<Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ>
しらこ企画室内楽シリーズ3
2人が最後に愛したクラリネット五重奏曲
~モーツァルトとブラームス~
2022年3月14日19:00開演 札幌コンサートホールKitara小ホール
クラリネット/白子 正樹(札幌交響楽団 クラリネット副首席奏者)
ヴァイオリン/岡部 亜希子(札幌交響楽団 ヴァイオリン奏者)
桐原 宗生(札幌交響楽団 ヴァイオリン首席奏者)
ヴィオラ/鈴木 勇人(札幌交響楽団 ヴィオラ奏者)
チェロ/小野木 遼(札幌交響楽団 チェロ奏者)
モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
ブラームス:クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115
札幌コンサートホールが支援するアーティストサポートプログラムの一環で、札響団員のクラリネット奏者、白子正樹がシリーズで開催している「しらこ企画室内楽シリーズ」の第3回目。今回はクラリネット五重奏の名曲が2曲。
いつもオーケストラで演奏しているメンバーが、室内楽でどのような演奏をするのか、という期待感があり、これは地元音楽ファンならではの楽しみだ。
オーケストラ団員だけあって、お互いによく聴き合い、バランスよく音楽を作り上げていく緻密なアンサンブルが素晴らしい。しかも個々のメンバーの演奏技術は高く、クラリネットはもちろんのこと、カルテットメンバーもそれぞれがよく歌い、表情豊かで、音楽的完成度は高い。
全員音程が揃っており、チェロでしっかり支えられた根音上に生まれるハーモニーはとてもきれいだ。小ホールの響きをしっかりと捉えて演奏しており、この辺りはオーケストラ団員の豊富な経験の強みだろう。
しかも、クラリネットがソリスティックに飛び出すこともなく、また埋没することもなく、アンサンブルの一員として、かつソリストとしても作品の価値を高める充分な役割を果たしていた。
このクインテットの素晴らしさが発揮されたのはモーツァルト。冒頭の静かな開始から、バランスのよい安定したアンサンブルと、良く歌い込まれた上質で美しい音色による音楽が聴こえてきて、最後まで強く惹きつけられる魅力ある演奏だった。
特に第二楽章が出色の出来。フワッと柔らかく広がる弦楽器のハーモニーの響きとクラリネットの弱音で歌われる美しい音色との調和は、室内楽として高い完成度に到達していたのではないか。
ブラームスは、息の長いフレーズが断片的にならずに歌い込まれ、室内楽としては良くまとまった上質の演奏。
これも第二楽章がとても良かった。主題と変奏とでも言える、様々に変容するリズムパターンと、対位法的に複雑に動く各パートが、抑制された抜群のバランス感覚で表現されており、その中に込められたロマンティックな感情が大袈裟にならずに聴こえてきて、これは中々聞き応えのある優れた演奏だった。
ただ、第三、四楽章などでは、ブラームスの老いたりとは言え、情念たっぷりの濃い音楽を多少持て余しているところもあり、もっと思い切りのいい、大胆さがあれば、万全だったのではないか。
クラリネットは上手端に客席から見て真横に座って演奏しており、楽器の響きが客席に直接響いてこない。アンサンブル上はベストの位置かもしれないが、もう少し客席に向いたポジションを工夫すると、もっと豊かな響きを聴けたような気がする。
とは言え、札響メンバーによる高水準の室内楽演奏会で、これだけの演奏を常時札幌で聴くことができるのは、室内楽を聴く楽しみが広がり喜ばしいことだ。一方で個々の団員がこれだけの演奏を披露するということは、当然オーケストラの演奏能力も向上することになる。両者の今後の活躍に期待しよう。
苦言を一つ。モーツァルトの第二楽章の素晴らしい演奏が終わった後で、余韻に浸りたいところなのに、無粋で大きな調弦の音を聴かされたのは興醒め。それにしても楽章間での調弦の回数が多過ぎたのではないか。
アンコールにモーツァルト:クラリネット五重奏曲 変ロ長調 KV.Anh-91 アレグロ(断片)。
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