2022/10/13

ヘンデル

ジュリオ・チェーザレ

2022101014:00  新国立劇場オペラパレス


 揮/リナルド・アレッサンドリーニ

演出・衣裳/ロラン・ペリー

 術/シャンタル・トマ

 明/ジョエル・アダム

ドラマトゥルク/アガテ・メリナン

演出補/ローリー・フェルドマン

舞台監督/髙橋尚史


ジュリオ・チェーザレ/マリアンネ・ベアーテ・キーランド

クーリオ/駒田敏章

コルネーリア/加納悦子

セスト/金子美香

クレオパトラ/森谷真理

トロメーオ/藤木大地

アキッラ/ヴィタリ・ユシュマノフ

ニレーノ/村松稔之

合唱指揮/冨平恭平

 唱/新国立劇場合唱団

管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団



   新国立劇場バロック・オペラシリーズ第一弾として2020年に上演予定だったが、コロナ禍で延期、その復活上演。

 オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団で、もちろんモダンピッチ。ただし、通奏低音グループ(チェンバロ、チェロ、テオルボ)は古楽器専門の演奏家が担当。

 歌手はジュリオ・チェーザレ役のマリアンネ・ベアーテ・キーランドが古楽系、その他にカウンターテナーが2名、指揮者は古楽畑で、モダンと古楽の折衷演奏だ。

 古楽器演奏が始まってからほぼ半世紀が過ぎ、演奏者はもう第3世代に入り、今回のように、モダンのオケに古楽器アンサンブルが加わったり、古楽専門の指揮者がモダンオケを指揮することは珍しくなくなった。古楽の演奏レベルが向上し、かつ浸透してきて、モダンと古楽が一緒に演奏しても、お互いに違和感なく多彩な表現が難なくできる時代になった,ということだろう。


 設定は博物館の倉庫で、そこにはエジプトやギリシャの歴史上の人物の彫像や絵画が置いてあり、場面ごとに、それをイメージさせる美術品が登場するという仕掛け。ヘンデルの大きな肖像画も登場し、場内を笑わせた。

 歌手以外に博物館のスタッフが登場し、彼らは美術品の出し入れの他に兵士や悪人の役も兼ねる大活躍をする。ひょっとして彼ら助演グループの動きがこのオペラの成功の鍵を握っていたのかもしれない。

 人の動きを含め、全体的にユーモラスな雰囲気があり、設定そのものは現代であるにも関わらず、よくある深刻ぶった自己満足的な演出要素は全くなく、原作との違和感は全く感じさせない。物語の進行も実にわかりやすい。

 基本的に男女の愛を扱った単純明快なオペラだが、演出は、この愛憎渦巻くエンターティメント的な面白さを、海外の他の演出のようなどきつさを避け、衣装も含め上品な表現でまとめており、視覚的にも美しい箇所が多い。ロラン・ペリーの優れたセンスが伺われ、とても良かった。

 当初は人の動きが固く、レチタティーフの時に、直立して動かない場面も多く、特に第1幕では劇そのものが硬直して見える場合も多かったが、第幕以降は音楽に沿って人の動きがよく流れるようになった。

 

 今日のステージの中心は古楽派とも言える歌手が歌ったチェーザレと、カウンターテナーのトロメーオとニレーノ役。全員技術的にも音楽的にもかなり水準の高い歌手で、申し分ない。アリアは全てABA のダ・カーポアリアだが、ダ・カーポ後に即興的パッセージを加えたりと、かなりきめ細かく、繊細な表現で歌っているのだが、残念ながらホールが広すぎて、せっかくの素敵な表現が、今回鑑賞した3階席では遠く聞こえ、充分伝わってこない。

 モダンの歌手では、クレオパトラ役の森谷真理は、びわ湖ホールでのワーグナーが印象に残っていて、この役は意外でもあったが、今回はバロック的な即興句などの表情、スケール感が中々素敵で、とても器用な歌手であることに感心。ただ、やはり階席では遠く聞こえ、他の歌手グループも同様で、芸術性はとても良かったのにも関わらず、ちょっと残念だった。

 

 指揮のアレッサンドリーニは申し分ない仕上がり。モダンのオーケストラの持つパワーをうまく生かし、通奏低音グループの古楽奏者とも全く違和感を感じさせず、見事にまとめ上げた上演で、今の時代に相応しいバロックオペラとも言える。3階席では、低弦がやや棒読み風に聴こえた以外は、響きがきれいで、かつ明快な表現で楽しめた。


 いつもながら舞台設定,装置のスケール感は素晴らしかったが、贅沢を言えば、中ホールで、バロックオペラならではの繊細な音楽表現に徹した演奏で鑑賞したかった。

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