後藤絵里ピアノコンサート 〜東欧の夕べ〜
2023年8月11日16:00 安田侃彫刻美術館
(アルテピアッツア美唄アートスペース)
後藤絵里/ピアノ
スメタナ:『チェコ舞曲』より 「フラーン」、「ポルカ イ短調」
『夢 6つの性格的小品』より第3番「ボヘミア地方にて」
演奏会用エチュード 嬰ト短調 「海辺にて」作品17
ヤナーチェク:ピアノソナタ「1905年10月1日街角で」
ショパン:バラード第3番 変イ長調 作品47
マズルカ作品30
1. ハ短調 2. ロ短調 3. 変ニ長調 4. 嬰ハ短調
ノクターン作品27
1. 嬰ハ短調 2. 変ニ長調
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ
変ホ長調 作品22
後藤絵里は美唄出身で、現在プラハ在住のピアニスト。
2010年の第16回ショパン国際ピアノコンクールに一次予選のみの参加だったが、その演奏はインターネット上でリアルタイムで鑑賞できたので、ご覧になった方も多いだろう。
印象に残る明快な演奏だったが、同時にその演奏時の写真が話題を呼んだのも記憶に新しい。これはポーランドの公の施設などで、5年間も掲示されていたそうだ。
(写真右。ERI GOTO Hpより転載)私が前回聴いたのは2011年、札幌コンサートホール小ホールで開催されたリサイタルで、もう12年も前だが、演奏活動はその後も順調に継続しているようだ。
今回のコンサート会場、安田侃彫刻美術館は美唄市にある廃校となった小学校の元体育館。緑に囲まれた静かなところで、芸術鑑賞には最適な場所だ(詳細はHP参照https://www.artepiazza.jp/)。
会場にはエアコンがなく、この異常な暑さの中、ほぼ満席の聴衆は汗だくになっての鑑賞。ピアニストはこの最悪のコンディションにもかかわらず、完璧なプロフェッショナルの演奏を披露し、これは見事。
技術的には全く問題がなく、力が抜け、音がすっきりと抜けてくる。音楽の流れがとても自然で、語り口に作為的なところが無い。明確なフレーズ感とわかりやすいイントネーションがあり、未知の作品であっても、とても理解しやすい演奏だ。以前より息使いが深くなり、表現の幅が広がってきたように思う。
スメタナのピアノ作品は、プラハ在住のピアニストらしく、以前からレパートリーに入れ、紹介し続けている作曲家だ。「チェコ舞曲」や「夢6つの性格的小品」は、表現の起承転結が明確でとてもわかりやすい演奏。よく歌い込まれていて、音楽的にも美しく申し分無い。
「演奏会用エチュード」はスメタナのピアノ作品の中では最も演奏される機会が多い。技巧的なパッセージに表情があって、無機的にならず、華やかさの中にも色彩の豊かさが感じられて、とてもよかった。これは当日の演奏全体からも感じられ、彼女の特質でもあろう。
ヤナーチェクのピアノソナタは作品に込められた追悼的な感性が劇的に描かれていて、説得力のある良い演奏。スメタナもヤナーチェクも語り口が自然で、ゴツゴツした暗い東欧のイメージはなく、音楽的に豊かな作曲家のイマジネーションが伝わってきて好感の持てる演奏だ。それにしてもスメタナのピアノ作品がこれだけ多彩だとは知らなかった。
後半は、コンクールでも弾いてきたショパン。メインレパートリーでよく弾き込まれた安定した素晴らしい演奏。
マズルカでのリズム感と柔らかい表情、ノクターンでの和声感豊かな伴奏と、流麗で美しい旋律の表情と装飾音の表現は、特筆すべき内容。
最後の「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は音楽的にも技術的にも申し分なくよく仕上がった演奏で、かつてのショパンコンクール入賞者達の演奏と比べても全くひけを取らないばかりか、彼等よりも優れた演奏だと言っても過言ではないだろう。アンコールにショパンの「黒鍵のエチュード」。
場内は大型扇風機の音と、開放された窓から入る風の音など自然の音が聞こえ、コンサートホールでの沈黙の中で聴いた演奏ではない。従って、そのすべてを聴き取れたわけではないが、そのハンディを除いても、今日の流れるような自然な演奏はなかなか聴く機会は少ない。もっと聴かれてもいい演奏家の一人だ。YouTubeも開設しているので、是非一度アクセスをお勧めする(https://youtube.com/@erigoto5657)。
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