〈フランスの巨匠クープランの音楽を味わい、バッハ最晩年の傑作《音楽の捧げ物》の謎を読み解く!〉
岡山 潔 メモリアルコンサート Vol.5
2025年10月4日16:00 ふきのとうホール
寺神戸 亮/ヴァイオリン
前田 りり子/バロック・フルート
上村 かおり/ヴィオラ・ダ・ガンバ
曽根 麻矢子/チェンバロ
F.クープラン:「諸国の人々」より「フランス人」
J.S.バッハ:「音楽の捧げ物」
古楽ファンなら知らない人はいない、というメンバーによるバッハとクープラン。期待にたがわず、巨匠2人の作品を存分に楽しめた演奏会だった。
プログラムに掲載されていた寺神戸のメッセージによると、彼らはクープランを最も得意とするそう。
しかしながら今日の演奏を聴いていると、作品の内容の違いにもよるが、バッハの方が格段に面白かった。エッジの効いた歯切れ良いリズム感と隙のない緊張感のある演奏で、全曲聴き終えると聴く方もちょっと疲れるほどの好演だった。
アンサンブルリーダーの寺神戸のアクティヴなヴァイオリン、曽根のしなやかで落ち着き払った風格のあるチェンバロ、前田の全く乱れのない安定感抜群のトラヴェルソ、上村の全体を包み込むようなまろやかな音色のヴィオラ・ダ・ガンバなど、ソリストとしても申し分ない奏者達が一体となったアンサンブルは素晴らしかった。
このクラスの演奏家だと、作品の凄さに負けずにバッハの醍醐味を存分に伝えてくれる。チェンバロソロの魅力的な3声のリチェルカーレはともかく、個々の謎めいたカノンなど一般的に人気があるとは全く思えないが、バッハのあらゆる作曲技法がこの作品に集約されている。彼らの演奏を聴くと晩年のバッハが到達したとてつもない高みがとてもよく伝わってきて、感心せざるを得ない。それだけではなく、音楽的に美しく深みが感じられ、カノンのテーマなど、さりげなく演奏される主題や対旋律の整った美しさは格別で、特にトリオ・ソナタの厚みのある響きと一瞬たりとも弛緩しない演奏は実に聞き応えがあった。
アンコールにバッハのフーガの技法からコラールで、最晩年のバッハが目指した対位法による作曲技法の完結を暗示する作品。今日のプログラムの仕上げに相応しい選曲だった。
前半のクープランが終了した後に寺神戸が「音楽の捧げ物」についての解説を十数分。このホールの主催事業ではプログラム解説が掲載されていないことがほとんどなので、細かいところまで解説してくれたのはうれしいが、レクチャーコンサートではないので、これらはプログラムノートに掲載し、読む読まないは聴衆の自由選択にするなどの工夫が必要だろう。
王のテーマの楽譜が一つ掲載されているだけで、聴衆の理解度は飛躍的にアップするはず。演奏者に余分な負担をかけ聴衆を惑わせるよりはプログラム解説を充実させるべきだ。
前半のクープランはバッハと対照的に柔らかな雰囲気を感じさせた演奏。
集中力があり、求心的な演奏であることは、後半のバッハと共通しており、このアンサンブルの真摯な姿勢が伺われてとても良かった。ただ、聴く方としてはときどき、ふっと力を抜いたしなやかさや色気を感じさせるような、もっと色彩感豊かな感覚を味わいたいところ。あまりフレンチらしくなく、もう少し遊び心があってもいいのでは、と思った。
これは後半のバッハでも多少感じた点だが、そうは言いつつ、今日のプログラムはクープランもバッハもかなりの難曲。それを全く感じさせず、作品の魅力をダイレクトに伝えてくれた演奏者に大きな拍手を贈りたい。
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