって、下野の配慮ある指揮振りが光った秀演だった。
マーラーは、管楽器セクションが大活躍。個々のソロが素晴らしく、しかも最後まで疲れを知らない圧倒的な迫力で演奏。エネルギッシュであるだけではなく、統一感のあるよく調和したサウンドで、ここでの自発的なアンサンブル能力は見事だった。
一方で弦楽器セクションは今日は対向配置。下手にコントラバスと第1ヴァイオリン、ステージ中央にチェロ、そして上手よりにヴィオラ、第2ヴァイオリンという配置。コントラバスが独立して聴こえてくる演奏効果はあったにせよ、14型という大編成にもかかわらず、管楽器の響きの陰になり、その厚みのある響きはよく伝わってこなかった。
今日の下野が創り上げたマーラーは、明るく元気がよく、屈託がなく、迷いのない健康的で、ストレートに表現されたマーラー。朗らかな夜の音楽という印象だ。とても前半のベルクと同じ時代の作品とは思えない。
大きくまとめ上げたスケール感の大きいマーラーだったが、その代わりにディテールはやや甘く、特に管楽器群の表情が比較的単色で、微妙な夜の世界の表情が今ひとつよく伝わってこなかったように感じた。
細かいことを幾つか言えば、第一楽章の冒頭の弦楽器による葬送行進曲風のリズムは、やや曖昧で比較的気楽な気分で開始され、それが朗らかな雰囲気を醸し出している。続くテナーホルン〜今日はユーフォニアムによる演奏〜の朗々とした明るく、すっきりとした旋律が聴こえてくる。もうこの辺りで、今日の演奏の全体像が伝わってきたようだ。
第2楽章の楽譜の指示は冒頭の第1ホルンソロがフォルテ、これに続く次の第3ホルンソロはピアノ。しかし、第3ホルンはピアノではなく明らかにメゾフォルテに近い音量で演奏。従ってここでの問いと答えである効果的な奥行きのある表情がやや曖昧。さらに続くオーボエなど管楽器が次第に絡んでくるアンサンブルは基本的にピアノとピアニッシモの世界で表現される静かな夜の歌のはずだが、音量はかなり豊かで、白昼堂々とアンサンブルを楽しんでいる、という雰囲気だ。ここに限らず、管楽器群は全体的に明暗の少ない明瞭なサウンド。もっと指揮者がコントロールしてもいいのでは。
第3楽章は弦と菅のバランスがよく、鋭いリズム感による各セクションの表現など、今日の演奏の中では最も多彩な表情が聴けた楽章だった。
第4楽章は、せっかくのギターとマンドリンがちょっと遠慮気味。
第5楽章は、それまでの楽章が比較的おおらかに表現されていたためか、今までの緊張感を一挙に開放する盛り上がりにやや欠けたのが惜しい。
迫力のある演奏で聞き応えはあったが、それぞれのパートの個性を生かした、もっと多様性のある表現であれば、作品をより楽しむことができたのではないだろうか。
コンサートマスターは会田莉凡。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。