2022/04/16

 札幌交響楽団hitaruシリーズ定期演奏会第9


2022年4月1419:00  札幌文化芸術劇場hitaru


指揮 /川瀬 賢太郎(正指揮者)

ピアノ /岡田 


藤倉 大:トカール・イ・ルチャール(札響初演)

ラヴェル:ピアノ協奏曲

ベルリオーズ:幻想交響曲




 


川瀬賢太郎が札響正指揮者に就任して最初の演奏会。プログラムは個性的な作品ばかりだったが、真摯に、真正面から挑んだ正統的な演奏で好演。
札響の個性、長所を把握してそれらをよく生かした演奏だった。   

 藤倉大の作品をコンサートで聴くのは、個人的にはオペラ「アルマゲドンの夢」以来。前回、hitaru定期第8回での「グローリアス・クラウズ」がキャンセルになっただけに、今回楽しみにしていた聴衆は多いのでは。
 トカール・イ・ルチャール(スペイン語でplay and fight, 奏でよ、そして闘え、という意)は海や空で泳ぐ魚や鳥をモティーフに、さまざまな背景を持つ音楽を学ぶ子供達がひとつの音楽を奏でる、というのがコンセプト。
 大編成で、繊細なピアニッシモからフォルテまで、ダイナミックレンジの幅が広い作品。細かいモティーフがよく聴こえてきて、それが次第に積み重なって、大きなスケール感ある響きが出来上がっていく過程は、ライブで初めて実感でき、録音を聴くだけではわからない世界だ。

 ところどころに雅楽、笙らしき響きが聴こえてきて、出自が日本人であることを隠そうともしないところ、そして多様な感性を隠さず直接的に表現するのが彼の作品の魅力の一つでもある。

 札響の良質のサウンドで生まれてきた豊かな響きがとても良かった。この響きを引き出した川瀬が見事。


 ラヴェルは野生的でアクティブな面が出ていた演奏だ。管楽器の雄弁で歯切れの良い表現とピアノの切れ味鋭く、鮮やかに抜けてくる音色とがよくマッチングしていて、特に第3楽章が素敵だった。第1楽章はピアノの音がちょっと荒く、第2楽章はもう少し垢抜けた研ぎ澄ました響きが有ればとは思ったが、全体的にはオケとピアノが一体となったすっきりとしたいい演奏だった。


 幻想交響曲は、全体を細部まで丁寧に歌い込み、バランスよくしっかりまとめ上げた精度の高い演奏。

 特に第1楽章の冒頭、木管楽器のソロから始まり、弦楽器がイデーフィクスのモティーフを奏し展開していく序奏や、第2楽章の、明確なアーティキュレーションによる乗りの良いワルツの表現など、柔らかく美しい音色でよく歌わせ、札響の特質を存分に生かした演奏だった。

 残りの三つの楽章も惰性に流れず、楽章ごとの枠組みがしっかりしていて、音楽的にも良くコントロールされていたので、上質で、派手すぎず、しかもドラマティックな表現にも不足しない、中々聞きごたえのあるベルリオーズだった。


 チェロ・バスの低音域やステージ奥の打楽器群の響きがすっきり抜けてこないのはこの劇場の特徴だが、今回は大編成のためか、その弱点もさほど気にならず、劇場の響きもよく把握してまとめ上げていたと思う。

 欲を言えば、全体を大きく俯瞰する音楽観があれば、とも感じたが、今後の活躍に期待しよう。正指揮者としてとても楽しみな指揮者だ。



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