<Kitara・アクロス福岡連携事業>
安永徹&市野あゆみ〜札響・九響の室内楽
2022年3月17日19:00 札幌コンサートホールKitara小ホール
ピアノ/市野 あゆみ
ヴァイオリン/安永 徹
山下 大樹(九州交響楽団 第2ヴァイオリン首席)
ヴィオラ/廣狩 亮(札幌交響楽団 ヴィオラ首席)
チェロ/石川 祐支(札幌交響楽団 チェロ首席)
ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調
ヴェーベルン:弦楽四重奏曲
ブラームス:ピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34
Kitaraとアクロス福岡の連携事業。同じ内容で福岡公演が既に終了している(2021年7月23日、福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)。福岡公演はチェリストが九州交響楽団首席の山本直紀)。
弦楽器は4人全員がソリストクラスだけあって、高水準のアンサンブルと、スケールの大きな演奏が特徴。
ゲストの九州交響楽団の山下は、確実な技術と優れた音楽性を持った演奏家だ。
ピアノの市野は、室内楽のスペシャリストらしい卓越した演奏。弦楽器との響きが調和して、いいバランスで聴こえてくる。室内楽では重要なピアノのポジション(通常よりやや奥で上手寄り)、調律・調整も良かった。
アンサンブルリーダーの安永の音は、年配の音楽ファンであれば永年レコードで親しんできた、20世紀半ばから後半のヨーロッパの音、響きがする。それはスタイルが古いという事ではなく、安永の演奏からは、あの時代の演奏家だけが持っている、第二次世界大戦以前から引き継いできたヨーロッパ音楽の伝統と歴史に支えられた力強さと確信、美意識が感じられる。それは音楽が創作された時代の息吹きと、作品の背景も見えてくることにもなり、彼の演奏からしか味わえない魅力である。
ラヴェル(市野、安永、石川)では、市野が、ラヴェルの磨き抜かれた美しい響きと華麗なピアニズムを余すところなく表現。全体としては民俗的感性と古典的均整感を持ったラヴェルの、自由で多彩な色合いを生き生きと表現した演奏だった。特に後半の3、4楽章が秀逸。
終楽章のハイポジションでのトリルや分散和音、ピアノの跳躍する和音やグリッサンドなど、高度なテクニックを要する箇所も見事で、素晴らしい演奏効果を上げていた。
ヴェーベルンは1905年に作曲され、61年に発見された作品。特定の調性を持たない、後年の極度に凝縮された書法からは想像も出来ない、ロマンティックな作品。
若きヴェーベルンの秘められた情熱と不安で憂鬱な感情が、一瞬も弛緩することなく表現された、緊張感に満ちた演奏。同時に彼が生きた時代の情景や、師のシェーンベルクや友人ベルクの姿が眼前に浮かび出てくるようで、高水準の語り継がれるべき名演だ。
ブラームスは、作曲された30歳前後の若き活力に溢れた作品像が、高い集中力で鮮やかに再現された演奏。
市野の重厚だが躍動的なピアノと、弦楽四重奏ならではの微妙なニュアンスや多彩で深い表現とが見事に調和し、ピアノ五重奏として理想的な演奏像だ。第1楽章の静と動の対比、第2楽章の緻密で情緒豊かな歌い方、第3楽章の力強さ、第4楽章の抒情的な序奏とその後の求心的で力強い表現など、このアンサンブルでなければ到達し得なかった一期一会の熱演だった。