藤原歌劇団公演
ファウスト
2024年1月28日14:00 東京文化会館 大ホール
指揮/阿部加奈子
演出/ダヴィデ・ガラッティー二・ライモンディ
ファウスト:澤﨑一了
メフィストフェレス:伊藤貴之
マルグリート:迫田美帆
ヴァランタン:井出壮志朗
シーベル:但馬由香
ワグネル:髙橋宏典
マルト:北薗彩佳
合唱:藤原歌劇団合唱部
バレエ:NNIバレエアンサンブル
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱指揮:安部 克彦
美術・衣裳:ドミニコ・ フランキ
舞台芸術として、またエンターテインメントとしても存分に楽しませてくれた公演。
舞台はシンプルながらここの会館のステージを見事に活用したもの。背面から画像を投影する大きなパネルを5枚ほど用意して、場面ごとに照明の明暗と色彩の変化を加えて、位置と画像を変える。ファウストとマルグリートの2人の揺れ動く心理状況の場面を同時に表現するなど、その時々の情景を見事に再現。画像は好みがあるだろうが、これがなかなか効果的。
わかりやすく、しかも陳腐にならずに、威厳ある雰囲気を表現しており、舞台セットを組み立てるよりは場面を変幻自在に転換でき、より効率的だったのではないか。
衣装はファウストが生きた中世時代を想起させる威厳のあるスタイル。暗い色調のもので、その中に金のラインが入ることでメリハリがつき、なかなかいい。ただ、衣装が皆同じ設定で、時々区別がつかなくなる時もあったが、これは観る方の集中力のなさか。合唱団の衣装もやはり暗めの落ち着きのある色彩で統一されており、金のラインはなく主役級の邪魔にならないよう配慮されていた。
人物の動きはシンプルでうるさくなく、合唱団の所作も自然でまとまりがあって見やすい。全体的に深刻な進行にならず、メリハリがあり、ドラマティックに描かれたファウストで、オペラを観る楽しみを存分に提供してくれた。これはもちろん演出の方針でもあるが、指揮者の功績が大きかったのでないか。
指揮は初めて聴いた阿部加奈子。キビキビとした進行で隙がない。歌手のリードと統率もよく、歌詞によく合わせた歌いやすそうな指揮だ。オーケストラからは常に明確な表現を引き出し、作品全体を見事にまとめ上げていてた。 第5幕のバレエのシーンは省略することなく上演し存分に楽しませてくれたが、ここではバレエの振り付けに合わせた正確なテンポで振り、バレエへの配慮も忘れない。
このような歯切れの良い指揮ぶりのためか、今日は一段とオーケストラが素晴らしく、ソロもアンサンブルも実に冴えており、東フィルとしても最良の演奏だったのでないか。
阿部は2013年にファビオ・ルイージのオペラ・マスタークラスに参加している。そういえば2014年に観たルイージ指揮の「ファルスタッフ」(8月26日まつもと市民芸術館)がやはり隙のない歯切れの良い名演だったことを思い出した。ルイージの抜群の才能を受け継いでいるのかもしれない。
歌手はそれぞれ皆安定感があり、幕が進むにつれ、次第にアンサンブルも充実し、全員の声も歌詞もより明確に聴こえてくるようになってきた。
伊藤のメフィストは存在感があり、悪役風の風貌がこの役にふさわしい。魂を売って若返ったが、やや気弱なファウストを演じた澤﨑と、若い娘の揺れ動く心理状態を見事に表現した迫田のマルグリートがともに好演。ヴァランタンの井出はファウストに対する強い敵対心を表現し、力演。その他の歌手や合唱団も聞き応えがあって、舞台を引き締めていた。
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