2022/03/09

 びわ湖ホールプロデュースオペラ

ワーグナー作曲《セミステージ形式》

パルジファル


2022年3月6日13:00  びわ湖ホール大ホール


指揮:沼尻竜典(びわ湖ホール芸術監督)京都市交響楽団


アムフォルタス:青山 貴 ティトゥレル:妻屋秀和

グルネマンツ:斉木健詞 パルジファル:福井 

クリングゾル:友清 崇 クンドリ:田崎尚美

聖杯守護の騎士:西村 悟、的場正剛

小姓:森 季子、八木寿子、谷口耕平、古屋彰久

クリングゾルの魔法の乙女たち:岩川亮子、佐藤路子、山際きみ佳、

               黒澤明子、谷村由美子、船越亜弥 

アルトの声:八木寿子

合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル




 沼尻によるびわ湖ホールのワーグナーシリーズは、 2016年の「さまよえるオランダ人」から始まり、1720年の「びわ湖リング」、21年の「ローエングリーン」、そして今年が「パルジファル」。
 来年は「マイスタージンガー」が予定されており、これでワーグナーの代表作(「タンホイザー」は12年に上演)が完遂される予定。
 コロナ禍で「神々の黄昏」は無観客公演、21年以降はセミステージ形式での上演となっている。

 このプロデュースオペラは1999年から始まっており、25年を経てワーグナーを完遂するのは素晴らしい。

 

 16年以来このシリーズを、「神々の黄昏」を除いて、毎回鑑賞してきたが、音楽的には今回の「パルジファル」がもっとも完成度の高い公演だったと思う。

 全体を統括した沼尻の指揮が素晴らしかった。肩の力が抜けたように音楽の流れが自然で、かつ表現が柔軟で多彩。京都市交響楽団の響きはよくまとまっていて、アンサンブルの密度が高く、上質のとてもいい音がしていた。


 歌手は予定されていた外国人キャストがコロナ禍で来日不可となり、全て日本人による公演。これ以上はないベストキャストで、期待したとおりの仕上がりではなかったか。

 グルネマンツの斉木健詞は、第一幕の長い語りが始まったころから安定し、声がよく響いてきて、適役。

 ティトゥレルの妻屋秀和はさすがの貫禄で素晴らしい声。出番が少ない役でとても残念だったが。

 パルジファルの福井 敬は、彼ならではの明瞭で格調高く、表情豊かな歌唱で、移りゆく感情の変化が余すところなく伝わってきた。ただ彼の衣装だけ異質でどのような意味があるのか、おそらくこの日の午前にあったレクチャーで説明があったのかもしれないが、出席しなかったので不明のまま。

 クンドリの田崎尚美は声の質声量、表現、雰囲気、衣装とも申し分ない。

 アムフォルタスの青山 貴、クリングゾルの友清 崇も好演。騎士、小姓はしっかり主役級を支えており、合唱はよくまとまっていた。


 今回も昨年同様セミステージ形式で、正面に大きなスクリーンを設置し、情景に応じた画像を投影する演出付き。
 モンサルヴァートの森や白鳥などの写実的な画像はともかく、核となる聖杯、救済のイメージや度々現れた紅白の波線のような動きなど、理解しにくい画像もあった(私だけだったかもしれないが)。

 字幕は、どぎつさを上手に避けながらの節度ある翻訳で好感が持てた。


 びわ湖ホールのワーグナーはわかりやすさが特徴の演出で、「さまよえるオランダ人」から「リング」まではミヒャエルハンペ。プロジェクションマッピングを使用した写実的演出で、ストーリーが実によく理解でき、視覚的にも面白かった。

 初期には映像と音楽が合わない技術的問題があったが、「ジークフリート」はほぼ完璧だったのではないか。その後の進展を期待していたが、コロナ禍で中断してしまったのは残念。今後、復活する舞台上演に期待しよう。

 

 びわ湖ホールのプロデュースオペラは「びわ湖ホール声楽アンサンブル」を中心とした地元育成組と、日本と世界のトップクラスの歌手・演出家を上手く組み合わせながらの上演。ワグネリアンから一般の音楽ファンまで幅広い層を対象にした作品理解のための事前講座も設けられている。

 中ホールオペラでは地元勢で良質の親しみやすい公演を制作し、大ホールでは今回のように周辺の配役を地元でしっかり固め、トップクラスの公演を作りげていく。この方針は公立ホールのオペラ制作としては理想的だ。 

 これを一つのモデルとして、札幌でも札幌文化芸術劇場が中心となり、将来、恒常的に高水準のオペラ上演が制作できるようになることを期待する。







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