札幌コダーイ合唱団・合奏団
メサイア
2025年12月20日13:00 札幌市生涯学習センターちえりあホール
指揮/中村隆夫
ソプラノ/河口しほり
アルト/荊木成子
テノール/五郎部俊朗
バス/下司貴大
アンサンブル・リーダー/山本聖子
札幌コダーイ合唱団・合奏団
ヘンデル:メサイア
札幌コダーイ合唱団は北海道教育大学の中村隆夫によって1976年に設立、現在まで半世紀にわたって活動を続けてきたが、来年9月で活動を休止するとの事。今日は最後のメサイア公演となるということで、場内は満席。
配布プログラムの最後のページに今までの活動記録が記載されており、概観すると年に2回から多い時には4回ほどの演奏会を開催している。
レパートリーはルネッサンスから現代までと広範囲に渡るが、ヘンデルのメサイアは定例的に演奏しており、これが活動の中心だったようだ。他にバッハのマタイ受難曲、ヨハネ受難曲の大曲も演奏している。
この合唱団の基本は、ノンヴィブラートで純正のハーモニーの美しさを目指した演奏(同団HPによると純正律による演奏を目指して)。
発足から90年代頃までよく演奏会を聴いた。特に1994年のマタイ受難曲は記憶に残っている。合唱団の目指す演奏からすると、当然オーケストラは古楽器奏法が基本となり、そのため首都圏からのゲストプレイヤーが多かった。幾つかのプロフェッショナル団体があった札幌で、地元勢を中心にしたメンバーでマタイ受難曲を演奏したのはおそらく札幌コダーイ合唱団が初めてだったと思われる。
今日、本当に久しぶりにその演奏を聴いてみると、設立当初からの基本コンセプトは全く変わっていない。
合唱団は46名。ヴィブラートがなく、よくコントロールされたピッチでのまっすぐな歌い方ときれいに調和したハーモニーがとても印象的。中村が理想とした合唱で、以前より、より徹底した表現になっているようだ。
演奏全体は、トータルでのまとまりの良さがやはり他の団体にはない美点だろう。ドラマティックな表現などの派手さはないが、中庸の魅力とでも言おうか、合唱、オーケストラ、ソリストそれぞれに抜きん出たソリスティックな表現は求めずに、全員でまとめ上げる総合力の素晴らしさが特徴だ。これは以前聴いていた頃と変わらない。
合奏団は少数精鋭の16人。アンサンブルリーダーの山本が古楽器風の洗練された演奏で、しっかりと全体をまとめ上げ、音色、ピッチが整っていて好演。会場の響きと合唱団の規模とを考慮すると、ちょうどいい人数だ。
トランペットソロの櫻井が柔らかい音色で全体に溶け込むように演奏、これはとても良かった。一方、電子鍵盤楽器で演奏していた通奏低音パートが音量調整がうまくいかなかったのか、ほとんど聞き取れず、ちょっと残念。
ソリストは4人とも落ち着いた安定した歌唱。テノールの五郎部は1997年の札幌コンサートホールのこけら落としの第九公演に出演、聴くのはそれ以来。当時とは声の質が変わっているが、貫禄は充分。
トータルでは、全員地元勢だけによる高い水準の演奏で、これは中村隆夫の大きな功績でもあろう。
2000年代のこの合唱団の演奏会をほとんど聴く機会がなく、最も充実した活動をしていたであろうこの時期を失礼ながら全く知らない。しかしながら今日の演奏を聴くと、常に一定の水準以上の安定した演奏を続けていたことは想像に難くない。
この合唱団の特徴は、合唱の素晴らしさを聴衆に伝えるプロフェッショナルな意識と能力の高さを持った人材の集まりだったと言えるだろう。
この合唱団のメンバーの中には、現在の札幌の合唱界はもちろん教育界でも優れた指導者として活躍する人材も多い。
21世紀に入ってから、札幌の音楽界は、札幌交響楽団が飛躍的にその実力を高めたことに象徴されるように、同時に地元札幌の音楽家達もそれに歩調を合わせるようにレベルアップしてきた。その育成の礎となった中村隆夫と彼の指揮した今日の演奏はそれを物語る貴重な記録の一つであり、半世紀に及ぶ活動の成果でもある。引退は残念だが、残した足跡は大きい。

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