2023/09/14

 9回武蔵野市国際オルガンコンクール関連イベント

審査委員ガラコンサート


2023年9月12日 武蔵野市民文化会館小ホール


主催 第9回武蔵野市国際オルガンコンクール組織委員会



ファッサン・ラスロ(ブダペスト芸術宮殿オルガニスト)

D .ダンタルフィ:スケルツォ「陽気なフォーンたち」
G.リゲティ:ハンガリアン・ロック
ファッサン・ラスロ:即興演奏


廣江 理枝(東京藝術大学)

J.S.バッハ/M.レーガー編曲:トッカータ ニ短調 BWV 913

M.レーガー:トッカータとフーガ イ短調 Op.80-11,12


キム・ジスン(ソウル神学大学)

        J.-N.ニコラ・レメンス:ソナタ第 「教皇」 ニ短調


マティアス・マイヤーホーファー(フライブルク音楽大学)

D.ブクステフーデ:トッカータ ニ調 BuxWV 155
西村 朗:オルガンのための前奏曲「焔の幻影」


トマ・オスピタル(パリ国立高等音楽院)

J.S.バッハ:変ホ長調 BWV 552/2
トマ・オスピタル:即興演奏


イヴ・レヒシュタイナー 審査委員長(リヨン国立高等音楽院)

  J.S.バッハ/J.レヒシュタイナー編曲:

     無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3 ハ長調 BWV 1005

 

クシシュトフ・ウルバニアク(ウッチ国立音楽大学)

J.S.バッハ:パッサカリア  BWV 582



 

 今年で第9回となる武蔵野市国際オルガンコンクールの審査委員によるガラコンサート。

 1988年に創設され、以後年おきに開催、今回はコロナ禍で延期のため、6年ぶりの開催。

 審査委員7名は全員が優れたオルガニストだけあって、それぞれ全く違う個性の演奏で聴衆を楽しませてくれた。


 この中で、特に今回強く印象に残ったのはマティアス・マイヤーフォーファーとトマ・オスピタル。


 マイヤーホーファーのブクステフーデは、鋭いアーティキュレーションと明確な音色のレジストレーションで作品の立体感を見事に再現、引き締まった鮮烈な演奏だった。当時いかに大きな影響力を持った大作曲家なのかを如実に示してくれた。これほどの鋭さを感じさせ、作品の本質を見事に伝えてくれたブクステフーデの演奏を聴くのは初めてだ。 

 西村朗の作品は、このコンクールの課題曲として1996年(第3回)に委嘱作曲されたもの。演奏前に主催者より西村が惜しくも去る9月7日に他界(69歳)、今日は追悼の意を込めて演奏する旨メッセージがあった。

 初めて聴いた作品だが、コンクール課題曲だけあって、音楽的にも技術的にも極めて難易度の高い内容。仏教の儀式から題材を得、東洋風の色彩感が濃く、妥協を許さない厳しさを演奏者に求める作品だ。当然、このホールの楽器を想定して作曲した作品だろう。 

 マイヤーホーファーの演奏は、この作品のお手本とも言える、集中力があり、隙のない卓越した内容。追悼演奏ということもあり、より深く聴衆に演奏者と作曲者のメッセージが伝わって来たのではないか。

 多彩な音色と、厚く力強い音から最弱音で繊細な音まで極めて幅広い表現で、この楽器の特性をも見事に伝えてくれた。今日の演奏を聴く限り、現代における最も存在感のあるオルガン作品の一つと言える。


 もう一人のオスピタル。彼の弾いたバッハのフーガは、歌うフーガと形容するといいのだろうか、深く歌い込まれ、音楽は停滞することなく、前向きで、生命力に満ちている。無機的なところは一切なく、音色は美しく、力の抜けた柔らかい技巧の持ち主だ。全体の構成感が素晴らしく、このようにキラキラと輝いた、生き生きとしたバッハを聴くのは本当に久しぶり。

 即興演奏は部構成で第1部は明らかにメシアンを中心としたフランス現代オルガン楽派を基調とした即興。第2部の中間部はペダルのオスティナートリズムの上に、原始主義的なロシア楽派を想起させる野生的でリズミックな即興が展開され、第3部として再び冒頭を再現してまとめる、という構成。過度にモダンにならず、過去と現代を結びつけた聴衆にもわかりやすい対比と全体構成で、これは聞き応えがあった。


 この人以外もそれぞれ素晴らしい個性的な演奏を聴かせてくれた。

 ファッサン・ラスロは、200001年、札幌コンサートホール専属オルガニストとして日本に滞在している。そのためか、比較的日本では知名度のあるオルガニストだ。

 今日のプログラムのダンタルフィ、リゲティ、即興演奏はいずれも自国のハンガリーの民族音楽をベースにしたもの。抜群のリズム感の持ち主で、明るく伸びやかで、演奏する喜びがとてもよく伝わってくる演奏家だ。ジャズも得意とし、その要素も感じられた即興演奏はオルガンの多様な機能を駆使しての演奏。

 力が入りすぎたのか、オルガンの音が止まらなくなるハプニングが発生。だが、これは演奏者の責任でも技術者の責任でもなく、オルガンにはよくあるトラブルだ。気候に左右されることもあるらしい。


 廣江理枝の演奏は、急遽メンテナンスが行われた後だったにもかかわらず、落ち着いた安定感はさすが。レーガー編曲のバッハは、まるでレーガー自身の作品のように聴こえてきて、面白かった。レーガーの作品はとても個性的で、意外に革新的な要素も含まれていて、近現代のオルガン音楽にいかに強烈な影響を与えたのかを伝えてくれた演奏だった。

 なお、廣江は1996年第3回当コンクールの1位無しの第2位。西村の作品演奏で委嘱作品最優秀演奏賞を獲得している。


 キム・ジスンはレメンスのソナタを演奏。この作品の持つ陽性の雰囲気を、豊かでまろやかな音色と、暖かく包容力のある演奏で余すところなく伝えてくれた。このホール全体に響いた豊かで柔らかい響きは、今日の演奏家の中でも群を抜いていたのではないか。レメンスは意外と聴く機会が少なく、今日の演奏はとても貴重。


 イヴ・レヒシュタイナーは、個人的にはかつてのジャン・ギューを想起させる演奏。型にはまらない明るい雰囲気のバッハで、特に終楽章のフーガは、原曲からは想像出来ないオルガンのために書かれた作品のように厚みのある音が聴こえてきた。このオルガニストの多彩な才能を示してくれた。


 最後のクシシュトフ・ウルバニアクはどっしりと低音主題を響かせた堂々とした重厚な演奏。楽器を見事に響かせ、バッハの作曲技法の物凄さが圧倒的な迫力で伝わってきて、フィナーレにふさわしい演奏だった。当時の聴衆はバッハの演奏でこの作品を聴いて、さぞかし度肝を抜かれたのだろうな、と想像させる演奏でもあった。


 場内はほぼ満席。オルガンコンクールも第9回を迎え、広く浸透しているようで、このホールを中心とした地域の方々が数多く来場しているようだ。オルガン演奏に慣れている様子で、静かで落ち着いた上質の雰囲気が感じられた。ホールの周辺にはオルガンコンクールのフラッグが架けられていて、街中で応援している様子が伺われた。

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