hitaruオペラプロジェクト
モーツァルト「フィガロの結婚」
2023年2月 28日14:00 札幌文化芸術劇場 hitaru
【公演日程】
2023年2月26日(日)・28日(火) 各日 14:00
【指 揮】奥村哲也
【キャスト】(ダブルキャストは26日/28日)
アルマヴィーヴァ伯爵:岡元敦司/門間信樹
伯爵夫人:倉岡陽都美/石岡幸恵
スザンナ:三浦由美子/倉本絵里
フィガロ:大塚博章/三輪主恭
ケルビーノ:川島沙耶/吉田叶倫
マルチェッリーナ:小平明子
バルトロ:葛西智一
バジーリオ:岡崎正治/川村春貴
ドン・クルツィオ:長倉駿
バルバリーナ:西海綾香/矢野愛実
アントーニオ:小野寺陸
花娘:水上千聖、小林愛果/中陳寿枝、尾﨑あかり
【管弦楽】札幌交響楽団
【合 唱】hitaruオペラプロジェクト「フィガロの結婚」合唱団
演出:三浦安浩
美術:松生紘子
照明:成瀬一裕
衣裳:坂井田操
振付:桝谷まい子
舞台監督:齋藤玲(札幌文化芸術劇場hitaru)
技術監督:尾崎要
副指揮:江川佳郎、塚田馨一
演出助手:山田かおり
コレペティトール:伊藤千尋、鎌倉亮太、松岡亜弥子
札幌文化芸術劇場hitaruが初めて自主制作した公演。北海道在住またはゆかりのあることを条件に出演者を募集、キャスト・合唱ともオール北海道だそうだ。
初日26日は完売で、今回鑑賞した28日は2日目の公演。平日昼ということで空席があったにせよ、2公演が滞りなく終了、まずは大きな拍手を贈りたい。
配布プログラムに掲載された演出の三浦の解説によると、舞台は19世紀末ロシア革命前夜に設定。北海道を意識した北国らしさも取り入れたそうだ。
セットは舞台中央にアルマヴィーマ伯爵の館が配置されている。比較的コンパクトで天井のない、オープンスタジオ風のスタイルで、出演者はここで演技をする。
北国らしさでは、伯爵家の庭園にポプラが、そして第4幕での設定が吹雪の中の庭になっていたことか。
正直言って、半年近くも雪の中で暮らす北海道人にとって、この設定は大して魅力を感じない。北国らしさは他にもあるのでは。
序曲では、黄金の馬車が登場、これは三浦の解説によると、伯爵夫人とスザンナにしか見えない愛の象徴だそう。これは以後も登場し、2人だけにしか見えない設定にしては、存在感が抜群。さらにバレエも登場するなど、幕が開いた後も、全体的にかなり饒舌な語り口の舞台だ。
少々下品なスーツ姿の謎めいた女性4人組や、伯爵夫人とスザンナを見守る先代伯爵の亡霊?が登場し、目まぐるしい。この作品であれば、オリジナルにない人物をわざわざ登場させなくとも、音楽が心理状況を充分表現していると思うが。
第1幕は登場人物が多過ぎて、煩わしかった。比較的オリジナルに近い最小限の登場人物だけの第2幕が音楽的にも安定していたのでは。
第3幕、4幕は続けて上演。歌手も場内の雰囲気に慣れてきたのか、声もよく響くようになり、このオペラの醍醐味が伝わるようになってきた。第4幕は頻繁に場面転換し、次の舞台はどうなるのか、と楽しみはあったが、正直言って音楽に集中できず、ちょっと落ち着かなかった。
指揮の奥村は初めて聴く指揮者。おそらく札幌初登場か。全体的に無理のない無難な仕上げ。札響の響きはきれいで良かったが、ところどころ、リハーサル不足の感があるのは否めない。前半では、歌手との呼吸が今一つ揃っていない箇所が多いのが少し気になったことと、オーケストラからどのような表現を引き出したいのか、よく伝わってこなかったのが残念だったが、3幕以降、やっと調子に乗ってきたようだ。
演出が人物の個性を明確に描いていたのに対して、音楽の表現は多少物足りなさを感じさせ、場面ごとの音楽描写がもう少し明確であれば、聴衆にもっとこの作品の面白さが伝わったのではないか。
レチタティーフを受け持ったチェンバロの鎌倉が大活躍。歌手をよく聞き、きめ細かい配慮がある表情豊かな演奏。もっと強引にリードしても良い箇所もあったにせよ、とても良かった。
歌手陣は、フィガロの三輪、スザンナの倉本とも大活躍。ケルビーノの吉田も熱演。伯爵の門間、同夫人の石岡の2人は歌のスケール感、存在感があり、演出にもよるのだろうが、伯爵夫妻が中心にドラマが展開した公演だった。
貴重なアリアを歌ったマルチェッリーナの小平、バジーリオの川村は大健闘。バルバリーナの矢野は、第4幕の唯一のアリア含め貴重な脇役を演じ、印象に残った。その他の歌手陣も演技含め好演。合唱は、引き締まっていて良かった。
カット無しの全曲上演で、公演時間は休憩入れて4時間。
この作品に限らず、モーツァルトのオペラは音楽そのものを語らせた方が、いい上演になることは間違いない。舞台や演出に色々な意味を持たせるのはもちろん鑑賞に幅が広がり、意義があるが、全体的に演出に負けないだけの音楽の表現力をもっと高めると、今後もっと素晴らしい上演となるのでは。
本格的オペラを一本制作することは時間と経費とマンパワーが限りなく必要だ。制作スタッフの気が遠くなるほどの努力に敬意を表しつつ、次回をまた期待したい。
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