札幌交響楽団第642回定期演奏会
2022年1月30日13:00 札幌コンサートホールKitara大ホール
指揮/ユベール・スダーン
ヴァイオリン/山根 一仁
管弦楽/札幌交響楽団
ベルリオーズ:劇的交響曲「ロメオとジュリエット」より「愛の場面」伊福部 昭:ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲
シューマン:交響曲 第2番
当初発表のマティアス・バーメルトは、「オミクロン株に対する水際措置の強化」による外国人の新規入国停止措置が継続されたことにより入国が困難となりました。(主催者発表)
山根が共演した伊福部が名演。第二次世界大戦終了直後の1948年に作曲されたヴァイオリン協奏曲を51年に改作し、その後幾度か改訂を加え71年に最終稿が完成したもの。
力感あふれるモティーフ(ゴジラのモティーフも登場する)や執拗なオスティナートリズム、オーケストラがストレートに響くダイナミックな管弦楽法など、そのスケールの大きな音楽は伊福部ならではの強烈な個性を感じさせる。大地に根ざした逞しさがあり、ロシア楽派にも通じる世界観を持った素晴らしい音楽だ。
山根のソロは切り込みの鋭い求心的な演奏で、一瞬たりとも弛緩することがない。ソフィストケートされた表情と、同時に土臭い逞しさを感じさせる活力と力強い表現力もある。特に、冒頭のヴァイオリンの長いソロは、ヴィブラートを可能な限り避け、透き通ったハーモニーを生み出しながら、表現力のある推進的な音楽で聴衆を惹きつけた。今までにはない、すっきりとした斬新で明快な表現だ。
演奏によっては単調さを感じさせるところもある作品だが、スダーンの指揮は山根と共に鋭い、隙のない音楽を作り上げ、オーケストラを充分すぎるほどよく響かせ、この作品を新たにしかも見事に蘇らせた。
余計な贅肉を削ぎ落とし、現在に生きる新しい伊福部像を鮮やかに示してくれた名演だ。
なお、2月8日に、同じ出演者で東京公演(サントリーホール19:00)が予定されている。
冒頭のベルリオーズは、バーメルトであれば、もっと弦楽器を深く柔らかい音色で歌わせたのだろうが、スダーンは淡白であっさりとした仕上げ。作品のロマンティックな背景はあまり感じさせないが、作品の骨格をきちんと明確に示した演奏だ。
シューマンは全体を隙なくまとめ上げた、引き締まった演奏。整った様式感があり、安定感がある。ティンパニーが下手第一ヴァイオリンの最後の列すぐ隣に置かれ、いつもとは違う、クリアだが独特の響き。特に第4楽章フィナーレで力強く、よく通る抜ける響きで効果的な役割を果たしていた。
シューマン独特のロマンティックな世界を描いた第3楽章は比較的あっさりとした歌い方。管楽器のソロが飛び出ることなく、全体のハーモニーの響きの中で表現されており、このバランス感覚は見事。これがスダーンの音楽なのだろう。バーメルトとはまた違う、やや硬質だがまとまりある響きが魅力的な演奏だった。
蛇足だが、このシューマン交響曲第2番はPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)が札幌で始まった1990年、故バーンスタインがPMFオーケストラを指揮し、旧札幌市民会館で演奏した作品で、その時のリハーサル風景と本番の演奏が「バーンスタイン最後のメッセージ」としてビデオディスクで発売されている。特に第3楽章のリハーサルは今見ても感動的である。当時のバーンスタインの実演に接し、この時代を知る世代にとっては思い出深い作品だ。
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