マルチタレント、鈴木優人
2019年5月3日 Kitaraあ•ら•かると「きがるにオーケストラ」
指揮 鈴木優人 オーケストラ 札幌交響楽団
ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」より第1楽章
ブラームス 交響曲第3番より第3楽章
J.Sバッハ カンタータ第29番「神よ、我ら汝に感謝す」より
"シンフォニア"(オルガン/シモン・ボレノ)
ベートーヴェン 交響曲第7番より第4楽章
ヴィヴァルディ ヴァイオリン協奏曲「四季」より第1番「春」
ショスタコーヴィッチ ジャズ組曲第1番
藤倉 大 バニツァ・グルーヴ!
ラヴェル ボレロ
将来を嘱望される才能ある若手指揮者を聴くことはコンサート鑑賞の醍醐味の一つだ。最近ではアンドレア・バッティストーニと鈴木優人。バッティストーニは別の機会に触れることにして、今回は鈴木優人。
指揮者としての札幌デビューは、2019年5月3日Kitaraあ•ら•かると「きがるにオーケストラ」。彼を今クラシック音楽界で最も優れた才能の持ち主と呼ぶ事は誰も異論があるまい。指揮者、作曲家(編曲等含む)、チェンバリスト、オルガニスト、ピアニスト、しかもFM番組のDJまで。レパートリーはバロックから現代までを網羅し、とんでもなく広い。父上がバッハ・コレギウム・ジャパン(以下BCJ)の主宰者、鈴木雅明氏であることは周知のとおり。目覚ましい活躍を始める前に、 KitaraにはBCJの通奏低音奏者として何度か登場している。
この日はオムニバス風に有名作品からの抜粋を中心に並べた、大人でも子どもでも気軽にオーケストラを楽しむことが出来るコンサート。「運命」では速いテンポで歯切れ良い生き生きとした指揮ぶりを披露するなど、古典でも藤倉大でも全く躊躇することなく、その作品像を明確に、鮮やかにわかりやすく聴衆に示してくれた。交響曲全曲などが今回はなかったので、その片鱗しか窺えなかったにしても、その素晴らしい才能を遺憾なく披露してくれた素晴らしいコンサートだった。
同じ2019年5月29日に今度はBCJの首席指揮者として再び来札し、バッハのカンタータを聴かせてくれた。彼の出自を考えるとバッハは上手くて当然という気がするが、それ以外のジャンルでこの人が本当にどのくらい凄いのか、東京で聴いたコンサートから紹介しよう。
まずは指揮者。2020年10月6日、サントリーホール。サントリー芸術賞を読売日本交響楽団(以下読響)が受賞した記念コンサートで、プログラムはメシアンの「峡谷から星たちへ」。オーケストラはもちろん読響。当初指揮者はカンブルランの予定だったがコロナ禍で来日不可となり鈴木優人が代役。全3部12楽章で開演19時、休憩が第2部終了後に15分、終演は21時という大曲。指揮は恐らく万全だったのでは。代役とはいえ、これだけの大曲を見事にコントロールしてまとめ上げ、作品像を聴衆に分かりやすく紹介してくれる手腕はやはりただものではない。オーケストラ団員のソロが素敵だったが、これら団員の能力を引き出すのも指揮者の仕事。ホルン、打楽器セクション、管楽器セクション、それぞれがまとまり見事な演奏で、感心。シロリンバ、グロッケンシュピール、ウィンド・マシンなど視覚的に演奏の様子が面白い楽器があって、この種の作品はやはり実演を聴かないとその良さはわからない。
ピアニスト、オルガニストとしては、2019年1月31日「アフタヌーン•コンサートシリーズ、ソプラノとオルガン天上の響き、森麻季、鈴木優人」と題したリサイタル(東京オペラシティ、プログラムは下記の通り)。ここで鈴木優人はまず、ピアニストとして登場し森麻季の歌曲を伴奏。その後ピアノソロでラヴェルの「なき王女のためのパヴァーヌ」を、更にオルガニストとしてリストの「Bachの名前による前奏曲とフーガ」を演奏した。これだけの多種の仕事を同時にしながらもそれぞれの演奏はきちんとしており、けっして片手間の仕事ではない。歌曲の伴奏は歌をしっかりとサポートし、ブレスなどのタイミングで合わせて、とても音楽的。ラヴェルはきれいな音でロマンティックな雰囲気を再現しながらも、冷徹で客観的な平静さを崩さないし、リストのオルガン曲はディテールがやや曖昧にはなったにせよこの難曲を最後まで弾き切ってソロオルガニストとしても一級品であることを示した。
この凄いマルチタレントが再び原点に戻って、BCJを率いて2021年11月にkitaraに登場する。この日はオールバッハで、ブランデンブルク協奏曲第五番での長大なチェンバロソロを弾く。クリスマスオラトリオも指揮をする予定だ。ソリストとしても指揮者としても、どのように成長しているかがとても楽しみな演奏家だ。
森麻季、鈴木優人プログラム(東京オペラシティ)
J.S.バッハ:あなたがそばにいたら
J.S.バッハ:プレリュード 変ホ長調 BWV552(オルガン独奏)
G.カッチーニ:麗しのアマリッリ
A.ヴィヴァルディ:来て、いとしい人よ
A.チェスティ:さようなら、コリンド
M.ラヴェル:なき王女のためのパヴァーヌ(ピアノ独奏)
R.アーン:クロリスに
R.アーン:至福のとき
H.デュパルク:旅への誘い
F.リスト:B-A-CーHの名によるプレリュードとフーガ(オルガン独奏)
F.ヘンデル:歌劇「エジプトのジューリオ・チェーザレ」より
“つらい運命に涙はあふれ”
”嵐の海で難破した小船は”
G.F.ヘンデル:歌劇「リナルド」より“涙の流れるままに”
P.マスカーニ:アヴェ・マリア
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