2022/01/31

札幌交響楽団第642回定期演奏会


202213013:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/ユベール・スダーン
ヴァイオリン/山根 一仁
管弦楽/札幌交響楽団



ベルリオーズ:劇的交響曲「ロメオとジュリエット」より「愛の場面」伊福部 昭:ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲
シューマン:交響曲 番 


当初発表のマティアス・バーメルトは、「オミクロン株に対する水際措置の強化」による外国人の新規入国停止措置が継続されたことにより入国が困難となりました。(主催者発表)

 

 山根が共演した伊福部が名演。第二次世界大戦終了直後の1948年に作曲されたヴァイオリン協奏曲を51年に改作し、その後幾度か改訂を加え71年に最終稿が完成したもの。

 力感あふれるモティーフ(ゴジラのモティーフも登場する)や執拗なオスティナートリズム、オーケストラがストレートに響くダイナミックな管弦楽法など、そのスケールの大きな音楽は伊福部ならではの強烈な個性を感じさせる。大地に根ざした逞しさがあり、ロシア楽派にも通じる世界観を持った素晴らしい音楽だ。


 山根のソロは切り込みの鋭い求心的な演奏で、一瞬たりとも弛緩することがない。ソフィストケートされた表情と、同時に土臭い逞しさを感じさせる活力と力強い表現力もある。特に、冒頭のヴァイオリンの長いソロは、ヴィブラートを可能な限り避け、透き通ったハーモニーを生み出しながら、表現力のある推進的な音楽で聴衆を惹きつけた。今までにはない、すっきりとした斬新で明快な表現だ。

 演奏によっては単調さを感じさせるところもある作品だが、スダーンの指揮は山根と共に鋭い、隙のない音楽を作り上げ、オーケストラを充分すぎるほどよく響かせ、この作品を新たにしかも見事に蘇らせた。

 余計な贅肉を削ぎ落とし、現在に生きる新しい伊福部像を鮮やかに示してくれた名演だ。

 なお、2月8日に、同じ出演者で東京公演(サントリーホール19:00)が予定されている。


 冒頭のベルリオーズは、バーメルトであれば、もっと弦楽器を深く柔らかい音色で歌わせたのだろうが、スダーンは淡白であっさりとした仕上げ。作品のロマンティックな背景はあまり感じさせないが、作品の骨格をきちんと明確に示した演奏だ。


 シューマンは全体を隙なくまとめ上げた、引き締まった演奏。整った様式感があり、安定感がある。ティンパニーが下手第一ヴァイオリンの最後の列すぐ隣に置かれ、いつもとは違う、クリアだが独特の響き。特に第4楽章フィナーレで力強く、よく通る抜ける響きで効果的な役割を果たしていた。

 シューマン独特のロマンティックな世界を描いた第楽章は比較的あっさりとした歌い方。管楽器のソロが飛び出ることなく、全体のハーモニーの響きの中で表現されており、このバランス感覚は見事。これがスダーンの音楽なのだろう。バーメルトとはまた違う、やや硬質だがまとまりある響きが魅力的な演奏だった。


 蛇足だが、このシューマン交響曲第2番はPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)が札幌で始まった1990年、故バーンスタインがPMFオーケストラを指揮し、旧札幌市民会館で演奏した作品で、その時のリハーサル風景と本番の演奏が「バーンスタイン最後のメッセージ」としてビデオディスクで発売されている。特に第楽章のリハーサルは今見ても感動的である。当時のバーンスタインの実演に接し、この時代を知る世代にとっては思い出深い作品だ。

2022/01/25

 Kitaraランチタイムコンサート>

金子 三勇士のきがるにクラシック

202212313:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール


ピアノ/金子 三勇士


ショパン:12の練習曲 ハ短調「革命」作品10-12

     24の前奏曲より変ニ長調「雨だれ」作品28-15

     ワルツ第6番 変ニ長調「子犬」作品64-1
ドビュッシー:ベルガマスク組曲より 3曲「月の光」

バルトーク:ルーマニア民族舞曲 BB 68
リスト:パガニーニによる超絶技巧練習曲集より

     第3番「ラ・カンパネラ」S.141/3 

    ハンガリー狂詩曲第2番 嬰ハ短調 S.24


  お話付きの約一時間のコンサートFM放送番組の司会を担当しているだけに、話はよどみなく、聞きやすい。 

 話題は多種多彩だが、母親がハンガリー人で、アイヌ民族の子守唄とハンガリー民族の子守唄にとても多くの共通点があり、祖母が実際にうたって聞かせてくれた、という音楽に関するテーマがやはり興味深く、楽しい。

 全体的にはプロの音楽家ならではの話題がもっと多い方が、演奏会を聴く楽しみが増えるのではないか。

 

 演奏は第一線で活躍しているだけに安定しており、かつ楽譜にとらわれずに自由に弾いているところもかなりあり、聴き手を飽きさせない。


 最も優れていたのはバルトーク。舞曲のリズム感など、明確なオリジナリティが感じられ、バルトークならではの内に込められた情熱が熱く表現された重量感のある演奏。ハンガリーの血筋を感じさせた名演で、他の演奏家からは聴けない充実した内容だった。


 「雨だれ」、「月の光」、アンコールのショパンの「ノクターン嬰ハ短調遺作」など、静かな作品は、音色がよく磨かれていて美しい仕上がり。一方、技巧的な作品では、特に最後の「ハンガリー狂詩曲第2番」が良かった。次から次へと現れる様々なテーマが、リズミックで切れ味良く個性豊かに描かれ、それらを鮮やかな技巧でまとめ上げた、聴き応えのある演奏だった。

 お話にもあったように、本日の使用楽器はKitaraで数台所有している中で、最新のスタインウェイ。いい音が出ていた。


 ただ、作品の内容をよりわかりやすく伝えよう、というサービス精神旺盛のためか、技巧的な作品では力み過ぎ音が濁ったり、静かな作品では音楽の流れが停滞してしまうところもあった。優れた音楽性とテクニックを持っている有能な演奏家なので、力み過ぎずに普通の演奏をするだけでも、聴衆を魅了させるいい演奏になるのではと思う。


 オリジナリティのあるいいピアニストだ。今後の活躍が楽しみ。

 

2022/01/24

オルガンミュージアムへようこそ


202212214:00開演 札幌コンサートホールKitara大ホール


オルガン/吉村 怜子
ナビゲーター/山田 美穂


ヴィエルヌ:幻想的小品集より 太陽への賛歌 作品53-3

               水の精 作品55-4

               月の光 作品53-5

               鬼火 作品53-6
               ウェストミンスターの鐘 作品54-6 


    2018年から取り組んでいる子ども向けのエデュケーションプログラム。
 今年はコロナ禍のため「オルガンミュージアムへようこそ」として演奏会形式で開催したが、本来は「ひろがる、つたわる、オルガンのひびき」のタイトルで、大リハーサル室と大ホールの2台のオルガンを活用して行う事業。
 これは丁寧に作り上げたいいプログラムで、コロナ禍が落ち着いたら是非再開を期待したい。


 ステージ上に大きなスクリーンを設置し、演奏作品タイトルやオルガンの演奏の様子、ナビゲータの説明資料などを投影。

 今回は演奏の様子を写すメインのカメラ位置がいつもより上。そのため、4段鍵盤を弾きわける様子、カプラーが入って下鍵盤を弾くと同時に上の二つの鍵盤も連動して動く様子などが、見やすくクリアに捉えられていた。また、ペダルの演奏の様子や、やや下方から写すカメラも効果的で、映像がより工夫されている点が良かった。この視覚的効果は大きく、聴衆は皆引き込まれていたようだ。


 最初に「太陽への賛歌 」が演奏され、それからナビゲーターの山田美穂とオルガニストの吉村怜子によるお話があった。二人とも「ひろがる、つたわる、オルガンのひびき」の初回からの出演者で、オルガンや作品の紹介は手慣れており、明快でわかりやすい。


 演奏は安定しており、オルガン音楽の魅力をしっかり伝えてくれた。「水の精」、「鬼火」は細部までよく弾き込まれたクリアな演奏で、題名を想起させる雰囲気がよく出ていた。子供たちもイメージしやすかったのではないか。最後の「ウェストミンスターの鐘 」はスケールの大きな演奏で、映像と一緒に鑑賞するとその魅力が倍増し、とても楽しめた。

 

 ヴィエルネだけに絞った選曲は中々良かった。近代的な響きがする作品ばかりなので、子供達には新鮮に聴こえたと思う。親子連れが多く、小学校低学年の子供達が沢山いたが、皆静かに鑑賞をしていた。

 約50分のプログラム。子供向けオルガン入門コンサートとしては内容も長さもちょうどいい。大人が一人で来場していた例もいくつか見られ、ぶらりと気楽に来場する初心者向けコンサートとしても活用可能だ。

2022/01/16

 Kitaraランチタイムコンサート>

筑前琵琶で言祝ぐはつ春

〜人間国宝が紡ぎ出す音色と語りの至芸〜


202211513:00   札幌コンサートホールKitara小ホール


筑前琵琶/法和院 奥村 旭翠(人間国宝)
プレトーク/尾藤 弥生(北海道教育大学教授)


「平家物語」より 抜粋/初世  旭宗作曲:那須與市
大坪 草二郎作詞/初世  旭宗作曲:茨木




定例の小ホールでの邦楽ニューイヤーコンサート、今回は筑前琵琶で、ソールドアウト。

 琵琶の歴史は奈良時代から始まる。時代とともに改良発展し、主に現在5種類の楽器とジャンルが存在し、筑前琵琶が登場したのは明治時代中期頃。

 声楽はメリスマの多い装飾的な旋律で、琵琶は語り唱えながら演奏するための伴奏楽器(以上配布プログラム解説より)。


 Kitara主催で琵琶が登場する演奏会は過去にもあったが、人間国宝の演奏者によるソロの演奏会は初めて。


 琵琶はバチではじいて演奏するので、力強い音も出せ、表現の幅は広い。三味線と共通の音色も持っているので、庶民から貴族まで幅広い階級で愛好され続けたのに違いない。

 奥村旭翠の歌は、歌詞の明瞭さ(歌詞が添付)、表現力、声量、声の質、音程、リズム、メリスマの美しさなど、どれもハイレベルで、心に迫る感情表現が素晴らしい。琵琶は微妙なニュアンスからドラマティックな表現まで実に多彩に表現されており、申し分ない。凛とした美しさがあり、喜怒哀楽のドラマを一人で演じ切るこのジャンルならではの醍醐味を十分味わうことが出来た演奏だった。


「那須與市」は淡々と進む語りが魅力的。矢を射った瞬間とその後の喝采のドラマに至る過程が印象的でわかりやすい。その後、演奏者によるお話しがあり、楽器と人間国宝についてユーモアいっぱいに大阪弁で話してくれ、これは楽しかった。2曲目の「茨木」は演奏者が是非聴いていただきたい作品とのこと。鬼の腕を奪って逃げるシーンや、随所で登場した筑前琵琶の長い素晴らしいソロもあり、これは思わず惹き込まれるような素晴らしい演奏だった。

 アンコールに平家物語の有名な冒頭から一節。


 コンサートホールで演奏される邦楽は、例えば武満徹に代表される西洋と日本がコラボレーションした作品が中心だったが、今日のような純邦楽は日本人であるアイデンティティを感じさせ、心に響くものがあって、とてもいい。

 ステージは屏風と毛氈が設置されており、いつもの小ホールとはちょっと趣の違う雰囲気でこれもなかなかいい。 Kitara小ホールは今日のような邦楽ソリストだけの演奏会でも、とても良く響く雰囲気のある良質なホールであることを改めて認識した。


 このシリーズの前回に登場した(令和2年1月)邦楽四重奏団もクオリティの高い演奏家集団で、邦楽の世界の魅力をたっぷり紹介してくれた良質なコンサートだった。特に尺八のソロは、Kitara小ホール演奏史に残る名演だったと言える。

 このシリーズは新しい発見もある楽しいコンサートなので、今後も邦楽の優れた演奏家の招聘を期待している。

2022/01/09

Kitaraのニューイヤー


2022年1月8日15:00  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/齋藤友香理 ソプラノ/冨平安希子 テノール/宮里直樹

管弦楽 札幌交響楽団


ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲

チャイコフスキー:バレエ組曲「白鳥の湖」作品20a より


レハール:喜歌劇「微笑みの国」より

     序曲

     私たちの心に愛を刻んだのは誰?/君こそ我が心のすべて

     今一度ふるさとを


レハール:喜歌劇「メリー・ウィドウ」より

     ワルツ(舞踏会の妖精たち)

     おお我が祖国よ/ヴィリアの歌/唇は語らずとも


シュトラウス2世:観光列車 作品281/常動曲 作品257

          美しく青きドナウ 作品314


    指揮者は札幌初登場の齋藤友香理。三十代の若手で、日本でオペラデビューするなどある程度活躍した後、2013年からドレスデンで研鑽を積んでいる。その成果なのか、ヨーロッパナイズされた雰囲気の、柔らかく、暖かい音楽を奏でる。しかもオーケストラを豊かに響かせるので、とても聴きやすい優しいサウンドが聴こえてくる。これは女性指揮者だから、ということではなく、この指揮者の優れた特質だ。


 オペラでデビューしただけに、後半のレハールがよかった。

「メリー・ウィドウ」からは絶好調で、特にワルツ「舞踏会の妖精たち」はオーケストラを伸びやかなサウンドでよく歌わせ、華やかさと繊細さがバランス良く表現された素敵な演奏で、今日一番の出来だ。

 テノールの宮里直樹とソプラノの冨平安希子を迎えてのソロ、デュエットは歌もオーケストラのバックアップも申し分なく、好演。テノールの宮里はさすがの歌唱で、声量も表現も一級品、冨平は中音域がオーケストラに埋もれて、ちょっと聴きにくかった他は、見事な歌唱。ともに聴衆を魅了した。

 「微笑みの国」は演奏される機会は少ないが、指揮者の思い出の曲らしく、序曲も歌もいずれも上質の演奏で、楽しめた。


 最後の「美しく青きドナウ」は、この指揮者らしく、丁寧に細部まできちんと仕上げた演奏。シンフォニックでしっかりとした響きと、柔らかいワルツのリズムがよかった。


 前半のプログラムでは、冒頭のウェーバーは少々緊張気味で、指揮者とオーケストラの探り合いのような雰囲気もあったが、ホルンの秀逸なソロなど、管楽器群の活躍もあって、伸びやかで、冒頭にふさわしい演奏だった。


 チャイコフスキーは、バレエ公演のために演奏しているような全体的に遅めのテンポ。コンサートでは組曲版は早めのテンポで演奏される場合が多いが、今日のようなバレエを想定させるテンポだと、じっくり作品を味わうことができ、同時にバレエの色々なシーンを想像しながら聴けるので、面白さが倍増する。

 ただし、今回は音楽だけを鑑賞する機会なので、そうするとダンサーのステップに合わせていくようなテンポ感だと、聴いていてやや物足りない。ベテラン指揮者のような、オーケストラを一気にドライブしていくようなスケール感があるともっと楽しめたのでは。


 全体的には、繰り返しが多い作品では単調になりがちなところもあったが、音楽性の豊かな指揮者で、共演者がいるジャンルでより力を発揮するタイプか。今ならオペラで一歩抜きん出たいい仕事をしそうだ。将来期待できる指揮者だと思う。


 今回のようにニューイヤーコンサートに若手指揮者が登場するのは楽しい。プログラミングが独創的だし、オーケストラからいつもとは違う新しいサウンドを引き出してくれるのが魅力だ。

 コンサートマスターは田島高宏。随所で聴かせたソロが良かったが、やはり彼がいると札響の音全体が締まっていい。そしてホルン、オーボエ、トランペット、フルートの女性奏者が大活躍。いいソロを聴かせてくれた。

2022/01/03

 

回想の名演奏

高関健指揮札幌交響楽団 第546回定期演奏会

メシアン:「トゥーランガリラ交響曲」


2012年2月11日15:00  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮:高関健  ピアノ:児玉桃  オンド・マルトノ:原田節

管弦楽:札幌交響楽団


 

 Kitaraの大ホールに、これ以上ない、と思わせるほど豊穣なサウンドを響かせた演奏会がメシアンの「トゥーランガリラ交響曲」。

 この作品の演奏会は過去Kitaraで2回あり、初回は(同時に北海道初演)、2008年7月12日、PMFオーケストラの演奏会で、このときの指揮者は準・メルクル、ピアノソロがピエール=ロラン・エマール、オンド・マルトノが原田節。今回紹介する札響定期は2回目。

 

 2回ともKitara演奏史上語り継がれるべき名演奏だ。まず北海道初演となったPMFオーケストラの演奏は、ステージ狭しと並んだPMFの学生達の若さいっぱいのサウンドが素晴らしく、ともかく華麗で鮮やかなメシアンだったと記憶している。

 準・メルクルは解釈云々よりも、まとめ上げる方に主眼を置いていたようだ。オンド・マルトノの不思議な音色も面白かったが、ピアノソロのエマールが全曲暗譜で演奏していたのには驚かされた。


 Kitara大ホールに開館以来初めてとも思われる豊かな響きが広がり、北海道初演にふさわしい見事な演奏だった。この作品の実演を聴いたのは初めてで、編成の大きな作品や現代音楽はライヴで聴かないと、その本質がわからないことを実感させられた演奏会でもあった。


 一方、札響の演奏は常設オーケストラとしてのまとまった響きとアンサンブルの安定度に、一日の長があった。PMFオーケストラは、オーケストラ・スタディを一つの目標として、世界中から集まった学生達で編成される。優秀な若手奏者達だが、短期間の臨時編成のオーケストラだけに、熟成度、オリジナリティを持てるようになる時間がないのは当然だ。


 もう一点は高関の指揮。札響とは長い年月交流があり、お互いに気心の知れた仲だ。この信頼関係が演奏に反映されたのでは、と思われる。彼の基本的姿勢である、決して派手ではないが、作品の姿をできるだけ忠実に、きちんと丁寧に仕上げていく姿勢はこのメシアンにも見られた。エネルギーではPMFオーケストラに譲るが、作品の全体像を俯瞰し、その本質に迫る、という点では札響の方がより説得力のある演奏だった。


 ピアノソロは児玉桃。PMFのエマールはオーケストラとの一体感が強かったように記憶しているが、児玉のソロは、ソリスティックで、オーケストラとの対話に重点を置いた演奏だった印象が強く残っている。どちらも甲乙つけ難い素晴らしい演奏だった。

 ホール中に広がった札響のダイナミックな響きは、PMFオーケストラとはまた違った魅力のあるサウンドだった。


 それにしてもこれだけの大曲を、札幌でわずか4年の間に2度も聴けるとは思ってもいなかった。PMFオーケストラはいつも大編成の作品を演奏するので、ある程度予想がつくが、札響がこれだけの大曲を定期で取り上げ、しかも作品に対して怯むこともなく、高い完成度で演奏したことに少々驚いた。札響が日本のトップクラスのオーケストラと肩を並べるレベルまで到達しつつあることを実感した演奏会でもあった。

 また、この定期は高関が札響正指揮者として最後の演奏会だった。

任期は2003年から12年まで。ちょうど過渡期でもあった札響のレベルを引き上げた功労者だと思う。高関の指揮は真面目で誠実。いつも安心して聴くことができた。


 一方でPMFオーケストラ演奏会は、大編成ゆえにこのオケでしか聴けない作品が数多く演奏され、Kitaraでの演奏史に大きな足跡を残している。それについてはまた改めて紹介したい。