札響名曲シリーズ
札響の第9
2024年12月15日13:00 札幌コンサートホールKitara大ホール
指揮 /川瀬 賢太郎
ソプラノ /迫田 美帆
アルト /藤木 大地
テノール /宮里 直樹 *
バリトン /萩原 潤
合唱 /札響合唱団、札幌大谷大学芸術学部音楽学科合唱団 ほか
合唱指揮/長内勲、大嶋恵人、中原聡章
フィンジ:武器よさらば *
ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」
珍しいフィンジは英国の作曲家。取り上げた趣旨はもちろん現在の世界情勢を反映してのものだろう。端正で透明な響きのする作品だ。
イントロダクション(レチタティーヴォ)とアリアの形式で書かれていて、特にアリアはバッハ風の、リズミックに静かに進行する心地よい田園歌とでも形容すればいいのだろうか、素朴で静かな楽想の佳品。テノールの宮里が落ち着いた雰囲気を醸し出し、オーケストラ共々しっとりと心に残る演奏だった。
第九は、予定調和的に決まりきったパターンの演奏が多い中、今日は川瀬の個性が生き生きと反映された演奏。全体的にテンポはやや速めで、もたつかず、歯切れが良く、きびきびと音楽が進行して、聴いていてとても気持ちの良くなる演奏。それだけではなく、細かいニュアンスにも不足がなく、第2楽章の最後の和音を柔らかく響かせまとめ上げるなど、ところどころに興味深い表現があった。久しぶりにすっきりと引き締まった、かつオリジナリティ豊かな第九を聴くことができた。
合唱は力むことなく響きが自然にホール内に広がって、各パートの限界を超えたような音域であっても音程、発声が乱れず、全体的なバランスもよく安定感があった。
今日はソリストのアルトにカウンターテナーの藤木大地。おそらく札響では初めての試みだろう。バランスの点ではいつも聴き慣れた女声ではないためか、やや遠く聴こえた印象があり、大ホールでの独唱のスケール感を求めるなら今まで通りの女声アルトがいいと思うが、今回のようにソリスト同士の調和を大切にするのであれば、藤木の起用は成果があったように思われる。
ソリストはステージ奥で歌っていたが、よく声が通り、表現力もあり聴きやすかった。
川瀬の優れたバランス感覚のためか、合唱とソリストとオーケストラの音量のバランスがとてもよく、かつ合唱の輪郭もクリアで、とてもわかりやすいすっきりと仕上がった第4楽章だった。
欲を言えば、第3楽章がやや単調に流れたようで、ここではもっと室内楽的な繊細さがあればよかったが、全体的にはここ数年の第九の中では出色の仕上がりと言ってもいいだろう。
コンサートマスターは田島高宏。
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