<Kitaraランチタイムコンサート>
Kitaraバロック・アンサンブル・シリーズ
トリオ・ソナタで彩る午後
2021年11月6日14:00 札幌コンサートホールKitara 小ホール
バロック・ヴァイオリン/長岡 聡季
フラウト・トラヴェルソ/北川 森央
チェンバロ/平野 智美
ヴィオラ・ダ・ガンバ/櫻井 茂
J.S.バッハ:トリオ・ソナタ ト長調 BWV1038
ルクレール:フルート・ソナタ ニ長調 作品2-8
マレ:聖ジュヌヴィエーヴ•デュ•モン教会の鐘の音
ビーバー:15のロザリオのためのソナタ「マリアの生涯の15の秘跡
の礼賛のために」よりパッサカリア ト短調
J.S.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079より
3声のリチェルカーレ ハ短調
「音楽の捧げもの」BWV1079より
トリオ・ソナタ ハ短調
プログラムの中ではバッハが別格。最後の「音楽の捧げ物」からのトリオ•ソナタは、各楽器の動きが鮮明であると同時に、それらが調和し、大きな一つの音響となってホールに響く。これはバッハの卓越した空間認識とそれを反映した書法の素晴らしさで、晩年のバッハが到達したレベルの高さと凄みに感嘆させられる。もちろんそれを見事に再現した演奏があったこそ。一瞬の油断も許されない作品に対しての高い集中力と緊張感を感じさせるいい演奏だった。録音ではわからないライブならではの世界だ。
冒頭のトリオ•ソナタは未だバッハの真作かどうか議論のある作品。「捧げ物」と比較すると、職人的なこだわりが少ないが、生命力に満ちた名曲だ。伸びやかで厚みのある演奏で、冒頭に相応しく、楽しませてくれた。
シャコンヌ風の変奏曲が二曲、ビーバーとマレー。両方ともバロック時代の作品としては有名だが、実演に接する機会は少ない。本日はとても貴重な機会だ。
無伴奏ヴァイオリンの作品、ビーバーはまさしくヴァイオリン演奏技法の見本市。わずか4つの下降音型の上によくこれだけの変奏を書いたものだ。この見本市を見事に再現した長岡の安定したテクニックと多彩な表現、そしてノンヴィブラートでの力の抜けた自然な表情が素晴らしかった。作品の真価がしっかりと伝わってきた演奏。
マレーは、ヴァイオリンとヴィオラ•ダ•ガンバとチェンバロ。チェンバロの豊穣な響きの中で、ガンバが大活躍、名技を披露して得意げな作曲者マレーの顔が想像できるような熱演。ヴァイオリンは要所で喝を入れるように鋭いリズムで引き締める役割。ビーバーもそうだが、執拗な繰り返しが続くにもかかわらず、単調にならずに高いクオリティのアンサンブルを聴かせてくれた演奏者に拍手。
この作品に限らず、櫻井のガンバは安定した技巧でアンサンブルをしっかり支えていた。柔らかい音色の楽器で、全体のサウンドの色合いを決めていたのではないだろうか。
そのほかにルクレールとチェンバロソロで3声のリチェルカーレ。
北川のルクレールでのフラウト•トラヴェルソの明るい表現が魅力的。彼の演奏は低音から高音までむらが全くなく、しかもいつも安定している。絶対音量こそ現代のフルートには負けるが、この落ち着いた柔らかい音色は、この楽器ならではの魅力だ。全体のアンサンブルの中でも存在感を示していた。
チェンバロの平野は、通奏低音でしっかりとアンサンブルを支え、この日の立役者。雄弁で即興的なアルペジオやパッセージは魅力的で、しかもタイミングがよいのでソロを邪魔することなくアンサンブル全体の表情をより豊かにしている。一方でガンバと共に核になるビートをしっかり決め、音も綺麗で、素敵な通奏低音奏者だ。ソロでは細部の仕上げが少し落ちたのが惜しまれる。
長岡、北川両氏によるお話が間に挟まり楽しかったが、楽器の話しをもう少し聞きたかった。
アンコールに「ルベル:舞曲さまざま」。全員バッハから解放され、生き生きとした楽しい演奏。
オリジナル楽器はライブがいい。それをあらためて実感した演奏会だった。
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