ハイティンクとウィーン・フィルのブルックナー
シェーンベルク 管弦楽のための5つの小品
ブルックナー交響曲第7番
指揮者 ベルナルト・ハイティンク 主催HBC北海道放送
ウィーン・フィルの札幌コンサートホール Kitara初登場。ウィーン・フィルは80年以来の17年ぶり六度目の来札公演だった。
演奏会はマチネーで、プログラムは前半にシェーンベルクの「管弦楽のための5つの小品」、休憩の後にブルックナー。
この年の7月4日に開館した札幌コンサートホールはオープニング・コンサートやPMFの夏が終わり、秋のコンサートシーズンに入った時期。聴衆も新しいホールの響きに次第に慣れてきた頃に、満を持してのウィーン・フィルの登場だ。
この10月10日は来日ツアー初日で、しかも初めて演奏する新しいホール。この二つが彼等にもたらしたであろう緊張感と、開館して間もない札幌コンサートホールの自然で豊かな響き。そして札幌の、楽器が美しく響く北国ならではの気候の素晴らしさ。これらすべてが、この上ないほどうまくマッチングして成立した、この時だけの、この時しか成立し得なかった一期一会の見事な演奏だったと思っている。
後半のブルックナーの演奏が忘れられない。それぞれの弦楽器セクションがまるで一人で弾いているかのように見事にピッチが揃い、しかも各パートがお互いに他のパートを聴き合いながら、音程、ハーモニーを調和させ、精緻なアンサンブルで音楽を創り上げていく、まさしく巨大な弦楽四重奏が眼前に繰り広げられていく。
そのプロセスは超一流のオーケストラならではの仕事だ。そこには一瞬の隙も遅延もなく、ミスもない。しかも音の重なりが織りなすハーモニーの美しさは初めて聴く素晴らしい響き。
冒頭のヴァイオリンのトレモロからチェロとホルンによるテーマが登場し、ヴィオラがそれに加わっていくシーンは思わず鳥肌が立つほどの素晴らしさで、全体の響きの統一感は今まで経験したことのない見事な完成度で、これが世界最高のオーケストラの実力かと圧倒されたことを覚えている。
その後も室内楽的緻密さで構築されていく音楽は、弦楽器はもちろんのこと、管楽器の音色と心地よい音程など、個々のパートのクオリティの高さと全体の調和の美しさ・統一感は例えようがなく深い感銘を受けた。ホ長調という必ずしも音程を揃えやすいとは言えないこの作品を技術的にほぼパーフェクトに表現していたのではないか。
ウィーン・フィルの演奏は、その後、Kitaraではムーティの指揮(2008年)で、またサントリーホールでティーレマンの指揮(2013年)で聴いている。もちろん演奏は一級品であったことは間違いないが、この時のブルックナーほどの感動を与えてはくれなかった。
そして指揮者のハイティンク。2019年引退公演を行い、第一線を退いたのは残念だが、彼なくしてはこの演奏は成立しなかった。作為的なことは一切行わず、オーケストラにごく自然に(そういえばブルックナーもシェーンベルクもオーストリア出身だ)ブルックナーを語らせることができたのもハイティンクならではの実力だ。恐らく彼の最高の名演の一つだったのではないか。引退公演で最後に指揮したのも偶然にもウィーンフィルと、このブルックナー交響曲第七番だった。
その後、札幌コンサートホールは周囲の環境と響きの良さで広く知られるようになったが、このホールが札幌の新しい音楽文化の拠点になるだろうことを確信することができた思い出深いコンサートだった。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。