札幌交響楽団第648回定期演奏会
2022年10月23日 札幌コンサートホールKitara大ホール
指揮 /マティアス・バーメルト
チェロ /佐藤 晴真
ソプラノ/安井 陽子
メゾソプラノ /山下 牧子
テノール /櫻田 亮
バリトン /甲斐 栄次郎
合唱 /札響合唱団
メンデルスゾーン:序曲「静かな海と楽しい航海」
C. P. E. バッハ:チェロ協奏曲イ長調
ハイドン:ミサ曲ハ長調「戦時のミサ」
バーメルトは、予定していた8月のhitaru定期に来日できず、今回は久しぶりの定期登場。邦人指揮者からはなかなか感じられない心地よさ、暖かさがあり、また彼ならではの繊細で知的な構成力が感じられた上質の演奏会だった。
C. P. E. バッハ は札響初演。チェロの佐藤のソロが素晴らしかった。作曲年代は1750〜53年で、「古典派の黎明期を代表する作品」(当日配布プログラム解説より)だが、作風はむしろ前ロマン派とも呼べるもので、古典派のハイドンやモーツァルトとも性格が異なる、強いオリジナリティがある。
第1楽章は饒舌な作風だが、独奏チェロは均整のとれた表現で、オーケストラとよく調和した演奏。第2楽章はC. P. E. バッハならではの憂鬱で深い情感に満ちた感性が、とても優れたバランス感覚で表現されており,作品の本質を見事に伝えてくれた名演。第3楽章のすっきりとした抜けるような鮮やかな表情も、このチェリストの優れた音楽性をよく表していた。慣例的に、ソリストは通奏低音パートも演奏するようだが、ソロパートだけで充分ではないだろうか。
この作曲家は、古楽器オーケストラで演奏される機会が多く、今回のようにモダンのオーケストラでの演奏は珍しいかもしれない。今日は8型の小編成で、ヴィブラートを最小限に抑え、明確なアーティキュレーションによる輪郭のはっきりしたスタイルの演奏で、この作曲家の魅力を過不足なく伝えてくれた。これはソリストの佐藤の素晴らしさはもちろん、バーメルトの優れた音楽観によるものだろう。今日のような演奏だと、もう古楽器にこだわることなく鑑賞でき、逆にモダンの楽器の豊かさ、力強さが魅力に感じられたほどだ。
通奏低音のチェンバロは雄弁で音楽的な良い演奏だったが、今回はホールの楽器でなかったようで、やや硬質の音色だったのが気になった。
ハイドンのミサ曲は、普段着で教会で祈りを捧げる親しみやすさがあるハイドンならではの大衆性と、しかし同時に極めて難易度の高い芸術性を持った魅力ある作品だ。バーメルトは、この柔和で穏やかだが、芯の強さがあるミサ曲を見事に表現、特にサンクトゥス、ベネディクトゥスと終曲アニュスディに至るドラマティックで,かつ格調高い表現が素晴らしかった。
この作品は今回が札響初演だが、ハイドンには魅力あるオーケストラ作品が多いにもかかわらず、あまり定期のプログラムには登場しないのは、ちょっと残念。バーメルトにはもっとハイドンを振ってほしい。
ソリスト4名は全員発声、発音とも明確明瞭で声量も充分。ミサ曲らしい落ち着いた雰囲気の歌い方と、ドラマティックさも同時に持ち合わせていて、申し分なかった。これだけのソリストはなかなか揃わないのでは。
札響合唱団は久しぶりだが、音楽の輪郭,構成力や、バランス、歌詞の明瞭さなど、定期に相応しい水準だとは思うが、残念ながら全員マスク着用での合唱であるため、実際の声の魅力は本来の姿で演奏されるときまで、楽しみにしておこう。
他にメンデルスゾーン。繊細な表情がよくコントロールされており、静かな海の情景や航海の様子が目に浮かぶような、情景描写が豊かな秀演だった。
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