〈Kitaraアフタヌーンコンサート〉
ハンブルクトリオ
2023年6月10日14:00 札幌コンサートホールKitara小ホール
ハンブルクトリオ
ヴァイオリン/塩貝 みつる
チェロ/ウルリッヒ・ホルン
ピアノ/エバーハルト・ハーゼンフラッツ
シューベルト:三重奏曲「ノットゥルノ」変ホ長調 作品148(D897)
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第4番 変ロ長調 「街の歌」 作品11
滝 廉太郎:荒城の月
シェーンベルク/シュトイアーマン編曲:浄められた夜 作品4
外来演奏家によるピアノトリオをKitaraで聴くのは久しぶり。常設のピアノトリオだと、開館年の1997年のボザールトリオ以来か。
今日のハンブルクトリオは上質で、とてもいいバランス感覚を持ったアンサンブル。
ヴァイオリンとチェロはともに低音から高音まで音質にむらがなく、音色と音程がきれいで、いい感性の持ち主だ。
両者のハーモニーの感覚もよく、美しく調和しており、申し分ない。
ピアノは程よい音量で2人の弦楽奏者と絶妙な距離感を取り、アンサンブルの核となりながらも決して表に出過ぎることがない。この辺りのセンスは、常設のトリオならではの魅力だ。
シューベルトはこのトリオのセンスの良さが光った演奏。わずか10分程度の時間の中に、晩年のシューベルトの創作のエッセンスが凝縮された作品で、静かに絶え間なく湧き出てくる美しい楽想が魅力的。
ヴァイオリンとチェロがその楽想をいい感性で演奏、かつ両者のハーモニーが美しく調和していてこれは素晴らしかった。その響きを聴きながら静かにピアノが対話を進めて行き、なかなかいい雰囲気の、印象に残る演奏だった。
ベートーヴェンは、オリジナルはクラリネットとチェロとピアノの編成だが、今日はクラリネットパートをヴァイオリンで演奏。違和感は全くない。
3人とも明るい音色と生き生きとした表情で、若々しい感覚に満ちたこの作品を鮮やかに再現、実に楽しい演奏だった。ピアノが多彩な音色で、ソロとアンサンブルパートを見事に弾き分けており見事。おそらくベートーヴェン自身が演奏するために華やかに作曲したピアノパートだが、語り過ぎないようにバランスよくまとめ上げており、室内楽としての高い完成度を示してくれた演奏だった。
滝廉太郎は、今日のプログラムの中では、ちょっと異質だが、塩貝のトークによると、ヨーロッパでもシェーンベルクの前に、作品の内容を説明して演奏したことが何度もあるそうだ。
「荒城の月」が滝の留学先のライプツィヒで作曲され、そこで初演されたという話は初めて。物の本で調べてみると、1901年作曲で、ちょうど滝廉太郎は当地に留学中で年代的には合う。資料によっては日本で作曲された、と書いてあるものもあり確認が必要だとしても、これは興味深い話題。演奏はピアノが多彩な動きで、様々な変化をつけ、面白かった。
最後のシェーンベルクは、濃密なロマンティシズムに満ちた作品を品よくまとめ上げた演奏。この作品には様々な版があって、弦楽合奏だと錯綜し過ぎてわかりにくい箇所も、ピアノトリオ版だとすっきりと作品の構造が見えてきて、個人的には最も好きな編成だ。
ピアノトリオ版はおそらくKitara初演だろう、様々なモティーフや各パートでの絡み合いをわかりやすく表現しており、作品紹介には最適の演奏。微に入り細に入り、とても表情豊かな演奏だったが、神経質になり過ぎず、また過度にロマティックにもなり過ぎずに作品の内容を余すところなく伝えてくれたのではないか。弦楽器の厚すぎない表現と、ピアノの存在感ある表情がちょうど良いバランスで聴こえてきて、心地良かった。
アンコールのラフマニノフのヴォカリーズの方がシェーンベルクよりロマンティックで濃密な演奏で、その対照が面白かった。その他に浜辺の歌。
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