<Kitaraワールドソリストシリーズ>
神尾 真由子&ミロスラフ・クルティシェフ
デュオ・リサイタル
2021年11月19日19:00 札幌コンサートホールKitara大ホール
ヴァイオリン/神尾 真由子
ピアノ/ミロスラフ・クルティシェフ
シュニトケ:古い様式による組曲
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調
BWV1004
リスト:巡礼の年 第2年 「イタリア」 S.161より 第7曲
ダンテを読んで―ソナタ風幻想曲
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第9番 イ長調
作品47 <クロイツェル>
神尾は札響定期のソリストとして何度も出演しているが、ソロリサイタルは恐らく札幌では初めて。
クルティシェフは2007年チャイコフスキー国際コンクールの一位なしの第二位。経歴によるとロシアだけで教育を受けたようで、演奏は完全にロシア楽派。たっぷりとした、分厚い大きな音を出すが、充分コントロールされており、汚い響きにはならない。ピアニッシモでも音が細くならず、豊かな響きがする。このホールでこれだけの大きな音は久しぶり。
リストのソロは、豊穣な音と、自由で伸び縮みのある表情で、ロマン派にどっぷりと浸かった雰囲気のある演奏。札幌で聴く機会の多い、形を崩さない知的なリストを演奏するハンガリー楽派とは違って、形式よりはスケールの大きい豊かな雰囲気を重んじるタイプだ。チャイコフスキーやラフマニノフなどの作品を聴いているようで、リストがロシアピアノ音楽にも大きな影響を与えていたのだ、と改めて認識した次第。だが、これは教育よりは血の濃さのような気がする。
シュニトケはこのデュオの性格がはっきり現れた演奏で、クルティシェフの豊かな音と神尾のよく歌い込んだ柔らかい音が調和していて上質の音楽を奏でていた。音楽が前向きで停滞することがなく、シュニトケの多彩な顔がよく表現されていて面白かった。ただフーガのような骨格のはっきりしたフレーズの時に、ヴァイオリンの表情がやや硬くなるのが気になった。
バッハはダイナミックでスケールの大きい演奏。バロック時代の様式感を程よく把握しながらも、それに囚われすぎずに、あくまでも大ホールでしっかり響くように考慮されたタフな演奏だ。荒っぽさも多少感じられたが、バッハを通じてこういう演奏を目指すのだ、という自己主張が明確で、一本強い筋が通った気持ちのいい演奏だった。
最後のクロイツェルソナタが良かった。猪突猛進型で、抜群のリズム感と、その乗りの良さは秀悦。第一、第三楽章のエネルギッシュな演奏がその好例。ベートーヴェンの作曲当時の油の乗り切った充実ぶりを鮮やかに表現しており聴き応えがあった。クルティシェフの出す音は大きく、デュオの領域を超えていたように思える箇所もあったが、音楽的ゆえに気にならない。常にヴァイオリンと一体となり、豊かな表現力で充分すぎるサポート役。また、アンダンテで変奏曲の第二楽章では、二人の優れた音楽性とアンサンブル能力の高さを見事に示してくれた。主題でのピアノの豊かな表現、第一変奏でのヴァイオリンの三連符の歯切れの良さなどは、このデュオならではの素晴らしさだ。
アンコールが二曲、バッツィーニの「妖精の踊り」と、マスネの「タイスの瞑想曲」。これは見事。
コロナ禍以降外国人アーティストの来日が中止となり、日本人アーティストが活躍する機会が飛躍的に増えた。これはいいことだが、今回のクルティシェフのように日本人にはいないタイプの素晴らしい演奏家を聴くと、早くコロナ禍がおさまり、こういう機会がもっと増えることを期待したい。
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