オルガンウィンターコンサート
2022年2月11日15:30 札幌コンサートホールKitara大ホール
オルガン/ニコラ・プロカッチーニ
ロッシーニ/プロカッチーニ編曲:歌劇「セビーリャの理髪師」序曲
J. S.バッハ:様々な手法による18のライプツィヒ・コラール集より
いと高きにある神にのみ栄光あれ BWV 664
プロカッチーニ:フランチェスコ・スカラビッキの詩に基づく即興演奏
モーツァルト:自動オルガンのためのアダージョとアレグロ ヘ短調
K.594
プロカッチーニ:オズヴァルド・リチーニの絵画に基づく即興演奏
ブラームス:11のコラール前奏曲より わが心の切なる願い
作品122-10
モランディ:グランド・モダン・オルガンのためのラッコルタより
シンフォニア ニ長調 作品21-4
スカラビッキ,Francesco Scarabicchi(1951〜2021)、20世紀後半の最も深遠で難解な詩人の一人で、簡潔で飾るところがなく、形容詞や巧みな言い回しは見られない。当日配布プログラムより
リチーニ,Osvaldo Licini(1894〜1958)最も重要な前衛芸術家の一人、ボローニャで学ぶ。パリで暮らした後、故郷に戻り反独裁主義者としても活動。同
落ち着いた雰囲気のコンサートだった。昨年のクリスマスオルガンコンサートでは湿気を含んだ大雪の天候だったためか、オルガンの響きに冴えがなく、ちょっと心配だったが、今日のオルガンのサウンドはとてもきれい。楽器の状態は良さそうで、最後まで安定しており安心して鑑賞できた。
今日のプロカッチーニは、バランスのとれた落ち着いたサウンドのレジストレーションで終始演奏、思慮深い、中庸の表現で全体をまとめ上げていた。派手さはなく、時として物足りなさを感じるときもあったが、全体的には、安定感のあるクラシックな演奏スタイルで、オルガン音楽の魅力をしっかり伝えてくれた。
演奏者自身執筆のプログラム解説によると、19世紀のイタリアではクリスマス終了後の12月26日からオペラの新シーズンが始まり、冬はオペラを楽しむ季節だったとか。オルガニストはオペラの人気作品をオルガンで演奏していたそうで、今回はその伝統に従って、ロッシーニの序曲から演奏会が開幕。自らの編曲にしては、どことなく弾きにくそうだったが、オーケストラの響きをよく再現した優れた編曲で、楽しめた。
今回の演奏会の特徴は即興演奏があったこと。かつてはプロのオルガニストは全て即興演奏が出来たそうだが、最近は少なくなってきたと言われているので、今回は貴重な機会。
モーツァルトを間に挟んで、まず母国イタリアの現代詩人、スカラビッキから、次に同じくイタリアの画家、リチーニの作品からインスピレーションを得ての即興演奏。詩と絵画が印刷物で添付してあり、これは親切。
両者に共通の即興演奏の特徴は、オルガンの特質を反映させた豊かな和声で全体を包み込み、旋律的要素もあり、調性を大きく離脱することもなく、静かで優しいサウンドで全体をまとめ上げていたこと。詩や絵画からの思想的なメッセージではなく、情景そのもののイメージを表現していたと思われる。
唯一、絵画の「反逆者の天使」からのイメージか、そこでほんの僅かだが、激しさを感じさせる瞬間もあったが、現代音楽によくあるような、不安を感じさせる不協和音による暗い表現などは一切なく、政治的、歴史的な背景も全く感じさせない。
間にモーツァルトを挟んだのは、モーツァルトのイメージに近い世界を描きたかったのでないか、とも想像できる。古典的なスタイル上に現代風のスパイスを利かせたオーソドックスな手法による即興演奏で、聴きやすく、楽しめた。即興演奏が求められる通奏低音の奏者としても活動歴があるそうなので、そういう機会があれば是非聴いてみたい。
モーツァルト、二曲目のバッハ、そしてブラームスは、それぞれの表現は地味ではあるが、中庸で、静かで瞑想的であり、オルガンのサウンドが最もバランス良く、美しく響くようにレジストレーションを選択しての演奏。知的なセンスにあふれた秀演だった。
最後のモランディのシンフォニアは、オルガンのために書かれた19世紀初頭の作品で、初めて聴く作品。明らかに当時のイタリアオペラ音楽を反映させた作風で、ロッシーニほどの才能は感じさせないが、フィナーレにふさわしい生き生きとした演奏だった。
冒頭にも書いたが、今日のオルガンのサウンドは、まろやかで柔らかく、とても快適で聴きやすかった。もっと華やかなサウンドも聴きたかったが、それは次回の楽しみとしよう。
アンコールに、ヴィエルヌ:幻想的小品集より 即興曲 作品54-2。
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