札幌交響楽団第653回定期演奏会
5月28日13:00 札幌コンサートホールKitara大ホール
指揮/マティアス・バーメルト
ソプラノ/安井陽子
バリトン/甲斐栄次郎
合唱/札響合唱団、札幌放送合唱団
合唱指揮/長内勲、大島恵人、中原聡章
管弦楽/札幌交響楽団
メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」序曲、夜想曲
ブラームス:ドイツ・レクイエム
ブラームスはコロナ禍で2020、21年と2度断念し、今回やっと実現したバーメルト念願の作品。ことさら大きく構えることもなく、自然な語り口で、全体をおおらかにまとめ上げた演奏。第6曲のドラマティックなシーンでも、鋭角になり過ぎずにまとめ上げるなど、オーケストラを自然に響かせる柔らかさがあって、聴いていてとても心地よい。
合唱団はマスクを外してP席での歌唱。ただし、一席ずつ空けての席割で、声はホール内に自然に広がるが、今日聴いた席(2階CB10列目やや上手より)では、全体的に少々輪郭のぼやけた響きに聴こえてきて、例えば第3曲目のフーガの動きなど、よくわからない箇所があったり、全体的に歌詞が捉えにくかったのが残念。オーケストラと合唱は一体感があったにせよ、オーケストラの響きにやや隠れがちなところが多かった。小編成でのアンサンブルのところでは明確に歌詞が聴き取れたので、これは席配置のためだろう。これらを除けば、合唱はバランスも良く、高水準だったのではないか。
全体的にはソリストが加わった3曲目以降が、表情が引き締まって、音楽の表現に幅が出てきて、わかりやすく聴きやすかった。
ソリストは、ステージ前面で歌ったためか、2人とも歌詞も声量も申し分ない。特に5曲目での、ブラームスでは珍しく高音部に集中した旋律ラインを、ソプラノの安井が安定感ある歌唱で、音程、歌詞、表情、合唱との対話など様々な要素を見事に表現していて、素晴らしかった。オーケストラの響きも美しく、この楽章は今回の白眉。バリトンの甲斐が歌った第3曲と第6曲も好演。
オーケストラは、様々な管楽器のソロがとても良く、聞き応えがあったが、最後のピアニッシモなど、弱音での表情にもっと磨きがかかるとさらに魅力的な演奏になっただろう。
終演後20秒以上バーメルトが静止して動かず、その間拍手がなく、余韻を楽しむことができた沈黙の時間が続いた。やはりこの種の作品では終演後の余韻は必要だ、と認識することができた貴重な機会。終演次第間髪を入れず拍手をする聴衆が多い都市とは違って、今日の聴衆の節度ある態度は素晴らしい。
前半のメンデルスゾーンは、荘厳で、なかなか渋い響き。メンデルスゾーンらしい、快活な響きではなく、ちょっと重いかな、とも思ったが、これは今日のバーメルトの音楽作りの方針だったのかもしれない。
オーケストラは音楽に乗り切れないところがあって今一つ冴えに欠けたところがあったが、夜想曲は管楽器の秀悦なソロもあって、こちらは楽しめた。
コンサートマスターは会田莉凡。