2025/12/02

 札幌交響楽団 第673回定期演奏会


指揮 /川瀬 賢太郎<札響正指揮者>

横笛 /西川 浩平*

管弦楽/札幌交響楽団


別宮貞雄:管弦楽のための二つの祈り

伊藤康英:管弦楽のための交響詩「ぐるりよざ」*

    (オルガン入り2025改訂版)

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」



 今日は邦人作品が2曲。別宮貞雄は札響初演。パリ留学の総決算として1956年に初演され、毎日音楽賞と尾高賞を受賞するなど高い評価を得ている。今日聴く限りでは、フランス風というよりは、第2楽章にフーガがあるためか、むしろドイツ的な感性と、この時代に特有の知的雰囲気の強い作品のようだ。
 当時としては抜きん出た作品だったのかもしれないが、これ以降の邦人作品がもつ個性な表現と熟練した作曲技法と比べると、何処となくぎこちなさを感じさせる。柔らかく、良い感性でまとめ上げたいい演奏だったが、もう少し何度か聴いてみたい作品だ。


 作品の個性、一般への浸透力という点では、むしろ2曲目の伊藤康英の作品の方がより強いオリジナリティを持っているのではないか。吹奏楽でよく演奏される作品だが、管弦楽版は今日が札響初演。バージョンは都度アップデートされるようで、今日はKitaraの大オルガン付き。3楽章形式だが、全体的に和の香りが程よく匂ってきて、海外でも演奏される理由がよくわかる。特に第2楽章の龍笛(西川浩平)ソロは強く心に残る印象的なシーンだ。全体的に柔軟な発想でまとめ上げられており、各楽器が最も美しく響く音域で演奏するように設計されていて、響きは充実していて聴きやすい。作曲家の楽器法の優れたセンスが伺える。札響の演奏は、多彩でまろやかな表情があり、今日のプログラムの中では最も充実していたのではないか。


 「春の祭典」は、第2部以降に、今日で退団するトランペットの名手、福田善亮の抜群のソロもあり、聞き応えのある素晴らしい箇所もあった。

 ただ、全体的には今日はどうした訳か、いつもの川瀬らしい冴え、切れ味がなく、輪郭がやや不明瞭で、ディテールの甘さがあったのが惜しまれる。 

 全体を思い切ってすっきりと演奏するのではと思っていたが、やや遅めのテンポ設定で慎重に事を運び過ぎていたようで、推進力が滞りがち。そのためか、管楽器群のソロが尺にすっきりとおさまらない箇所があり、いつもの歯切れよいリズム感やノリの良さがよく伝わってこなかったのが残念。

 場面ごとの情景の描き方も、どちらかというとモノクロで粒子が少々荒い表現に終始していて、もう少し色彩感があるともっと楽しく聴けたのだが。

 川瀬に迷いがあったように聴こえたのは私だけか。たまにはこういう日もあるだろう。次回に期待しよう。

 コンサートマスターは田島高宏。