山田 和樹指揮 横浜シンフォニエッタ
2023年3月17日19:00 札幌コンサートホールKitara大ホール
指揮/山田 和樹
ヴァイオリン/川久保 賜紀
管弦楽/横浜シンフォニエッタ
小田 実結子:Olive Crown(新作初演)
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 作品92
横浜シンフォニエッタは常設ではないが、集中力のある、上質の高い水準のオーケストラだ。山田の手兵のオーケストラだけあって、自分のやりたい事を全部やり遂げたというコンサート。他のオーケストラでは見せない素顔の山田和樹を見たようで、(ビジターのオケでも同じだとすれば凄い)実に楽しいコンサートだった。
小田の新作は山田の指揮姿を思い浮かべながら作曲した作品だそう。明確な調性のあるクラシックなスタイルの作品で、明るく屈託がなく、気軽に聴ける親しみやすい作風の作品。そのイメージ通りの、生き生きとした、冒頭に相応しい演奏だったのではないか。
ブラームスは、川久保と一身一体となった、これぞ協奏曲、とも言いたくなる素晴らしい演奏だった。川久保は勿論のこと、山田もともかくよくオケを歌わせ、無機的なフレーズは全く無い、実に感性豊かな演奏だ。
第1楽章は、語りかけるように細部まで繊細に表現した、柔らかい表情の演奏。ヴィルティオーゾ的なスケール感より音楽性を重視した解釈で、実に表情豊か。続く第2楽章も同様に、時間をたっぷりかけ、良く歌い込み丁寧に仕上げた演奏で、なかなかこのようなブラームスは聴けるものではない。普通の指揮者なら、さっと進んで先に行ってしまう所も、ソリストとともに時間をかけて仕上げていき、その統一感は見事だ。
第3楽章は対象的にソリスト共々力感あふれる演奏。川久保の冒頭のテーマの骨太で、たくましい演奏に応えて、オーケストラを力強く響かせ、フィナーレに相応しい演奏だった。
第1、2楽章を丁寧に仕上げた分、全体的に長めになるかと思えた演奏時間だが、意外にもほぼ標準的な尺に納まっており、これは2人の全体のまとめ方のうまさのためでもあろう。
ソリストアンコールにバッハの無伴奏パルティータニ短調よりサラバンド。語りかけてくるような繊細なバッハだった。
ベートーヴェンはやはり山田の個性が発揮された好演。おそらく即興的に色々表現を変えたり,テンポを動かしたりしているのだろう、ところどころにオーケストラの乱れが散見したが、スフォルツァンドなどの強烈なアクセントや大胆なクレッシェンド、きめ細かいピアニッシモなど、やや大袈裟か、と思えるほど強弱の幅が大きい表現。
10型編成ゆえの細かい小回りの効いた演奏で、古楽器オーケストラを想起させるような器用さも感じさせ、その歯切れの良い、力強く生き生きとした表現は聞き応えがあった。聴き手の気持ちを一瞬たりとも逃さないエネルギッシュな指揮で、視覚的にも楽しめた演奏だった。
アンコールはベートーヴェンの第2番交響曲から第4楽章。陰影がはっきりしていて、均整感のある、切れ味鋭い即興風の演奏で、かつて聴いた小澤征爾の指揮ぶり(2015年松本)を思い出させる音楽作りだ。ちょっとやり過ぎか、とも思えたが、ただ第7番同様に、そこが嫌味にならずに、説得力ある演奏に聞こえてくるところが山田の素晴らしい所だ。
最初と後半始めには指揮者のプレトークがあり、札幌に関係ある団員を紹介するなど、お話も親しみやすく、手慣れている。
スター性もあり、これからどのような指揮者になっていくのか、とても楽しみな逸材。次回は札幌交響楽団と一緒に聴いてみたい。