2026/02/22


 第28回リスト音楽院セミナー 講師による特別コンサート

ガーボル・ファルカシュ ピアノリサイタル


2026年2月20日19:00 札幌コンサートホールKitara小ホール


ベートーヴェン:創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO 80
           ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 「悲愴」 作品13
           ロンド・ア・カプリッチョ ト長調

                   「失われた小銭への怒り」作品129
リスト:巡礼の年 第2年「イタリア」S.161より 

   第1曲 「婚礼」、第2曲「物思いに沈む人」

       巡礼の年 第3年 S.163より 第4曲 「エステ荘の噴水」
       ハンガリー狂詩曲 第12番 嬰ハ短調
       アヴェ・マリア S.182
       巡礼の年 第2年「イタリア」S.161より 

         第7曲「ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲」


ピアノ/ガーボル・ファルカシュ


 

 ガーボル・ファルカシュは2025年にリスト音楽院学長に就任。札幌コンサートホール主催のリスト音楽院セミナーには2019年から講師として来札している。
 リサイタルはコロナ禍などの影響で、2024年2月22日が初めての札幌リサイタル、この時はシューベルト、シューマンが中心のプログラムだったが、今回は母国リストとベートーヴェンという王道プログラム。前回よりはるかに優れた内容で、かつリスト音楽院教授のピアノリサイタルでは2002年2月22日の元学長、イシュトヴァン・ラントシュ以来の名演と言ってもいいだろう。

 まず素晴らしかったのはピアノの響き。今日使用したスタインウェイは抜群の仕上がりで、整音調律とも申し分なく、しかもファルカシュはこの楽器から無理なく自然に、フォルテからピアノまで幅広い響きと豊かな音色を引き出し、耳障りな音は一切なかったことも特筆すべきことであろう。


 最近は今日のようにベートーヴェンの有名作品をプログラミングするピアニストが少なく、本当に貴重な機会。「32の変奏曲」では様々に変貌していく多彩なピアノ演奏技法を安定したテクニックで表現、全体を隙なくまとめ上げた演奏で、この名作を堪能することができた。

 悲愴ソナタでは安定感のあるオーソドックスなスタイルでの演奏で、第1楽章のグラーヴェの重量感、各主題の躍動感、第2楽章の程よくバランスの取れた歌い方、第3楽章の弱音を主体にした表現など、各楽章の表現の対比が明確でわかりやすい。一方で、シューベルトやシューマンを思わせるロマン性を感じさせ、時として内声部のメロディをリスト風に歌わせたりと、ロマン派先駆者としての多彩なベートーヴェン像も聴かせてくれた。

 「失われた小銭への怒り」は、早めのテンポによる鮮やかな演奏で、ベートーヴェンがリストと並ぶピアノの名手だったことを想起させ、後半のリストプログラムへの期待感を高める演奏だった。


 リストは未だに技術的派手さだけを求める演奏が多い中、今日はそれぞれ音楽的にいかに優れた作品であるかをじっくりと聴かせてくれた。

「婚礼」、「物思いに沈む人」、「エステ荘の噴水」は間を開けず続けて演奏。この中では、「エステ荘の噴水」が出色の仕上がり。水の流れを象徴する高音部主体の美しい音色、自然な表現は今日の抜群の楽器の機能を完璧に生かした表現で、これは堪能させてもらった。


 続くハンガリー狂詩曲ではいくつか登場するハンガリー風メロディをじっくり歌い込み、それぞれの性格の対比を明らかにし、それらを安定したテクニックできめ細かく細部までクリアに磨き上げ整えた演奏で、その全体設計が実に見事。これだけ整った深みのある狂詩曲を聴くのは初めての経験だ。


 最後の「ダンテを読んで」はドラマティックな表現で作品のスケール感を見事に描いた名演。リストが用いた多彩なピアノ書法は、テクニックを誇示するためではなく、すべて標題の世界を表現するためだということを示してくれた。かつて2012年にやはりハンガリー出身のデジェー・ラーンキが小ホールで、このダンテソナタを颯爽としたスタイリッシュな客観的解釈でノーミスの完璧な演奏を聴かせてくれたことを思い出したが、今日のファルカシュは作品が内蔵するドラマをより深く掘り下げ、正統的なリスト像を伝えてくれ、リスト音楽院学長ならではの優れた演奏だったとも言える。

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