2024/08/20

 第24代札幌コンサートホール専属オルガニスト

ウィリアム・フィールディング 

      フェアウェルオルガンリサイタル


2024年8月17日14:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


オルガン/ウィリアム・フィールディング

      (第24代札幌コンサートホール専属オルガニスト)
パーカッション/入川 奨(札幌交響楽団 首席ティンパニ・打楽器奏者)*


コシュロー:シャルル・ラケの主題によるボレロ*
デュリュフレ:「来たり給え、創造主なる聖霊よ」による

         前奏曲、アダージョとコラール変奏曲 作品4
エベン:聖日曜日の音楽より 第3曲 モート・オスティナート
フランク:オルガンのための3つの小品より 幻想曲 イ長調
J.S.バッハ:われを憐れみたまえ、おお主なる神よ BWV721
ヴィエルヌ:オルガン交響曲 第3番 嬰へ短調 作品28




 ティンパニーと共演する珍しいコシュローは元来は即興演奏を採譜した作品。今日の演奏はアンサンブルを大切にした慎重かつ落ち着きのあるもので、即興的要素よりは才気あふれるコシュローの音楽の魅力をクリアに表現した好演だった。

 この作品は2019年のKitaraのバースデイで、フランスのオルガニスト、ティエリー・エスケシュがやはり入川との共演で札幌初演をしている。

 エスケシュはやや芯をぼやかせて即興性を強調した演奏だったように記憶しているが、それとはまったく好対照の演奏で、これは楽しかった。


 2曲目のデュリュフレはファンタジックで表情豊かで音楽的に実に美しくまとめ上げた演奏。落ち着いた雰囲気があって、まるで巨匠のような風格のある、後半のフランクと共にKitaraオルガンの美しい音色を堪能できた素敵な演奏だった。


 札幌初演と思われるエベンは、冒頭の伴奏型オスティナートリズムが後半では作品を展開する中心的モティーフとなったり、最初の旋律が後半ではペダルで変奏されたりと、わかりやすい内容の作風で、それを流麗に即興的に演奏し紹介してくれた。


 フランクはよく歌い込まれていて、前半のデュリュフレとともに、これほど音楽的に美しく演奏されたフランクはそうそう聴けるものではない。


 バッハはメロディーと伴奏という単純な形式だが、伴奏型の中に豊かな多声部進行が隠されていて、どこか不気味で不思議な雰囲気を持つ作品。

 演奏はほぼ完璧に各声部が表現されていてとても魅力的だったが、今日のプログラムでは静的な性格の作品が多かったので、動的な性格のバッハが聴きたかったところ。


 最後のヴィエルネは同じオルガン交響曲を書いているヴィドールほどの派手さはないにしても、じっくりとオルガンの響きを味わうのに相応しい天才肌の名品であることを感じさせ、技術的にも音楽的にもよくまとまっていた見事な仕上がりの演奏だった。


 今日のフィールディングは全体的にレガート中心の美しくよく歌い込まれた演奏。作品の魅力を繊細に音楽性豊かに表現し、Kitaraオルガンからこれほど美しい音色を引き出した演奏は久しぶりに聴いた。

 ただ、聴衆としてはもっとここのホールの豊かな音響を生かしたダイナミックな性格を持つ作品を聴かせて欲しかったことと、同じような雰囲気の作品が続いたので、プログラム配列にもう少し工夫があればより楽しめたと思われる。


 

2024/08/03

 札幌交響楽団hitaruシリーズ定期演奏会 第18回

2024年8月 1日19:00 札幌文化芸術劇場 hitaru


指揮 /下野 竜也(首席客演指揮者:2024年4月就任)

管弦楽/札幌交響楽団


早坂文雄:二つの讃歌への前奏曲

スメタナ:連作交響詩「わが祖国」


 下野竜也の札響首席客演指揮者就任記念コンサート。下野はここ数年に絞ると、hitaru定期第10回(2022年8月4日、バーメルトの代役)札響名曲(22年9月 3日三大名曲)札響定期657回(23年11月12日 、マーラー交響曲第7番ほか)に登場し、それぞれ異なるレパートリーを披露し好評を得ている。札響ファンにはすでにお馴染みの指揮者である。

 就任記念で下野が選択したのはスメタナ連作交響詩「わが祖国」全曲。

 演奏にあたり、下野は配布プログラムに、「偉大な指揮者の演奏に挑むのではなく、そのスコアにどれだけ近づくことができるか、ということを胸に今日の舞台に臨みたい」と抱負を書いている。

 今日の演奏は、就任記念という意気込みがあったのか、細部まで周到に気配りをした完成度の高い演奏。今まで時として感じられたディテールの甘さや迷いが一切なく、聴衆を魅了する名作として自信を持って紹介してくれた演奏で、「スメタナのスコアに限りなく近づいた」名演だったと言えよう。


 連作交響詩としての物語性よりも優れたオーケストラ作品としての「我が祖国」全曲を聴かせてくれた、という印象を強く受けた。

 スコアに忠実な多彩で生き生きとした表情、そこにはもちろんボヘミヤの栄光を称えるための様々な情景描写があるが、その表現の的確さ、弦楽器と管楽器のバランス、全体的響きのまとめ方と全体の音楽設計、これら全てがバランス良く整っていた演奏だと言える。

 冒頭の「ヴィシェフラド」では、通常2台並べて設置するハープを今日は下手と上手に分散しての設置。ステレオ効果で面白い音響効果だったが、その後にハープが奏したモティーフを木管楽器が展開し、それが発展してトゥッティに至る流れが悠然と、かつ堂々としており、これが実に素晴らしかった。この悠然とした表現が、その後の演奏を決定づけたような気がする。

 その他では、第2曲「モルダウ」での月の光と妖精のシーン。響きに厚みがありながらも美しい情景描写の見事さ、続く第3曲「シャールカ」での歯切れの良い表現、第4曲「ボヘミヤの森と草原から」の穏やかだが重厚で広がりのある響き、第5・6曲での引き締まった壮大でドラマティックな表現など、取り上げればきりがないが、実に充実したスメタナだった。


 過去、札響で「我が祖国全曲」を演奏した指揮者たちはKitaraを舞台をしていたが、今回はhitaru。ここのホールの響きをこれほどうまく捉えた演奏は恐らく今回が初めてだ。Kitaraでは聴けない重厚な響きが実に心地よく感じられた。

  7月に堪能したPMFオーケストラの若さあるエネルギーに満ちた演奏もいいが、やはり長い歴史を誇るプロ・オーケストラの見事な仕事ぶりは比較にならない魅力がある。それを見事に引き出した下野の、今後の首席客演指揮者としての活躍を大いに期待しよう。


 今日は冒頭に恒例の邦人作曲家の作品が一曲、早坂文雄の「二つの讃歌への前奏曲」。下野がプレトークで、通常この作品は、2006年に再演する際にオーケストラ・ニッポカが編纂した校訂版を使うが、下野自身が早坂の自筆譜コピーと校訂版を東京音楽大学の図書館で約4時間比較検討した結果、アーティキュレーションの違いを発見、今日はそれを反映させる、とのメッセージがあり、確かに全く違う印象で聴こえてきたのが面白かった。タイトルにある「二つの讃歌」の意味はよくわからないそうだ。

 早坂最初期の作品で、第1曲の邦楽的響きと第2曲の西洋的響きの対比と変容がテーマのようだ。習作の枠を遥かに超えた意外と逞しい作風で、おそらく本人が想定したよりもいい音がしていた演奏ではなかったか。

 コンサートマスターは会田莉凡。


 今日のプログラム解説は藤野俊介氏。いつもながらの楽しく、読み応えのある文章だが、特に早坂文雄の解説が良かった。