回想の名演奏
ハンガリーの音楽家達〜
シャーンドル・ファルヴァイ
ピアノリサイタル
2007年2月20日19:00 札幌コンサートホールKitara小ホール
ハイドン:変奏曲へ短調 Hob.XVII-6
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番へ短調 作品57「熱情」
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 作品58
シャーンドル・ファルヴァイは 1949年生まれ、72年リスト音楽院を卒業、その後ベルリン、ニューヨークなどで演奏活動を展開、初来日は76年。リスト音楽院ピアノ科主任教授を経て、97年〜2004年までリスト音楽院学長。以前、この欄で紹介したイシュトヴァーン・ラントシュとともに、教育者として知名度が高い。
ファルヴァイは、リスト音楽院セミナー初年度の97年、以後2007年、2010年と3回のリサイタルをKitaraで開催している。その中でも、今回紹介する2007年のリサイタルが彼の端正で誇張のない、誠実で優れた音楽性が発揮された名演奏だった。
ハイドンは、落ち着いたテンポと抜けるような美しい音色で、古典的な均整感を持つこの名作を鮮やかに表現した名演。これぞ古典派の理想的演奏だ、と思わせたほど。
ベートーヴェンは作品の凄みが伝わってきた熱演。技術的にも音楽的にも安定感があり、よくありがちな、ただ突っ走るだけの熱情ではなく、それぞれのフレーズがよく歌い込まれ、存在感・意味を持たせ、それらが積み重なって大きな世界を築き上げていく、というベートーヴェンならではの世界を魅せてくれた名演。
ショパンのソナタはファルヴァイが特に愛好する作品らしく、様々な感情が込められた感性豊かで、逞しさを感じさせるこの作品を、丁寧に細部まで仕上げ、その逞しい全体像を骨太に表現した演奏だった。
ファルヴァイのレッスンを聴講していると、その内容はもちろんのこと、何よりも素晴らしいのは受講生に弾いて聴かせる模範演奏だった。
演奏会で聴くことのできない作品も多く、ほんの数小節から数ページに渡る時もあり、それが聴講する楽しみの一つでもあった。
残念ながら、ファルヴァイは高齢を理由に引退を表明し、弟子のガボール・ファルカシュが後を引き継ぎ、講師を務めている。ファルカシュは、すでに国際的に活動している素晴らしいピアニストで教育者でもあるので、セミナーでの今後の活躍が期待される。(今年のセミナーはハンガリーとオンラインでつないで、小ホールでの開催。2月22日から。)
ハンガリーの音楽家に共通の姿勢は、作品の本質を誠実に、誇張することなく表現すること。いつも楷書体で、オーソドックスであり、何処かを崩したり、曖昧にするようなところは一切ない。音楽に対する真摯な姿勢は素晴らしい。第一線で活躍するハンガリー出身の音楽家が多いのは、このような思想を持つ優れた音楽教育を受けたためでもあろう。
ファルヴァイのレコード、CDは数多いが、その中でも若干20歳での、おそらく初録音と思われるバッハとショパンを録音した盤、ハイドンのピアノソナタ集、ショパンのピアノソナタ第3番とシューマンのソナタを録音した盤が特に優れている。
●J.S.Bach:Itarian Concert, D.Scarlatti:Sonatas, Chopin:Sonata op.35/
Qualiton11429
●Haydn:The Complete Keyboard Solo Music No.3 /Hungaroton
SLPX 11 800/02
●Chopin:Sonata op.58, Schumann:Sonata op.22 /Hungaroton
SLPX 11883
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