2024/03/05

 ハイドンマラソン HM.34 


2024年3月1日19:00  ザ・シンフォニーホール


指揮/飯森 範親(日本センチュリー交響楽団 首席指揮者)
チェロ/佐藤 晴真

管弦楽/日本センチュリー交響楽団


ハイドン:交響曲 第80番  ニ短調 Hob. I:80
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲 イ長調 作品33
ハイドン:交響曲 第102番  変ロ長調 Hob. I:102 



 ハイドンマラソンは日本センチュリー交響楽団と飯森範親がハイドンの交響曲全曲を演奏するビック・プロジェクトで、今回が34回目。あと4回で来年度内に完結予定。全て録音しすでに22巻までCD発売されており、好評のようだ。


 ハイドンの交響曲はオーケストラの定期演奏会でも、来日海外オーケストラ公演でも、ほとんど演奏される機会はない。札響でもハイドンの交響曲を聴いたのは一体いつだったのか思い出せない。それだけ人気がないのか、演奏が難しいのか、理由はよくわからない。


 今日あらためてライヴで2つの交響曲を聴いてみると、心に焼き付くメロディーがたくさんあるわけでもないが、素材・動機だけでシンプルに仕上げられた職人的な作曲技法による名品だ。それゆえ、どんなにいいオーケストラでも、思い付きで演奏して形にするのは意外と難しいような気がする。

 ただし、こうしてライヴで演奏され、その全貌が明らかにされることによって、モーツァルトやベートーヴェンを先取りした作曲技法とハイドン以降の時代につながる革新性を持った作品であることを、広く聴衆に直接認識してもらうことが出来る。この全曲演奏の意義は、ここにありそうな気がする。滅多に聴く機会のない交響曲全曲を、ただ単に演奏して聴かせるだけで終わらせてしまうのでは実にもったいない話だ。


 さて、今日のハイドン。このオーケストラは基本が第1ヴァイオリン8名による室内オーケストラ仕様の編成で、まるでハイドンを演奏するために編成されたみたいだ。配置はチェロ・バスが下手側に、第2ヴァイオリンが上手側に座ったいわゆる対向配置だが、これはハイドン用の仕様ではなく、チャイコフスキーも同様だったので、飯森の好みのようだ。

 全体的に引き締まったきびきびとした表現。緩徐楽章でのノンビブラートとクリアなアーティキュレーションによる表情など、聴衆を惹きつける解釈もあり、歯切れ良く先にどんどん進んでいく指揮ぶりだ。現代の様々な演奏スタイルを明確に反映させた解釈で、聴衆を退屈させることなく全体をまとめ上げる構成力はなかなか素晴らしい。

 その点で成功していたのは後半の102番。解釈が徹底していてわかりやすく、ハイドンの作品の精緻さがよく伝わってきた演奏だった。

 冒頭の80番はやや固さがみられ、例えると、飯森の実験的試みにオーケストラが充分反応し切れていないような印象を受けた。演奏全体にもう少し活気があれば、とちょっと惜しまれる。


 チャイコフスキーを弾いた佐藤晴真は素晴らしかった。この作品でチェロがこれだけ明確に聴こえてきて、しかも細部までしっかりと仕上げられた演奏は初めて。オーケストラの編成が8型と小さかったためもあるが、これは演奏者の力量と、ホールの豊かな響きのためなど、さまざまな条件が重なったためだろう。また響きがロマン派仕様にガラリと変わり、もちろん指揮者の力量によるものだろうが、オーケストラが冒頭のハイドンとは異なり、生き生きと演奏していたのが印象的。

 だが、このシリーズでなぜチャイコフスキーが登場するのかよくわからない。ハイドンのチェロソロ関連の作品はすでに演奏済みだったとしても、だ。

 ソリストアンコールでバッハの無伴奏組曲第3番からサラバンド。


 このオーケストラのシリーズ公演を聴いたのは初めて。1989年設立で定期公演数はまだ280回。成熟度が増すのはこれからのようだ。8型の室内オーケストラ仕様なので、編成の大きな作品だと制約があるのだろうが、このハイドンシリーズでオーケストラの基礎能力はかなり鍛えられたのではないか。これからが大いに楽しみなオーケストラだ。

 ハイドンマラソン、ゴール到達後どうするのか、期待しよう。

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