クァルテット・エクセルシオ
第17回 札幌定期演奏会
2024年6月6日19:00 札幌コンサートホールKitara小ホール
弦楽四重奏/クァルテット・エクセルシオ
(西野 ゆか、北見 春菜、吉田 有紀子、大友 肇)
プレトーク(18:30〜)/権代 敦彦、渡辺 和
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調K.458「狩」
権代 敦彦:“空(ソラ)のその先” 〜弦楽四重奏のための〜
作品195(世界初演)
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 作品131
今年で結成30周年を迎える常設弦楽四重奏団。
40ページほどの厚みのある配布プログラムを読むと、定期演奏会、現代音楽、アウトリーチの3本の柱を核に活動を行なっているようだ。
その核の一つ、現代音楽の権代の作品初演で、常設弦楽四重奏団としての圧倒的な存在感を示した。
結成30周年を祝しての委嘱作品で、開演前に作曲者によるプレトークがあり、作品の成立と内容についての説明があった。
これは、新作初演の鑑賞の手引きとしてとても重要かつ有益。
作品はこの作曲家の特徴なのか、同型音型の反復が多くトリルによって装飾されたモティーフが全体を統一していて、もちろん無調。しかし、とても丁寧に書き込まれた聴きやすい作風の作品で、いわゆる現代音楽風の難解で自己満足的な硬い雰囲気はない。
最高音の象徴的モティーフから始まり、それが天上から地上に、そして地上から天上に戻っていく様子が描かれている(と思った)。細部までよく吟味された表情豊かな演奏で、最高音から最低音まで澱み無い響きと、良く練れた美しい音色で統一されていた。中間部のチェロの深みのある、あたかもイエスの言葉のような雰囲気を感じさせる素敵なソロなどもあって、全体的になかなか熱い説得力のある演奏だった。
おそらく今まで努力を重ねてきた過去と輝かしい未来を祝しての作品なのだろうが、筆者には過去の苦労してきた長い道のりとこれから予期される苦難の道を示しているような、ちょっと重々しい受難曲のようにも聴こえた。
この弦楽四重奏団は、現代の作品演奏にとても優れていて、今年の1月(1月29日18:30 東京文化会館小ホール、フランス音楽の夕べ「日仏文化交流に尽力した作曲家たち」)のコンサートで聴いた三善晃、牧野縑、丹羽明の室内楽作品の演奏が忘れられない。この系統の作品にも対応できる幅広い能力は、やはり常設の強みと絶え間ない研鑽の成果でもあろう。
その他では、後半のベートーヴェンが出色の仕上がり。ある面現代音楽よりもまとめるのは難しい作品だが、何よりも、全体的に弦楽四重奏団としての意志統一がされており、作品としてのまとまり、仕上げが素晴らしい。このジャンル屈指の名曲をわかりやすく解説して聴かせてくれたような演奏だ。
音質がきれいで、よく歌い込まれており、かつ各パートのバランスが見事。楽章ごと、変奏ごとに変容する気まぐれな楽想が、きめ細かく鮮やかに表現されていて、聴き手を惹きつけて止まない。
第5楽章のプレストの楽章など、よく弾き込んでいるにもかかわらず、力み過ぎて一瞬形が崩れそうな不安を感じさせたが、全く気にならず、こういう人間臭さを垣間見せてくれるのも、この弦楽四重奏団の親しみやすさの一つでもある。
それに対して冒頭のモーツァルトは大味過ぎた。もちろんそれなりの水準の高い演奏だが、音楽が漠然と流れるだけで、この作品で何を伝えたいかとの演奏者からのメッセージが伝わってこず、30年の歴史のある常設弦楽四重奏団の演奏としては不満だ。他の2曲同様聴衆を惹きつける魅力的な、この団体ならではの演奏を聴かせてほしかった。
ホワイエのチケット受付や、CD販売、弦楽四重奏団の今までの足跡を展示したパネル展などは主催者のエコ・プロジェクト関係者の大学の学生が担当していたようだ。賑やかさと活気があり、いつものコンサートにはない親しみやすさがあった。アンコールは無し。
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