アンヌ・ケフェレック ピアノリサイタル
2024年3月9日14:00 札幌コンサートホールKitara小ホール
ピアノ/アンヌ・ケフェレック
J.S.バッハ/ブゾーニ編曲:さまざまな手法による
18のライプツィヒ・コラール 集より
いざ来ませ、異邦人の救い主よ BWV659a
J.S.バッハ:協奏曲 ニ短調 BWV974より 第2楽章「アダージョ」
協奏曲 ニ短調 BWV596より第4楽章
「ラルゴ・エ・スピッカート」
スカルラッティ:ソナタ ロ短調 K.27、ソナタ ホ長調 K.531、
ソナタ ニ短調 K.32
ヘンデル/ケンプ編曲:組曲 第1番 HWV434より 第4曲「メヌエット」ト短調
J.S.バッハ/ヘス編曲:コラール「主よ、人の望みの喜びよ」BWV147
ヘンデル:シャコンヌ ト長調 HWV435
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第18番 ト長調 D.894
ケフェレックは、最近では札響定期で2回来札しモーツァルトの協奏曲を弾いている。
(第618回 2019年4月に第22番、第645回22年5月に第27番)。
この時の演奏を聴いてファンになった人も多いようで、今日はソールドアウト。
静かに抒情詩を朗読するような、豊かな知性を感じさせる落ち着いた雰囲気の演奏会。前半はバロック時代の名作を、後半はシューベルトのソナタと、選曲も叙情的作品を中心に選択。
決してスケール感のある演奏ではないが、小ホールに相応しい上品で洗練された響きで語りかけてくれた良質の演奏だった。
前半は、オリジナルはスカルラッティとヘンデルのシャコンヌだけで、あとは編曲作品。アンコールピースばかりの珍しいプログラムで、これだけ似たような作品が続くと、普通だと食傷気味になるが、聴衆を飽きさせないように配列をよく考えたプログラミングだった。
最初はバッハのコラールとコンチェルトからの編曲を演奏。ピアノの響き、状態を確かめるように、一音一音念入りに表現。旋律の歌い方、美しさは素敵だが、淡々とした表現で、感情過多にならずあくまでも冷静だ。
続くスカルラッティは技巧的で華やかな楽想の作品ではなく、メロディックでカンタービレ要素が強い作品を選択。スカルラッティの明るさよりも節度あるバランス感覚をとても大切にしており、好演。
次のヘンデルのメヌエットとバッハの有名な「主よ、人の望みの喜びよ」コラールでも美しい音色で歌うが、ここでも大きな素振りはせずに静かに語るだけの演奏。
前半最後のシャコンヌは当時の鍵盤演奏技法を集大成した技巧的な21曲の短い変奏が続く作品。技術的な要素を程よく強調し前半のまとめにふさわしい内容だった。ただ、このシャコンヌはヘンデルが所有していたリュッカースのチェンバロで演奏すると、明晰で均一性のある華やかな響きがする単純明快な作品だけに、やや知的にコントロールされ過ぎた演奏だったような気もする。
後半のシューベルトは名演。全体的なプロポーションがしっかりしており、情緒に流されずにまとめ上げた演奏。とは言え、全体を通じて通奏低音のように聴こえてくるレントラー風の動機をさりげなくおしゃれに演奏したり、突然激しい転調をし思わず驚かされるドラマティックな表現など、シューベルトならではの、迷路に入りそうで入らない絶妙な世界を、実に魅力的に聴かせてくれた。
第1楽章は早過ぎず、遅過ぎず、いいテンポだ。比較的長い旋律的動機を展開させていく作曲技法とその旋律的動機をオクターヴを重ねて表現する書法はこのソナタで特徴的だが、それを鮮やかに引き締まったテンポでまとめ上げたのは素晴らしい。
第2楽章は歌い過ぎず、静と動の感情表現が実に鮮やか。中間部の劇的に展開する箇所は、歌詞のないリートを聴いているよう。
第3楽章のメヌエットは少し速めであっさりとした表現。
第4楽章のロンドは、ロンドソナタ形式風でやや長めの楽章だが、心地よいテンポで饒舌にならずに、全体をバランスよくまとめ上げた演奏。
今日の楽器(スタインウェイ)は実にバランスの良い調整と調律。最後にケフェレックがピアノに向かって拍手を贈っていたが、柔らかく、まろやかな整音ときれいに揃った調律が見事。一切楽器から雑音が聞こえてこないよくコントロールされた演奏と楽器の性能の良さが完璧に一致した素晴らしい演奏会だった。
アンコールにサティのグノシエンヌ 第1番。
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