札幌交響楽団第658回定期演奏会
2024年1月27日(土)17:00 札幌コンサートホール Kitara大ホール
指揮 /マティアス・バーメルト(首席指揮者)
テノール /イアン・ボストリッジ
ホルン /アレッシオ・アレグリーニ
ブリテン:セレナード~テノール、ホルンと弦楽のための
ブルックナー:交響曲第6番
ブリテンは、1943年にテノールのピーター•ピアーズとホルンのデニス• ブレインのために書かれた珍しい組み合わせの作品。この二人が抜群の名手だったことがよくわかる名作だ。
楽曲は8曲からなり、プロローグと舞台裏から吹くエピローグはホルンだけで、あとは「夜」に関する様々な心象風景を描いた英語の詩を集めたもの。一読しただけではすぐわかる詩ではないが、ブリテンの陰影ある作曲で、かなり理解することが出来る。時代背景や先輩諸氏の影響を感じさせない優れたオリジナリティを持つ作品だ。
アレグリーニのホルンは、森の中で遥か遠くから聴こえてくる響きとでも例えればいいのか、最弱音で、透明で透き通ったまっすぐな音や、この楽器でしか聴くことができない美しい音、もうこのポイントしかないと言う見事なピッチで音程を決めるなど、素晴らしい演奏。ホルンのために最も美しく書かれた、最も難易度の高い作品ではないだろうか。このような作品を書いたブリテンと、それを鮮やかに聴かせてくれたホルンのアレグリーニに感心せざるを得ない。
一方、ボストリッチの歌は、オペラティックではなく、語りかけてくるような朗詠風の表情豊かで知的な歌唱。何かを聞かせようとか声量で圧倒するとかなどの作為的なところは全くなく、詩の背景をある時はドラマティックに、ある時は繊細に表現し、これは秀逸な歌唱だった。
オーケストラは弦楽器だけで、札響ならではのきれいな音色。表情に節度ある美しさがあって、バーメルトが二人のソリストと一体となって全体を見事にまとめ上げていた秀演。これは何度も繰り返し聴いてみたくなる演奏だ。
ブルックナーは冒頭から各パートがバラバラに聴こえてきて、今日は不調か、と思ったが、1楽章途中から響きがまとまりだし、いつものバーメルトの音楽が聴こえてきて一安心。弦楽器と管楽器のバランスと調和が心地よく、やはりこのような響きの演奏は落ち着いて聴ける。
ライブで聴いてみると、響きと構造が実にすっきりとして全体像がよく把握でき、風通しのいい作品だ。書法は、彼の作曲技法のエッセンスが凝縮された典型的なブルックナー様式。しかも演奏時間は約1時間で聴きやすい。ブルックナーがこの交響曲だけは手直しをしなかった理由がわかったような気がする。また、その様式を見事に表現したバーメルトの手腕に感心。
今日はバーメルト首席指揮者退任前の最後の定期出演。2018年の着任以来、札響から美しい音色と深みのある豊かな響きを生み出し、その優れた音楽性とバランス感覚のある解釈で、札響を日本有数のオーケストラに育て上げてくれた。その功績は素晴らしい。とはいえ今回が最後ではなく、来年はゲスト指揮者として登場予定。楽しみだ。
コンサートマスターは田島高宏。
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