第22代札幌コンサートホール専属オルガニスト
ニコラ・プロカッチーニ デビューリサイタル
2021年11月12日19:00 札幌コンサートホールKitara 大ホール
J.S.バッハ:トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564
クープラン:「修道院のためのミサ」より
聖体奉挙(ティエルス・アン・タイユ)
ヴィヴァルディ/J.S.バッハ編曲:オルガン協奏曲 二短調 BWV596
フランク:大オルガンのための6つの小品より
前奏曲、フーガと変奏曲 ロ短調 作品18
J.アラン:3つの舞曲 JA120A/120bis
デュリュフレ:アランの名による前奏曲とフーガ 作品7
Kitaraでは専属オルガニストを海外から一年の任期で招聘している。今年は22代目で26才のイタリア人。コロナ禍の中、よくぞ来日が実現した。いつもよりひと月ほど遅れてのデビューだったが、場内は盛況。期待の高さが窺われた。
今回のもう一つの注目点は休館中にオルガンのオーバーホールが終了し、オルガンのサウンドが生き返ったこと。四千本以上のパイプを全て外し、清掃、調整と機構等の大規模補修、オリジナルサウンドを忠実に保持しながらの表現力拡大、全体調律などを約8ヶ月かけ実施したという。
その結果、個々のパイプの発声•発音がきれいになり、当然それらを積み重ねてできるハーモニーが柔らかく、美しく調和するようになり、不愉快な唸りがなくなった。パワフルな箇所でも威圧感がなくなり、サウンドのクオリティは飛躍的に向上した。
オーバーホールを担当した技術者の能力の高さも特筆すべきだろう。演奏者にとっても大きな手助けになり、音楽的なところは楽器が助けてくれ、演奏にゆとりが出てくることになる。
演奏はアンコールを除き暗譜で、完成度の高い演奏。歴代の専属オルガニストデビューリサイタルでは、多少荒削りだが今後の成長が楽しみ、という感想を持つことが多い。だが、ニコラは、すでに完成したプロフェッショナルの演奏家だ。今後の成長の楽しみよりは、どのような作品を紹介してくれるのだろうか、という期待の方が大きい。
冒頭のバッハは即興的なトッカータの第一楽章、じっくり歌い込まれたアダージョ、構築的なフーガ、それぞれの対比が鮮やか。フーガはさすがに緊張感のためかもう少し落ち着きがあればとも感じた。だが、オルガンのサウンドのクオリティが上がったことで、各声部がしっかり聴こえてきたのは驚かされた。このような明快に響いた気持ちのいいサウンドは久しぶりだ。今まで霧の中にあった曖昧なバッハ像が鮮やかに蘇ったような印象を与えてくれた。そのほかではトッカータでのペダルの演奏技術が見事で、その重低音の響きもまた素晴らしかった。
クープランは丁寧によく歌い込まれた演奏。全ての装飾音がほぼ完璧に表現され、しかも音色が実に美しい。伴奏の音色とハーモニーの美しさは格別だ。ただし、今までフランス人専属が醸し出していた微妙なニュアンス溢れる演奏を聴き慣れていたので、それに比べるとちょっと生真面目。もう少し柔軟な動きがあるといい雰囲気になりそうだ。
ヴィヴァルディ/バッハは名演だ。リズムの切れや、各楽章の表情の対比など申し分ない。一音一音のタッチがしっかりしているので、オルガンの発音が明瞭となり、音色も全体のまとまった響きも美しかった。
後半はガラリと雰囲気が変わり、ロマン派から近現代の音楽。
フランクは先日のブレハッチがピアノ編曲版を演奏し、今日はオリジナル。同じ会場で間をおかずに同じ作品を違う楽器で聴けるのはこのホールならではの醍醐味。きれいに整った演奏で、パイプで歌われる管楽器風の柔らかい音色と豊かなハーモニーの美しさは、オルガンでなければ聴くことのできない響き。フランクの上品さがよく表現されていたいい演奏だった。
アランは正確無比、細部まで完璧に整えられた演奏。作品像を徹底的に洗い出し、精密画像のように全てを鮮やかに再現していて、まるでダ•ビンチの素描を見ているようだ。このようなイメージで聴こえてきたのは初めて。名演だが、あまりにもディテールがはっきりしすぎ、様々なモティーフが聴こえすぎて戸惑うほどだ。特に三曲目の「戦い」でのバランス良い響きが見事だった。
デュリュフレでは、演奏はもっと洗練され、ディテールも完璧、それが積み重なってできる全体像も見事で、申し分ない。これほど整った演奏は歴代専属の中でも初めてだ。
アンコールにバッハの「オルガンのためのトリオソナタ第四番ホ短調」より「アンダンテ」。
特筆すべき事項がもう一つ。Kitaraのオルガンとホールの響きの一体感は全国一だと思う。今まで全国の色々なホールでオルガンを聴いてきたが、Kitaraで聴くオルガンの響きが最も素晴らしいことは断言できる。
楽器のクオリティの高さとホールの豊かな響き、この両者の一体感、マッチングは札幌の貴重な財産だ。このホールで上質のオルガン演奏を楽しむのは他では味わえない最高の贅沢である。
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