札幌交響楽団 第644回定期演奏会
2022年4月24日13:00 札幌コンサートホール Kitara大ホール
指揮 : 広上 淳一(札響友情指揮者)
ピアノ :小山 実稚恵
武満 徹/群島S.
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番
R. シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」
『第644回定期演奏会』に出演を予定していた、ハンガリーのピアニスト、デジュー・ラーンキは、未だ収束を見ないコロナ禍、および今般のハンガリーの隣国ウクライナにおける事態を受け、精神的身体的に万全の状態で演奏に臨めないとの判断から来日を中止することになりました。代わって、小山実稚恵(ピアノ)が出演いたします。曲目の変更はございません。誠に申し訳ございませんが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。
このたび、ご多忙の中、急遽出演をお引き受けくださいました小山実稚恵氏に心より感謝申し上げます。
(主催者発表)
2022年度Kitara第1回の定期公演は2人の就任記念演奏会。“友情客演指揮者“の”客演“が抜けて、この4月から「友情指揮者」となる広上淳一と、コンサートマスターに就任する会田莉凡。会田は先日のhitaru定期でデビュー済み。広上の肩書きは、あまり例のない珍しいポストだが、これから札響とはより深く良い関係を築いていく、ということなのだろう。
武満徹の「群島S.」は札響初演。美しい群島〜瀬戸内海、ストックホルム、シアトル〜の多彩な姿を21人の奏者が表現する作品で、奏者は5つのグループ、ステージの下手・上手、中央、そして本来であれば客席側左右にクラリネットが配置されるのだが、今回は感染予防で、ステージ上の下手、上手の出入り口付近に移動しての演奏。
広上の指揮はまとめるというよりは、個々の奏者の自由な感性に委ね、美しい群島を表現する、というものだ。首席クラスによる演奏のレベルは高かったが、一方で武満らしい研ぎ澄まされた繊細な響きはあまり感じられず、線のやや太めな武満ではあったが、これも指揮者の意図が反映されていたのだろう。
ベートーヴェンを弾いた小山は、オーケストラとソリストが一体となって協奏して一つの音楽を築き上げる、という本来の協奏曲の姿を示してくれた見事な演奏。ここ数年での定期や名曲に登場した若手ピアニストとは格の違いを見せてくれた。
細かい点を挙げればきりがないが、例えば第一楽章の展開部でニ短調でピアノソロが入ってきてト短調に転調していき、オーケストラと対話しながら展開していく箇所とか、ベートーヴェンの自作カデンツを弾き終えて、オーケストラと共にフィナーレに向かって行く推進力など、ここで聴くことができた両者の一体感は素晴らしいものだった。
その他、第2楽章の豊かな抒情性、第3楽章の安定感と表現力など、おかしな言い方だが、これ以上ない音のはまり方だ。もちろん広上の指揮も小山と一体となって、鮮かな表情をオーケストラから引き出していた。
Kitaraのスタインウェイだともう少し華やかさがあるはずだが、小山の音は渋め。しかし、この作品にふさわしい音を生み出していて、かつての園田高弘のような巨匠を感じさせる風格のある音だった。
広上が引き出す音も渋く、それがより強い一体感を生み出していた。
「英雄の生涯」は定期では19年ぶり。ステージに百人以上が所狭しと登壇し、演奏する姿は壮観だ。広上は音量で圧倒することせずに、音楽的にいかにまとめ上げるかを主眼においての指揮だ。
団員の自発的な表現を促し、必要以上にオーケストラをコントロールすることなく、全体をそつなくまとめていた。ソロは皆上手いし、仕上げもきれいだったが、正直言って、どことなく物足りなさがあったのも事実。せっかくの大編成なのだから、もっとその醍醐味を味わいさせてくれた方が聴衆としてはうれしかった。
例えば冒頭のチェロ・バスのテーマなどもっと深く歌い込み、音がホール中に広がったほうが、これからの期待感が高まるように思えるし、全体的にバスのハーモニーの支え、土台がもう少しがっちりしていた方が安定感が出たのではないか。
会田のヴァイオリン・ソロは田島とはまた違う味わいのある上質の演奏で、これからの活躍が楽しみだ。素晴らしい経歴の持ち主だが、田島が安定感のある落ち着いたコンマスぶりで札響をよく支えているので、負けず劣らず存在感のある素晴らしいコンマスとなって札響を率いて欲しい。
オンラインプレトーク(田島・会田の対談)は、かつてのベルリンフィルの名コンマス、ミシェル・シュヴァルべの話題も出てきて楽しかった。今後も適度に舞台裏情報を伝えてくれることを期待しよう。
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